第1部 番外編「風の目覚め」
このエピソードは、勝己が幼少期に“風の力”に目覚めた出来事を描いています。
勝己とりこの関係の原点がより深く伝わるかと思います。
2003年 10月
第1部 番外編「風の目覚め」
おれ、渡川勝己、5歳。
東谷町の保育所に通ってる。
最近さ、なんか変なんだよ。
ドライヤーを使うとさ、
“ブワーッ”って風が出てるのが、うねうねって――見えるんだ。
勝己「うわっ、まただ!この変なの、なんなのさ!」
ドライヤーをじっと見てたら、後ろから父ちゃんが声をかけてきた。
勝利「どうしたぁ? ドライヤーに見とれて。もう髪は乾いただろ?」
勝己「ちがうよ父ちゃん! ドライヤーの“ブワー”が見えるんだってば!おれ!」
勝利「目がいいんだな!」
……父ちゃんは、いつも通り真面目に取り合ってくれない。
***
次の日。
おれは友達のりこちゃんと一緒に、太一の家に遊びに行くことになった。
太一とは気が合うんだ。
おれたち、けっこう仲良し三人組なんだぜ。
太一「勝己! りこちゃん、いらっしゃい!」
りこ「おじゃましまーす」
勝己「おじゃましますっ」
太一のお母さん「あら、二人ともいらっしゃい。太一、ちゃんと仲良くするのよ?」
太一「大丈夫だって! ケンカなんてしないから!」
太一は、自慢げにビー玉のコレクションを見せてくれた。
太一「キレイでしょ? じいちゃんに、この前買ってもらったんだ!」
りこ「わぁ、すっごくキレイだねぇ!」
勝己「この青いの、いいなー!」
太一「一番キレイなのはね、黄色い線が入ったやつなんだけど……あれ? どこ行ったかな?」
太一はソファの下をのぞきこむ。
太一「あー! あった! でも、手が届かない……くそーっ!」
りこちゃんも一緒に手を伸ばしてみるけど、太一よりも手が短い。
りこ「あぁ~、届かないよ~!」
おれもソファの下をのぞき込んだ。
勝己「ビー玉、こっちに転がってこないかなぁ……」
――ふとつぶやく。その気持ちが、空気に乗った気がした。
すると――
風がふわりとビー玉に当たって、ぽろりと転がり出してきた!
太一「えっ!? 転がってきた! なんで!?」
りこ「すごーいっ!」
太一は大喜びだった。
太一「すげえよ勝己!マジで超能力じゃね!?」
勝己(……もしかして、おれがやったのかな?)
りこ「ねぇねぇ、勝己くんが『ビー玉転がってこないかな』って言ったあとに動いたよね?」
勝己「う、うーん……そうかも?」
太一「じゃあさ、勝己ってエスパー!? ちょっと試してみようぜ!」
――ということで、即席の“エスパーごっこ”が始まった。
太一「この紙コップの中に入ってるビー玉、何色か当ててみて!」
勝己「えーっと……わかんないよ」
りこ「じゃあ、わたしの今日の朝ごはん、なーんだ?」
勝己「うーん、ごめん、それもわかんないや……」
ぷ〜〜ん。
あ、蚊の音だ。
りこ「ねぇ、蚊が飛んでるよぉ」
太一「もう秋なのに、変なの〜」
勝己「潰れちゃえ!」
――その瞬間だった。
“潰れちゃえ”って気持ちが、風に乗ったような気がした。
おれは、蚊に向かってふーっと息を吹きかける。
すると――
パチンッ!
手で叩いたみたいに、蚊がその場でぽとりと落ちた。
りこ「え、すごっ……!?」
太一「お前やっぱり超能力持ってんじゃないの!?」
りこ「じゃあじゃあ、勝己くんとわたしが結婚したら、子ども何人いるの〜? 未来わかる?」
勝己「え、りこちゃんと結婚!?」
りこ「だってこの前、約束したもん! お嫁さんにするって!」
太一「そうそう! おれ、勝己に負けたんだぞ〜」
勝己「だからぁ、エスパーじゃないんだってばぁ!」
帰り道。
ふと見ると、おばあちゃんが赤信号を渡ろうとしていた。
勝己「おばあちゃん! 危ないよ!」
――届いて、お願い。この声、届いて!
風に「危ないよ」って気持ちが乗った気がした。
すると、おばあちゃんはふと足を止めた。
その日の晩、弁護士の母ちゃんが帰ってくると聞いた。
勝利「よかったなぁ、母ちゃん、今夜帰ってくるぞー」
勝己「母ちゃんの車、まだかなぁ……」
父ちゃんはテレビを見ながらゲラゲラ笑ってる。
――これじゃあ、母ちゃんの車の音、聞こえないじゃないか。
勝己「母ちゃんの車の音が、聞こえれば……」
そうつぶやいた瞬間だった。
テレビの音は遠くなり、代わりに――車の音だけが、くっきりと耳に届いた。
朱鷺子「――あら。到着がわかっていたみたいじゃないの。
ただいま、勝己」
勝己「母ちゃん!おれ、いい子にしてたよ!」
おれは玄関を駆け出して、母ちゃんを迎えに行った。
勝利「おおっ、朱鷺子ぉ!おかえりー!」
父ちゃんが母ちゃんをギュッと抱きしめる。
朱鷺子「……ふふっ。やっぱり、帰る場所があるっていいわね」
次の日、母ちゃんが英語を教えてくれた。
朱鷺子「今日は、ちょっと似た意味の英単語を教えるわね」
勝己「うん!覚えるよ!」
朱鷺子「まず一つ目は、インビンシブル。“無敵”。とっても強いって意味よ」
勝己「インビンシブル……法廷の母ちゃんみたいだ!」
朱鷺子「ふふっ。ありがとう。もう一つは、インビジブル。“見えない”という意味よ」
勝己「インビジブル……なんか似てるね」
――おれは、この二つの言葉をすごく気に入った。
後に、自分の力にこの名前をつけることになる――
『インビンシブル・インビジブル』ってね。
それが、おれと風の力”との出会いだった。
まだまだ小さかったけど――
この町と、家族と、そして大切な人を守るために。
“風”は、そっと目覚めていたんだ。
──第1部 番外編「風の目覚め」 おわり。
子ども時代の勝己やりこたちの関係、そしてファギアのはじまりを描いてみました。
少しでも彼らの「その後」に想いを馳せていただけたら嬉しいです




