第22話 隠し味でつながる線
透子は基本、日曜と月曜を休みにしていたが、今週は少し事情が違った。
長年の常連である田中さんが今週は一回飛ばしてほしいと申し出てきたのに加え、柚月もいつもの火曜から水曜への訪問変更を希望してきたため、事務所から「この機会に有給も消化して」と促され、珍しく火曜日も休みを取ることになった。
「三連休、か……」
思わずぽつりと独りごちる。
普段から計画的に暮らしているつもりでも、こうして時間ができると少しだけ気が抜ける。旅行にでも出かけようかと一瞬考えたが、特に行き先も決まらないまま、部屋の模様替えや細かい場所の掃除に取りかかることにした。
換気扇のフィルター、引き出しの奥、ベランダのすみ。普段手が届きにくい場所を丁寧に磨き上げ、合間には保存食の作り方やスパイスの配合など料理動画を見て過ごした。
気付けば火曜日も昼を過ぎていた。
簡単なパスタとサラダで一人の昼食をとり、片付けを済ませてリビングで一息。タブレットを手に取り、なんとなくスケジュールアプリを確認していると、ふと目に止まる通知があった。
《朝比奈柚葉 配信まであと10分》
普段は仕事で見られない時間帯の配信。しかも今日は、雑談とゲームのコラボ回らしい。
急いでタブレットを充電スタンドから外し、クッションに身体を預けながら配信ページを開いた。
画面が切り替わると、明るくポップなロゴと共に柚葉と月城メイの姿が映る。
「やっほー! みんなこんにちはー! 今日はひっさびさにコラボ配信だよ!」
「よろしく~。ってかこのゲーム、地味に負けたくないやつ」
『待ってた!』『この二人ほんと好き』など、コメント欄も活気づいている。
ゲームを進めながらも、二人の雑談がテンポよく進んでいく。その途中、ふいに話題が切り替わった。
「そういえばさ、この前いきなり電話きたよね?」
「なに事かと思ったら『ご飯が美味しい』だって。部屋キレイになって、ご飯が美味しくて、電話してくるとか、どんだけ嬉しかったん」
『可愛すぎか』『それ報告したくなるやつ!』
「いやもう……ほんと大変だったんだって。マジで生活崩壊しかけてたから」
画面越しに見える柚葉の笑顔は、どこか照れくさそうで、けれど本当にうれしそうだった。
「最近は自分でもちょっと片付けするようにしてるし……毎週ご飯も作ってもらってるし。正直、今めっちゃ幸せ」
(……いい担当の方にあたったのね)
透子は穏やかに頷きながら、静かに思った。
家事代行に対する不安や偏見がまだまだ根強いなか、こうして言葉にして感謝してくれる人がいるのは、本当にうれしい。自分ではなくても、どこかの誰かが、きちんと信頼されているという事実が、何よりの励みになる。
「で? 一番美味しかったご飯は?」
「えー、それは悩む……オムライスも捨てがたいけど……でもやっぱ、カレーかな」
「うん。隠し味にね、チョコレート入れるんだって」
そこで、透子の手がぴたりと止まった。
その一言が、静かに胸に落ちてくる。
(……オムライス、カレー。隠し味のチョコレート)
最近、柚月のために作ったメニューたち、そして隠し味のチョコレート…。
あのときの表情。テーブルに向かう姿勢。静かに頷く仕草。
そして最近少しずつするようになった会話の声。
その全てが、画面の中の柚葉の言葉と、ぴたりと重なっていく。
(……え?)
息が、止まりそうになった。
(今週の予定変更は今日のコラボ配信の為?)
ピースが一つひとつ、はまっていく。
(まさか……高山さん、って……)
胸の奥で静かに重なる音がする。点が線になり、思考が一つの形を結ぶ。
それは、確信にも似た予感だった。




