第1部 第8話「賭場」
賭けるのは、りこの心。
そして現れたのは、まさかの“あいつ”。
勝負の行方、どうぞお楽しみに!
2013年 5月31日
第1部 第8話「賭場」
──どうも、渡川勝己です。
ぐすっ……ちくしょう、俺だって、こんな報告したくねぇよ……。
だって、健全をうたってきたこのシリーズで、ついに起きちまったんだ……!
悲しいお知らせがあります!
俺の力でも、どうにもできない“不祥事”が発生しました。
その内容とは──
薄着の未久ねえの隣で、親父が寝ていたという事実!!
しかも、リビングで!!
やめろぉぉぉぉぉおおおおお!!!(読者の脳内にエコー希望)
──現在のリビングの様子をどうぞ:
勝利「んあ、おはよーだな!」
未久「伯父さーん、むにゃむにゃ……」
……いやいやいやいやいや!?
ちょっと待てコラ。
こいつら、何やってくれてんの!?
一応説明しよう。
このどうしようもない親父(渡川勝利)は、未久ねえの伯父にあたる。
つまり──伯父と姪っ子で、コトを起こしたかもしれないんです!!
いやほんと、マジで、やめて!?
俺の家庭のクリーンなイメージが粉々なんだが!?
弁護士のお袋も、おそらく法的にお怒りです。
というか、俺も怒ってます。マジで怒ってます。
……こっちは真面目にラブコメやってるんだよ!!!
勝手に濃厚な昼ドラ始めないでください!お願いだから!
未久「……あれ? なんで私、伯父さんの隣で寝てんのかなぁ!!?」
朝のリビングに響く、未久ねえの困惑ボイス。
その横で、親父がよたよたと立ち上がる。
勝己「親父、昨夜……何やったんだよ?」
勝利「んー? 未久ちゃんと飲んでてだなぁ~」
勝己「……飲んでて?」
(あっ、これ絶対“記憶ねえ”パターンじゃん!)
俺の脳内に警報が鳴る。ピンポンパンポーンってやつ。
勝利「すまん。記憶が……ない」
キターーーーッ!!やっぱりかぁぁぁああ!!
勝己「そりゃそうだわ! へらへら笑いながら2時まで騒いでたもんな!」
勝利「いやー、しゃーねぇだろ? 久々に三連休取れたんだから」
勝己「知るかバカッ!! 連休じゃなくて、人として謹慎しろ!!」
未久ねえはふらふらと立ち上がり、台所へ。
棚からコップを取り出し、水をくいっと飲む。
未久「こくこく……やっぱ東谷の水、おいしいね!」
勝利「取水先の川が、かなり綺麗らしいぞ。じいさん──大五郎の受け売りだけどな」
そう、それは俺の小2の時に亡くなった、じいちゃん・渡川大五郎の言葉だ。
未久「おじいちゃん、そんなこと言ってたんだ~」
ほんわかムードに一瞬だけ浸ったところで、親父がまた余計な一言を放つ。
勝利「そういや美沙都は東谷にいるのに、なんで家に顔出さないんだ?」
未久「うーん……お姉ちゃん、伯父さんのこと、あんまり好きじゃないから?」
──うん、それには俺も同意だ、美沙都さん。
大学で数学の教授やってるっていうのに、家じゃズボラで酒乱で下ネタ大好き。
俺だって、この親父はあんま好きじゃない。
と、そこで親父がタンスから何やら取り出す。
勝利「じゃ、未久ちゃん! このO市の富士マル百貨店で買ってきたスパンコールの服、着ようよ!」
未久「え〜? 私がそれ着たら……お姉ちゃんが伯父さんのこと殺しにくるよ?」
ど正論。
勝己「って、うわもう7時50分!? かなりやべえ!!」
勝利「おう、勉強頑張れ〜!」
いやいやいやいや、のんきかッ!!
やっべー!遅刻だ遅刻!!
弁当は──昨日、スーパーヒトマルで買った“賞味期限ギリ”の弁当があるから何とかなる。
だが!
朝メシ抜きはキツい!致命的!!
勝己「間に合えええええええ!!」
──俺、全力ダッシュ!
でも!
勝己「うわあああああああ!! ダメかあああああああ!!」
──遅刻した。
全部、あの親父と未久ねえのせいだ。
朝っぱらから、変な疑いかけてモタモタしてたせいで……!
くっそ、恨むぞ、あんたら!!
──ホームルーム、開始早々。
宮本「渡川。……お前、最近ちょっと気が緩んでないか?」
太一「ハハハハハハハハッ!!」
うっぜええええええええええ!!!
担任の宮本、マジで説教くさい!
そして俺の後ろの太一、爆笑すんな!!
クラス中、完全に笑いのターゲットは俺じゃねぇか!
つーかさ、そもそもの原因は静華だ。
大門に発信器つけたのはいいとして、そこからの動きがさっぱりなんだよ。
俺だけが取り残されてる感、パネェ。
で、何より――
りこが、震えてる。
メイド喫茶でバイト始めてから、ちょっと様子がおかしい。
やっぱあれか? 可愛いから、変な客に絡まれたりしてるのか?
妄想の中のりこが、俺にささやく。
妄想りこ『ご主人様ぁ、ご奉仕、ご奉仕〜♡』
勝己「ふふ……ふへへへへへ……」
女子「うわ、なに渡川、キモ……」
男子「てか先生、マジで怒ってるからな?」
宮本「渡川ァァァァァ!! お前、今なにを考えたのかは知らんが!!」
勝己「ひぃっ!? すみませんしたぁぁぁあああああああ!!!」
──昼休み。
別に特別なことはない、ただの昼休みだ。
東谷高校ってのは、便利そうに見えて案外不便でさ。
校門前にコンビニがあるわけでもないし、売店もない
隣町のM高校なんか、すぐ近くにルーソンあるんだぜ、格差だろ。
そんな中──スマホに通知が来た。
【静華『勝己、鹿子さん、連れてきなさい。』】
勝己「あ、あー……わーったよ、しずかちゃん」
もはや慣れたけど、静華の指令は突然すぎるんだよな……。
さて、りこはどこだ……りこ……りこー!
頭の中には、あのピンクのショートヘアがふわっと浮かぶ。
お前が浮かぶと脳内に桜が舞うんだよ、知ってたか?
りこ「ねえ、勝己くん」
勝己「図書室行こうぜ。呼んでる人がいる」
りこ「うん。氷室センパイでしょ?」
勝己「……なんだ、りこが言い出しっぺかよ」
りこ「てへへっ」
あざとい。
でも、いい。
──図書室に到着。
静かな空間に、ページをめくる音がポツポツと響いている。
その奥の一角。いつもの席で、静華が待っていた。
静華「それじゃあ……あれからの経緯なんだけども」
勝己「大門のアジト、わかったのか?」
静華はバッグから、折りたたまれた街の地図を取り出し、机に広げた。
静華「東谷中学の方、キンペー川を超えた先に倉庫があるでしょ?」
俺は中学時代の記憶を手繰る。
……あったな。古びた倉庫。
クッソきついマラソンのコースから見えたっけなぁ。
静華「その倉庫のどこか。奴は、このエリアをウロウロしてる。……発信器は昨日、壊れたわ」
勝己「ってことは、もう場所を移動した可能性もあるってことか?」
発信器を壊したってことは、こっちの動きに気づいてるってことだ。
当然、警戒してるだろう。
静華「うん。でも、倉庫の件は美沙都さんにも共有済み。万が一、まだそこにいるなら、動いてもらえると思う」
ふむ……。
とりあえず“奴”の足取りが完全に切れたわけじゃない。
でも、ここから先は少し慎重にいく必要があるな──。
──その頃、キンペー川近くの廃倉庫。
人気のない鉄の扉が、風で軋んだ音を立てている。
ガサリ。
鉄パイプの隙間から、小さな猫が姿を現した。
細身で、白い毛並みの野良猫だ。
猫「きしゃあああああ!!」
その目の前に、何か“異質なもの”がいた。
ゴリリ、ゴリ……
何かが、床を這って近づいてくる。
猫は背中の毛を逆立てて威嚇するが――
ズシャッ!!
“それ”は猫の上に、文字通り覆いかぶさった。
ぐちゃり。
あまりに一瞬。
猫の鳴き声すら、飲み込まれた。
そして──
「フランケンフュージョン!!」
「……猫の力、手に入れたぜ」
闇の中、笑みを浮かべる男。
その目は赤く染まり、腕には――
猫の爪を思わせる異形のパーツが形成されていた。
大門だった。
りこ「……ファギア持ちだと思うんですけど、**“成金セイタ”**って人が、お客で来たの」
勝己「──許さん」
りこ「えっ、まだ何も言ってないよ?」
いや、名前からしてクソ野郎確定じゃん。
“成金”って。何それ、わざと? キャラ名で不快感ぶちかましてくるスタイル?
りこ「……その人、私を“買いたい”とか言ってきたの。もちろん断ったけど……そのあと、急に胸がズキズキって痛くなって……」
その一言で、俺の中の何かがぶちっと切れた。
勝己「りこに精神的苦痛を与えた、不届き者だ。──俺がぶっ倒す!!」
椅子を蹴って立ち上がる俺。
と、そこへ、よりによってあいつが現れた。
才崎「……話は聞かせてもらった。勝己、聞いてる限り、そのファギア持ちは力押しじゃ勝てなさそうだね」
──出たよ、才崎。
以前、俺の貴重な“いとこ系エ●本”をプレゼントしてやったのに、
返ってきたのが“クソみたいなTRPG風の異世界体験”という裏切りをやらかした奴。
勝己「てめぇ、信用してるとでも思ってんのか?」
才崎「フフッ、誤解するなよ? 僕“だけ”でやるなんて言ってない。
君の力が必要なんだ。……勝己、共闘しよう」
真顔で言ってくる才崎に、少しだけ胸がざわついた。
才崎がライターの炎を吹き消すと、次の瞬間──
ザワッ……!!
世界が、ねじれた。
視界が揺れ、地面が沈む。
気づけば、俺たちは“そこ”に立っていた。
金と黒の煌びやかな空間。
天井にはシャンデリア、フロアにはルーレット台とトランプの模様が散りばめられている。
ここは……まさか──
才崎「ようこそ。ラブ・カジノへ」
才崎が、ゲームマスターの如くステップを踏み、中央へ。
才崎「さあ──ルール説明といこうか!!」
彼の背後に、光の文字が次々と浮かび上がる。
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【ラブ・カジノ ルール概要】
ルーレットを回して、出た数字の合計が「100」に先に到達した者の勝利。
才崎はこの勝負の「ゲームマスター」。
ほんの少しだけ、“ルールそのもの”に干渉できる能力を持つ。
金成セイタのファギアは──ロンガー・ローン
才崎が“後ろめたさ”を感じた瞬間、その心の揺らぎをダメージに変えて攻撃できる。
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セイタ「ほぉ〜〜ん。こりゃまた派手な舞台だねぇ!」
勝己「……なあ、才崎。お前、ほんとにコレ勝算あるんだよな?」
才崎「あるさ。“君がいれば”ね」
まるで芝居がかった口調で言いやがる。
けど……あいつの目は、本気だった。
セイタ「じゃあ、始めようぜ? 愛を賭けた、男同士の……ラブ・ギャンブル!!」
りこ(えっ、それはちょっと違うような……)
セイタ「では、僕から……」
ルーレットが静かに回り出す。
カラカラと、金属音が響く──。
──そして、止まった数字は「23」。
セイタ「フッ……悪くないな!」
上機嫌な様子のセイタ。
でもさぁ、バーカ。
勝己(こっちはもう、“お前を破産させること”しか頭にねぇからな)
勝己「ほら見ろよ、りこだぞ?」
振り向くと、りこが苦笑いしながらピースしていた。
その笑顔を見て、セイタの鼻がふごっと鳴る。
勝己「“インビンシブル・インビジブル”──」
俺は静かに能力の説明を始めた。
勝己「お前の鼻息が、ルーレット台にあたったとき……
その空気に“35の近くで玉がもたつく”という役割を与えた。」
才崎「……!」
勝己「本当にりこが好きなら、そんな鼻息、荒くなんねぇよな?」
セイタ「ぐ、ぐぬぬ……フー……フー……!」
焦ったセイタの鼻息が荒くなる。
その瞬間──
ピトッ……。
金の玉が、ルーレット台の「35」の上で止まった。
才崎「……35。お前の負けだ、成金セイタ」
セイタ「……バ、バカバカしい! こんな勝負、茶番だ!! やめだやめだッ!!」
逃げるように背を向けるセイタ。
でももう、お前の恋もゲームも、ここで終了だ。
才崎「……つまり、りこちゃんを差し上げますと言ってるんですよ?」
セイタ「はあ!? 第一、彼女がなぜ“景品”なんだ?」
──まあ、そこは突っ込むよな。
でも、お前が一番りこをモノ扱いしてんだよ。
勝己「ハッ、笑わせんなよ。
お前の目つき、言葉、全部が“りこを所有物扱い”してんの、丸わかりだっつの。
いいか──“なりきん”!」
セイタ「だから“なりきん”じゃない! なりかねだッ!! いい加減に間違えるなぁ!!」
いいぞ、ペース乗ってきた。
相手がキレれば、こっちのもんだ。
勝己「っとぉ、すまんすまん! じゃあ……“なりかね”さんよ、これでも喰らえ!!」
俺は、わざと足を滑らせる。
ドシャッと派手に転ぶと同時に、セイタに体当たりをかます!
セイタ「……ふふッ! ロンガー・ローン、発動!!」
金成セイタのファギア──
相手が“後ろめたさ”を感じたとき、その負債(罪)をダメージに変える力。
セイタ「申し訳なさが、お前の負債になる……!」
勝己「──“インビンシブル・インビジブル”……」
(俺の声は、わざと小さく。あいつだけに届くように)
その瞬間、りこがピクリと反応した。
──気づいたな、りこ。
勝己「くそっ、いってええええええええ!!」
りこ「わ、わたしも……痛い! すごく、痛いっ……!!」
セイタ「ハハハハハ!!
払いきれない債務に、苦しむがいいッ!!
ガキが、大人をからかった罰だァ!!」
──まさか、それが“罠”だとも知らずに。
才崎「……銀行が“貸しすぎた”とき、どうなるか知ってますよね?」
セイタ「は? なんの話を──」
才崎「貸し倒れですよ、成金さん」
「僕はこの“ドラマチックライター”で、すでに“破産エンド”のシナリオを組み込んでいた」
「苦しんでいた、勝己くんとりこちゃん。
その“申し訳なさ”があなたに、倍返しで跳ね返るように、ね」
セイタ「な……ファギアに、他人が干渉なんて……できるはずが……!」
才崎「ここは僕が書いた**物語**の中。
“ドラマチックライター”が描く限り──ルールすら、書き換え可能です」
勝己「俺の“インビンシブル・インビジブル”で空気に込めたのは、
『りこに申し訳なく思え』っていう“意思”。」
「それが今──りこの心に届いて、真の感情が起動したんだよ!!」
セイタ「そ、そんな馬鹿な……!!」
才崎「“ロンガー・ローン”、貸し倒れ処理、発動」
セイタ「うわあああああああああああああああああああ!!!!」
セイタの身体から、白い紙幣のような光が次々と飛び散る。
彼のファギアが、自らの“負債”を回収しようと暴走する。
セイタ「やだ……やだッ!!破産だけは──」
勝己「──成金破産ッ!!」
バァンッ!!
ルーレットの中心が爆ぜ、金と黒の空間が崩れていく。
りこ「勝己くん……」
才崎「──ラブ・カジノ、ゲームセット。
“勝者”、渡川勝己……そして、鹿子りこ!」
光に包まれ、俺たちは元の世界へと戻っていった。
──戦いの幕は、静かに、そして華やかに、降りた。
才崎「──これで貸し借りはなしだ」
「……また、別のゲームをやろう」
風が、静かに吹き抜ける。
りこ「ふふっ。なんか、スッキリしたぁ〜」
無邪気な笑顔で両手を伸ばすりこ。
その隣で、俺は深く息を吐いた。
勝己「今回に限っては──最高の吟遊だったぜ、才崎」
才崎は、にやりと笑って背を向けた。
ライターを一度チラつかせ、ポケットにしまう。
才崎「じゃあ次は……もっとドラマチックな舞台で、待ってるよ」
その言葉を残し、才崎は風の中へと消えていった。
──幕は下りた。
だけど、次の幕はいずれ降りるだろう。
まさかのカジノ回、いかがでしたか?
ラブとバトルと茶番と――全部乗せです。
ファギアの駆け引きも派手になってきたところで、次回からは第1部も中盤戦へ突入!
引き続き、よろしくお願いします!




