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第54話 尽きないチョコの話題

 チョコレートの話で盛り上がる二人の距離がほんの少しずつ、けれど確かに近づいていく。


「ほんとはね、こういうときに“お疲れさまです”ってチョコでも出せたらよかったんですけど……全部食べつくしてて、今手元になくて」


 そう言って、少しバツが悪そうに笑う。


「お気になさらず。私も仕事現場にはお菓子を持ち歩いていませんし」


 透子がやんわりと返すと、柚月はふっと安心したように息をついた。


「でも……だったら、次からはお互いの推しチョコを持ち寄って、交換会っていうのどうですか?」


「交換会、ですか?」


「そう!お互いのおすすめチョコを紹介し合うんです。ちょっとした楽しみになりそうじゃないですか?」


 柚月の目がきらきらと輝いているのを見て、透子は微笑んだ。


「いいですね。仕事中の楽しみが一つ増えそうです」


 だが一拍置いて、少し真面目な表情になる。


「ただ……お仕事でお邪魔しているのに、まるで遊びに来ているみたいになってしまわないかと……」


 その言葉に、柚月はにやりと笑って返した。


「じゃあ、クライアントの要望ってことで。楽しませてくださいって要望も、仕事のうちってことで」


「……なるほど。それなら、きちんと応えなければなりませんね」


 透子は軽く肩をすくめて笑い、続ける。


「そのぶん、しっかり働かせていただきます」


「うわー、やっぱりそういうとこ、春野さんらしい……!仕事一筋っていうか、なんでもできて、パーフェクト家政婦で、ちょっと怖いくらい完璧って思ってたんですよ」


「……怖い、ですか?」


「いい意味です!でも今日みたいに、チョコの話とか、交換会の提案とかに付き合ってくれるの、すごく嬉しいんです」


 その素直な言葉に、透子はわずかに頬を赤らめた。


「……クライアントのご要望には、できるだけ応えたいので」


 言葉を詰まらせながら出た一言に、二人は同時に笑う。


「マネしましたね」


 柚月がジト目で透子を見る。


「ご要望通り、楽しんでいただけましたか?」


 透子が芝居がかった調子で返すと、柚月は吹き出して肩を揺らした。


 やがて時間になり、透子は手際よく片づけを終えると、エプロンをたたんでバッグにしまった。


「では、本日はこれで失礼いたします」


「はい!……あ、次に来るときは、推しチョコ忘れずに持ってきてくださいね」


 笑顔で念を押す柚月に、透子は思わず頬をゆるめる。


「ええ、期待していてください」


 扉が静かに閉まり、音を立ててロックがかかる。


 その瞬間、透子の表情がふっとゆるんだ。


(……可愛かったー)


 胸の奥が少しくすぐったくなるような感覚を抱きながら、透子は静かにマンションの廊下を歩き出した。


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