第11話 揺れるタオルと無言の信頼
乾燥機が止まり、透子は静かにドアを開けた。ほのかな温もりがまだ残るその中から、ふんわりとした衣類が顔を覗かせる。
取り出したタオルは、淡いクリーム色。使い込まれた感触が残る一枚に、透子はそっと指先を滑らせる。その柔らかさに、きちんと日常を重ねてきた人の暮らしが見える気がした。
一枚ずつ、丁寧に畳んでいく。衣類はシャツ、ルームウェア、靴下、タオル、小さなハンカチへと続き、下着も含まれていた。どれも派手さはないが、整った配色と素材に持ち主の好みや性格がにじむ。
ローテーブルの上に、整然と畳まれた衣類が並んでいく。透子の動きは無駄がなく、すべてが静かに、一定のリズムで進んでいた。
ソファーに座る柚月は、言葉を発さずただ見つめていた。けれど、そのまなざしには前回までに見られた緊張や戸惑いが、ほとんど感じられなかった。
時折、視線が手元から透子の表情へと移る。マスクと眼鏡の下に隠れていても、その目の奥にはわずかな揺らぎと安堵があるのがわかる。
(こうして信頼を預けてもらえること。ありがたいことです)
透子は心の中でそう思いながら、作業に集中する。
パジャマを畳もうとしたとき、柚月の頬がわずかに紅潮しているのに気づいた。
薄く色づいた耳、その先にある表情を読み取ろうとすることはしなかった。ただ、下着類も含め、他の衣類と変わらぬ態度で淡々と整える。
触れすぎず、けれど目を背けない。自分の仕事として向き合う。そうすることが、相手の心を守る最善だと透子は理解していた。
やがて、すべての洗濯物が畳み終えられ、綺麗に揃えられた状態で一つのバスケットへと収められる。
「以上で本日の作業は完了いたしました。収納もお手伝いできます。どうされますか?」
透子の声はいつも通り穏やかだった。柚月はすぐには動かず、バスケットを見つめるようにして、わずかに首を横に振った。
自分でしまいたい――そう告げる代わりの動き。
「かしこまりました。では、こちらはこのまま、すぐ手に届く場所へ置いておきますね」
透子はバスケットをソファーの脇にそっと置き、その動きの中でほんの少しだけ柚月の表情をうかがった。
視線が一瞬合い、すぐに逸らされる。けれど、今までのような逃げるような動きではない。何かを飲み込み、そっと胸の内にしまったような、柔らかい間だった。
その時、柚月の手がわずかに動いた。
透子の手には触れず、バスケットの縁に沿うように細い指先がそっと添えられる。その仕草は、触れるのではなく「触れたい」という想いだけを残したようだった。
透子は驚かず、騒がず、ただ自然に受け止めた。何も言わずに、ほんのわずかに微笑む。
部屋の空気は静かで、柔らかく満ちていた。




