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第3話 好奇心と日常

「おはようございます!」


 今日も清々しい朝だ。透子はいつものように、元気いっぱいの挨拶をしながら家事代行サービス『クリーン・コンフォート』の事務所へ向かった。今日の予定を確認すると、午前中はいつもの常連のお客様、田中さんの家へ向かうことになっていた。


 電車を乗り継ぎ、田中さんの家に到着。


「おはようございます!」


 インターホンを鳴らすと、すぐに田中さんが笑顔で出迎えてくれた。


「あら、透子さん。今日もよろしくね」


「はい! いつもありがとうございます」


 透子は手際よく準備を始める。田中さんの家はいつもきちんと整頓されているが、それでも細かい埃や汚れは溜まるものだ。まずは掃除機をかけ、水回りを丁寧に磨き上げる。洗濯物も、完璧に畳んで収納していく。


 透子が作業をしていると、ふと、いつもと違うことに気が付いた。田中さんの娘さんの部屋のドアが、今日は開いている。いつもは閉まっているはずなのに……。


 特に気に留めるつもりはなかったのだが、部屋の前を通りかかった時、透子の視線は自然と部屋の中へと吸い寄せられた。


「……!」


 透子の目が釘付けになった。部屋の中には、複数のモニターが設置されたデスク、高性能そうなヘッドホン、そして、間違いなくマイクだ。それも、ただのマイクではない。配信に使われるような、本格的なものだった。


(え……? もしかして、田中さんの娘さん……配信者なの?)


 透子の心臓が、少しだけ早鐘を打ち始める。


(でも、そうだとしたら……どんな配信してるんだろう? どんな声で、どんなキャラクターを……?)


 妄想が止まらない。透子は、自分の好奇心を抑えきれなくなっていた。いけない、仕事に集中しなきゃ。そう思いつつも、ちらちらと部屋の中を見てしまう。


 作業を終え、家の中を改めて見渡す。どこを見ても、完璧に綺麗になっている。


「終わりました。ご確認お願いします」


 透子が声をかけると、田中さんがやってきた。


「まあ、今日も完璧ね! 本当にありがとう」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。また来週、お伺いします」


 透子は笑顔で挨拶をしたものの、やはり娘さんの部屋のことが気になり、意を決して尋ねた。


「あの……田中さん、少し気になることがあったのですが……娘さんの部屋のドアが開いていたので、ちらっとだけ見てしまったのですが……あのお部屋、配信に使われているのでしょうか?」


 田中さんは少し驚いたような表情をした後、くすくすと笑い出した。


「ああ、あの子ね。友達としゃべりながらゲームしてるだけよ」


「え? そうなんですか?」


 透子は拍子抜けした。


「毎晩、友達と遅くまで喋りながらゲームしてるのよ。ヘッドホンとかマイクとか、結構こだわっててこの前も3万円のマイクを買ったとか言ってたわ」


「そう、なんですね。勝手に部屋を見て申し訳ありません」


 慌てて謝った。


「いいのよ、気にしないで。透子さんも、イメージないけどゲームとかされるの?」


「いえ、私はあまり……」


 透子は曖昧に微笑んだ。まさか自分がVtuberのファンだとは、とても言えなかった。


「そうですか。まあ、あの子はあれでストレス発散してるみたいだから、好きなようにさせてるの。透子さん、いつも綺麗にしてくれて本当に助かってるわ。また来週も、よろしくお願いしますね」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


 透子は再び笑顔で挨拶をし、田中さんの家を後にした。


 帰り道、透子は少しだけ複雑な気持ちになっていた。


(なんだ、ただの勘違いだったのか……。でも、田中さんの娘さんがゲーム好きだってことはわかったな。もしかしたら、いつか配信とか始めるかもしれないし……)


 透子は充実感に満たされていた。いつもの場所で、いつもの完璧を。それが、彼女の誇りだった。


(明日も、頑張ろう)


 透子はそう思いながら、次の仕事へと向かった。

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