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第45話 やっぱり汚部屋

 火曜日、透子は高山柚月のマンションの前に立ち、インターホンを押した。


 すると、今回は一回のピンポンで即座に反応があった。


「はい、今開けます!」


 すぐにドアが開き、柚月が眠たそうな目をこすりながら出迎えた。


「おはようございます、春野さん。今日はちゃんと起きてました」


「ありがとうございます」


 透子が微笑むと、柚月は苦笑いを返しつつ、玄関を通してくれた。


 中に入った途端、透子の表情がわずかに曇る。


(……やっぱり、今回も)


 リビングのテーブルの上には空のペットボトルやスナック菓子の袋、使いかけのティッシュ箱やコンビニ弁当の空容器が所狭しと広がっていた。ソファには脱ぎっぱなしのパジャマや毛布が投げ出されており、床にも洗濯物の山が出来上がっていた。


 洗濯物は明らかに一週間分。シャツやパーカー、ルームウェア、下着類まで折り重なり、独特の生活臭が漂う。


「なんか……春野さんが来てくれると思ったら、やっぱり散らかっちゃってて」


 柚月が申し訳なさそうに言う。


「大丈夫です。そのための私ですから」


 透子は腕まくりをして、やる気を見せた。


「ほんと、頼りになります……」


 そう呟きながら、柚月はリビングのテーブルにつく。そしてしばらくすると、うとうとと船を漕ぎ始めた。


(相当、疲れてるんだな……)


 透子は手早く昼食の準備に取りかかる。今日のメニューは具沢山のうどんと、冷奴の小鉢。


 準備を終えて配膳をしようとリビングに戻ると、柚月はすっかり眠っていた。


「高山様、ご飯ができました」


 優しく声をかけると、柚月は目をゆっくりと開け、気まずそうに笑った。


「すみません、寝ちゃってて……」


「大丈夫です。お食事、どうされますか?」


「食べます。お腹すいてます」


 そう言って、柚月はもそもそとテーブルにつく。


 透子は料理を並べながら、微笑を浮かべた。


「では、召し上がってください。私は先に寝室を片付けておきます。終わったらお声がけしますので、もしお疲れでしたらそのままお休みいただいても大丈夫ですよ」


「……ありがとうございます」


 柚月が少し照れたように答える。


 透子は静かに寝室へと向かう。足元には脱ぎ捨てられた靴下、椅子には重ねられたままの洗濯物。ベッドの上にもパーカーやカーディガンが乱雑に置かれていた。


 物音を立てないよう気をつけながら、透子は素早くゴミを片付け、洗濯物を一カ所にまとめる。濡れたタオルは洗濯機へ、乾いた衣類は仕分けしやすいように一時的に箱へと収納した。


 リビングに戻ると、柚月は空になったうどんの丼をテーブルに置き、眠そうに目をこすっていた。


「ごちそうさまでした。やっぱり、春野さんのご飯って落ち着きます……」


「それは何よりです。では、お部屋の片付けを進めますので、寝室で少しお休みになってください」


「うん……終わったら、起こしてください」


 そう言って、柚月はふらふらと寝室へと入っていった。


 透子はすぐにリビングの片付けに取りかかる。ゴミ袋を用意し、ペットボトルと缶、プラスチック容器をそれぞれ分別。雑誌やチラシなどの紙類もまとめ、雑巾でテーブルや棚を拭いていく。


 キッチンは前回整理していたこともあり、今回は軽い整頓だけで済んだ。シンクにたまっていた洗い物を片付け、コンロ周りを拭き取ると、空間がすっと明るくなった気がした。


(こんなに頑張ってるんだから、しっかり結果が出るといいな)


 透子は心の中でそう願いながら、手際よく作業を進めていく。


 やがて部屋は、ようやく人を招ける程度には片付いた。


 腕時計を見ると、終了の時間が近づいている。


(そろそろ、起こさなきゃ)


 寝室のドアをノックし、静かに声をかける。


「高山様、お時間です」


「……ん……うぅ……はい……」


 もぞもぞと起き上がる柚月。寝起きのままの顔に髪が少し乱れている。


「お仕事、頑張ってくださいね」


 透子がそう声をかけると、柚月はまだ眠そうな目でこくんと頷いた。


 家を出た透子は、ビルの隙間から覗く空を見上げながら、小さく息を吐いた。


(来週は、もう少し余裕ができてるといいけど……)


 そう願いながら、次の仕事先へと足を運んだ。



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