第57話 好物×好物
火曜日、透子はいつものように高山柚月のマンションのインターホンを鳴らした。
「こんにちは。春野です」
「はーい、どうぞー」
ドアが開くと、柚月がふわりと笑顔で迎えてくれる。その様子に、透子も自然と表情が和らぐ。
「本日もよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、楽しみにしてました」
エプロンを整え、透子はさっそくキッチンに立つ。
「本日のメニューは、豆腐グラタンです」
「豆腐グラタン?」
「はい。チーズをたっぷり使いながらも、中身を豆腐にすることで、カロリーを抑えつつ満足感のある一品になっています。名取様から、高山様はチーズがお好きだと伺いましたので」
「そうだったんですか。美鈴、流石わかってる!チーズ大好きだし、気を使ってもらってありがたいです」
「カロリーは女の敵ですからね。減らせれる所は減らして、食べたいもの食べるのが一番です」
「間違いない!」
柚月は嬉しそうに笑い、キッチンのそばに腰かけて透子の手元を見つめた。
「そういえば……」
グラタンの準備を進める透子に向けて、柚月がふと口を開く。
「前回のチョコレートの話ですが、持ってきてくれましたか?」
「もちろんです。ちょうど運よく見かけて、私の一番のお気に入りをお持ちしました」
「ホントですか!楽しみです。私もきちんと準備してきました」
柚月がカバンから小さな紙袋を取り出す。
「じゃーん、『ガナッシュ・ブランシュ』っていうホワイトチョコの専門店のチョコなんですけど、めちゃくちゃまろやかで、口どけが神なんですよ」
「ホワイトチョコレートですか。専門店なんてあるんですね。こちらは——」
透子も自分のバッグから、シンプルな和紙包装の小箱を取り出す。
「『黒糖カカオ』という、沖縄黒糖とビターカカオの組み合わせです。甘さ控えめで、でもコクがあるんです。お茶にもコーヒーにも合います」
「そうなんですね。初めて見ました」
「好きなんですが、いつでも買えるわけじゃなくて。ちょうどショッピングモールで沖縄の物産展をやっていて、そこで見かけたので」
「うわ、パッケージからもう通って感じします。なんか、私の選んだやつがミーハーに見えてきた……」
「いえいえ、好みはそれぞれですから。ホワイトチョコはあまり食べないので、新鮮ですごく楽しみです」
「ほんとですか? あーよかったー。春野さんに変なの選んだって思われたらどうしようかと」
「そんなこと思いません。むしろ、チョコレートの好みにはその人らしさが出ますから」
「じゃあ私って、甘党でかわいい感じってことですかね?」
「ふふ……明るくて素直な方、という印象ですね」
「それ、褒めてますよね?」
「もちろんです」
二人は目を合わせて笑い合った。
豆腐グラタンの香ばしい匂いがオーブンから漂い始める頃、チョコレートの包みをそっとテーブルに並べながら、ふたりの会話はまだまだ続く。
このあと待っている食事と甘いひとときを思い描きながら、部屋の空気はますますやわらかく、あたたかくなっていった。




