表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/91

第20話 閉ざされた扉と火曜日の予定

 家事代行として柚月の部屋に通い始めて、数週間が過ぎた。


 今では週に一度の訪問が、透子にとっても当たり前のリズムになりつつある。昼食を用意し、作り置きのおかずを冷蔵庫に並べ、掃除や洗濯などを淡々とこなす。以前に比べて柚月の生活は目に見えて整い、空気も柔らかくなった。


 最近では、料理中や片付けの合間に短い世間話も交わすようになっていた。特に柚月は、洗濯と掃除の作業に興味を示すようになり、素直に質問を投げかけてくることもある。


「この服のたたみ方って……」


「あ、それはこっちから先に折るとキレイにたためますよ」


「やってみます」


 そんなやり取りが自然に交わされるようになったのも、ここ最近のことだった。


 別の日には、リビングの一角を片付けていると、柚月が言った。


「最近、掃除ってちょっと気持ちいいなって思うようになってきました」


「少しずつコツが分かってくると、楽しくなってきますよね」


「……それ、ちょっとわかります」


 以前の無言がちだった印象とは違い、今の柚月は言葉数こそ少ないが、ちゃんと相手の言葉を受け取り、自分の言葉で返してくれるようになってきていた。


 日々の雑談の中には、特別な意味のある言葉などほとんどない。それでも、そのやり取り一つひとつが、透子にとっては心をあたためてくれるものだった。


(きっと彼女にとっても、少しだけ……そうだったらいい)


 しかし、ひとつだけ、まだ変わっていないことがある。


 それは、廊下の突き当たりにある一室。


 ドアはいつも閉じられていて、「ここは大丈夫です」とだけ最初に告げられて以来、一度も触れていない。透子もプロとしてその意志を尊重し、それ以上立ち入ることはなかったが、やはり少しだけ気にはなる。


(あの部屋には……何があるんだろう)


 掃除機を戻しながら、何気なくそのドアの前を通り過ぎる。その奥から物音がすることはない。けれど、無音であるがゆえに漂う気配が、妙に強く感じられる瞬間がある。


 全ての作業を終え、透子が帰り支度をしていると、後ろから声がかかった。


「春野さん……来週なんですけど」


 振り返ると、柚月が少し遠慮がちに立っていた。


「来週、火曜日はちょっと予定があって……水曜日に変更って、可能ですか?」


 透子は軽く頷く。


「かしこまりました。事務所に確認いたしますね」


 その場でスマホを取り出し、事務所に連絡を入れる。しばらく保留の音が流れたあと、予定に空きがあるとの返答が返ってきた。


「問題ありません。来週は水曜日の同じ時間帯でお伺いします」


「ありがとうございます……助かります」


 そう言って頭を下げる柚月に、透子は静かに微笑み返した。


 予定がある、という言葉にどこか新鮮な響きを感じながら、透子は深く詮索することなく、丁寧にお辞儀をしてマンションを後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ