第1部 第5話「異質」
いつもと同じ朝、いつもと同じ教室──
……のはずが、何かが違う…
些細な違和感から始まる異変。
2013年 5月8日
第1部 第5話「異質」
──水曜日が、好きか嫌いかって?
正直、微妙なところだ。
「週の折り返しだな」って前向きになれる時もあれば、
「あと2日あるのかよ……」ってナーバスになる時もある。
──八方美人な曜日、それが水曜。
しかも今日は、連休明け2日目。
もう最悪のテンションだ。
俺はなんとか布団から起きようとして──
その時、手にふわっと、やわらかい感触が──
……は???
横を見ると──
いとこの未久ねえが、寝ていた。
しかも──笑ってる。
未久「ふふ……勝己くん、おはよ〜♪」
勝己「って!
アンタ朝飯作ってくれるんじゃなかったのかよぉ!!」
未久「えへへ〜……寝坊しちゃった♪」
勝己「……もういいよ!!
スエコーマートでパン買って学校行くからな!!」
勢いで布団を跳ね飛ばして、俺は急いで着替え始める。
(……なんだよもう……
この同居生活、心臓もたねぇ……!!)
学校へ行く途中、
俺は郵便局の横にあるスエコーマートへ立ち寄った。
腹ペコだし、なんか口に入れないとやってらんねぇ。
店内に入って、パンを2個とジュース1本を手に取る。
──そして、レジへ。
が、しかし。
目の前の客。
おっさんが、財布の中をごそごそ──
おっさん「えーっと……ポイントカード、どこだったかなぁ……?」
勝己
勝己(ざけんなよ!?
俺、今すげぇギリギリなんだよ!?)
勝己(遅刻したら……
てめえのせいだからなコノヤロー!!!
この……ヅラ!!!!)
レジの遅延コンボを乗り越え、
俺はパンとジュースを手に、学校へダッシュした。
東谷高校・1年B組。
教室にたどり着いた俺を、
ガタイのいい男が待ち構えていた。
駒留「勝己く〜ん!」
……は?
誰だこいつ。
声の出し方、キッッモ……なんか裏返ってね?
勝己「……なんだよ、気色わりぃ呼び方しやがって。
てめぇ──駒留だったか?」
駒留「違うよ。
わたし、りこだよ♥」
……は?
何、気色悪いこと言ってんだ、こいつ。
ってか、そういえば──
りこの姿が、見えねぇ。
勝己「お前がりこなわけねえだろ、このすっとこどっこいが!!!!」
ツッコミつつも、
俺の中に、じわじわと奇妙な違和感が広がっていく。
(──おいおい、マジで……
りこが、どこにもいねぇぞ……!?)
担任の宮本が教室に入ってくる。
俺たち1年B組の担任、
年齢の割に服のセンスが昭和で止まってるタイプの男だ。
今日はいつも通り、
出席確認から始まった。
宮本「──鹿子?
……おい、鹿子はどうした?」
(……いねぇよ。
りこ、マジで教室にいねぇ……)
俺の中に、
変な汗がにじむ。
やっぱり──
なんかおかしい。
世界がズレて──
???「先生、すみません!」
──ガラッ。
りこが、教室に入ってきた。
りこ「腹痛で、トイレに行ってました〜!」
勝己「……なんだ、りこ。
ちゃんと……いる、じゃねぇか……。」
ちょっと拍子抜けするくらい、
いつものりこだ。
でも──
(なんか……
どこか、引っかかる……)
──朝のホームルームが終わり、
授業が始まるまでのちょっとした空き時間。
俺は、
さっきトイレから戻ってきたはずのりこに声をかけた。
勝己「りこ……お前、具合大丈夫か?」
りこ「うん。大丈夫だよ、渡川くん。」
……は?
苗字呼び……????
──え?
俺、この前のO市デートで、なんかマズいこと言ったか……?
勝己「な、なぁ……
俺、りこに……なんかまずいこと、言った?」
りこ「ううん。
なにもしてないよ?」
そう言うりこの顔は、
どこか──ぎこちなかった。
(これってもしかして……
関係が進展してる……とか……!?
え、これ、実はデレ期ってやつ!?!?)
──そんな俺の妄想をぶち壊すように、
太一「勝己、授業始まるぞ〜。」
勝己「お、おう……わかったよ。」
俺は、わけのわからないモヤモヤを抱えながら、
自分の席へと戻った。
(りこの様子が、どうにも……変だ。)
──そして、
あの駒留の野郎の「りこだよ♥」発言──
アイツの言葉も、引っかかる。
昼休み。
りこは、無言で教室を出ていった。
(やっぱり、怪しい。
りこ……本当に、あのりこなのか?)
俺は机に突っ伏して、
朝にスエコーマートで買ったパンをかじった。
──うん。
スエコーマートのパン、普通に美味いな。
……じゃねぇんだよ!!!
問題はパンじゃねえ!!!
りこだよ!!!
なんで、なんで俺のこと──
「渡川くん」なんて呼ぶんだよ!!?
俺はスマホを取り出して、
美沙都さんにメッセージを送る。
『ファギアって……
人を操るとか、あるのか?』
──すぐに、返信が届いた。
美沙都『ありえる。
心理起因のファギアも存在する。』
(……やっぱりかよ──
これは、“異常”だ。)
昼休みの終わり際。
俺が教室を出ようとすると──
後ろから、聞き慣れたキモい声に呼び止められた。
堀井「よお、渡川。
りこちゃんが、屋上で──自撮りばっかしてたの、見たぜ?」
勝己「なにぃ!?
どこでだ、屋上だなッ!?」
堀井の笑みがキモいことには目をつぶって、
俺は一気に屋上へ駆け上がる。
そこには──
制服のスカートを翻しながら、
ちょっときわどいポーズでスマホを構える“りこ”の姿。
勝己「──お前……
お前、本当に“りこ”か?」
りこ「ううん、わたし──りこだよ?」
……違う。
違う、何かが違う。
勝己「じゃあ──俺の誕生日は?」
りこ「4月7日」
勝己「血液型は?」
りこ「O型」
(くそ……
どれも……正解しやがる……)
でも、それだけじゃわからねぇ。
俺は、
あの日の“感情”をぶつけた。
勝己「じゃあ……
O市でデートした時、
下着のマネキンの前で……
俺に、なんて言った!?」
りこ「え……」
りこ「『こういうの好きなの?』」
勝己「……ちげえよ。」
沈黙。
りこ「……覚えてないよ。
そんなこと。」
──その瞬間だった。
俺の中で、
何かが「コレじゃない」と叫んだ。
そこへ、誰かが駆け込んでくる。
──駒留だった。
駒留「勝己くん!
そいつ、ファギアで“わたし”になりすましてたヤツだ!!」
勝己はすぐに試す。
勝己「じゃあ──
下着のマネキンの前で言った、あの時のセリフは?」
駒留「えっち。」
……間違いねぇ。
──よし、
決まりだッ!!!
勝己「インビンシブル・インビジブル。
空気に、“駒留がファギアを発動する”役割を与えるッ!!」
俺は、深く息を吸い──
“りこ(偽)”に向かって息を吹きかける!
りこ(駒留)「はぁ!?なにを──ッ!?」
──その瞬間、
りこの身体が淡く発光し始めた。
そして──
駒留の身体から、何かの“魂”のようなものが抜け出す。
スピリッツトレード──“心の入れ替え”の能力。
それが、元の身体へと戻っていく。
りこ「も、戻った……!!」
駒留(本体)「……やるじゃねえか、渡川。
俺の“スピリッツトレード”を見破るとはな。」
勝己「てめぇも──
大門にイヴィルファングを渡されたクチか?」
駒留「そうだよ!あれは“力”だ!
お前の能力もなかなかイイな……!
お前の身体を──寄こせ!!」
勝己「今度は俺を狙う気かッ!!」
駒留「俺のファギア──
スピリッツ・トレード!!!魂の交換ッ!!!」
駒留の手から、
眩しい光が発せられる!
勝己(やば……避けろ──ッ!!)
バッと身をかわすと同時に、
俺は、口を開いた。
勝己「インビンシブル・インビジブル──
光をカラスに向かわせる役割を与える!!」
ビュンッ!
駒留の放った光は、
空に舞っていた1羽のカラスへと飛んだ。
──次の瞬間。
カラスの身体が淡く光り、
入れ替わるように──駒留の意識がカラスに移る。
カラス(駒留)「が、がああああああ!!!!?」
勝己「人間の身体じゃねえと、
ファギアは使えねぇんだろ?」
りこ「信じてくれてありがとう!勝己くん!」
あたりまえだ。
勝己「お前が苗字呼びなんてするわけねえからな」
カラス(駒留)「かあああああああ!!(ちくしょおおおおおお)」
駒留 カラスとして余生を過ごす。
お読みいただきありがとうございました!
第5話、いかがでしたか?
今回は“りこがりこじゃない”という、ジジ戦初の心理ミステリー風展開!
「好きな子を“感覚”で見抜く」って、やっぱり勝己の最大の強みだなと思いながら書きました。
そして駒留──カラスとして余生を過ごします!
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