第1部 第20話「不和」
前回までのあらすじ
なんか、でっっっかいコブができました。
名をリョウ。俺のことを「パパ」、りこのことを「ママ」と呼ぶ。
……なんだこの状況、めんどくせぇ。
2013年 7月2日
翌朝。
俺は早く起きて、未久ねえに頼もうと思ったんだ。
学校に行ってる間、リョウの面倒をお願いできないかって。
勝己「未久ねえ。」
未久「んぁ~……勝己くん、おはよ~♡(ほろ酔い)」
……って、おい。
昨夜のテンションのまま、朝ビールいってやがるこの人!!
未久「勝己くん、チューしよ♡」
勝己「やめろぉおお!!」
そのときだった。
りこ「あの、そういうの──やめてもらえませんか?」
※めっちゃ低い声で。
勝己「(あかん、汗が止まらん……)ア、アラヤダ、リコチャン、完全に敵対モード……」
これはダメだ。未久ねえには、リョウは任せられん!!
でも──
りこ「……でも、私たち学校があるよね……?」
そう、それもそうなんだよ!
この状況、完全に八方ふさがりだ!
くっそぉ、もし未久ねえがもうちょっとまともな大人だったら……!
勝利「ん?子どもの声がすると思ったら……なんだボウズ。
俺は孫を迎える準備なんて、まだ出来ちゃいなかったんだけどなぁ~?」
リョウ「もしかして……おじいちゃん?」
──ちょっと待て、なんで即答なんだリョウ!?
リョウ「じゃあ、この人は……おじいちゃんの、えっちな相手?」
勝利「これだッ☆」
(※小指を立てて、満面の笑み)
バチン!
美沙都「不純な一家だこと!!」
勝利「いてぇっ!? 何すんだよ美沙都ぉ!」
美沙都「今の、録画しておけばよかったな。伯母さんへの提出資料としては最高だったのに。」
美沙都「なぁ、勝己。《インビンシブル・インビジブル》に録画機能はついていないのか?」
勝己「発動すらしてねぇよ!
ついてたとしても、あって視力レベルだっつの!!」
話題をそらすしかねえな。
勝己「──あー、あの地下アリーナの話なんだけどさ。
あそこ、金持ちどもが道楽でファギア持ちを戦わせてる場所でさ。
最悪、死人が出てもおかしくないっていう……まさに狂気の見世物小屋だった。」
勝己「俺は大門を追って潜り込んだけど、もう、あんなことでファギアを使いたくねぇ。」
──軽く言ったけど、本音を言えば、あそこは地獄だった。
確かに、俺のファギアの進化にはなったが、それでも。
……そして問題は、大門。
あの野郎、まるで道端のガム。普段は気にも留めないのに、一度踏んじまえばしつこいったらありゃしねぇ。
だけどな──
義妹が死んで、それに似たりこに執着してるって理由があるにしても。
だからって、ストーカーしていいなんて道理にはならねぇんだよ。
勝己「……リョウのこと、どうすっかなあ……」
ポクポクポク……チーン!
勝己「そうだ!りこ、ポケットなあれの育て屋ってさ、タマゴ作るだけじゃなくて──レベル上げにも使えるよな?」
これだ!名案きた!
勝己「親父に送迎を頼んで、近隣のO市にある託児スペースに預ける!これがベスト!」
──マフラー巻いてタバコ逆さに持ってる、あの某先生だってこう言うはずだ。 「それがベスト……」ってな!
未久「言わないわ!なに急に、有名漫画の登場人物になった気でいるの!?」
リョウ「パパとママはお勉強があるんだね。じゃあ、未久おばさんと待ってるよ」
未久「……今、なんて言ったァ!?」
リョウ「だって、パパのお姉ちゃんでしょ? だから、おば──」
未久「──お姉ちゃん、だよ?」
勝己「リョウくぅん? 21歳の人をおばさんって呼ぶのは怒られるんDA」
未久「昭和のカルトアニメみたいな言い方しないでくれる!?」
勝己「まあでもさぁ……親のいとこをなんて呼ぶべきかなんて、学校じゃ教えねーしなぁ」
未久「お姉ちゃん、で統一してください」
まぁ呼ばれ方には敏感なんだな。
未久「姉の子どもにおばになった妹が、お姉ちゃん呼びさせるのって、わりとあるあるなんだよ!」
勝己「いや、だとしてもだよ? 未久ねえは俺の姉みたいなもんだからな。それとはケースが違うでしょ」
未久「おばさんって呼び続けるなら、この子、迷子として警察に届けるから」
勝己「なにその地獄みたいな対応!? ていうか、常識人ポジションのあんたがそれかよ!? あの親和エルフ大好きメガネこと静華でも、同じこと言いそうで怖いわ……!」
勝己「つーか、昨夜リョウの相談してんのに、ガチャ切りされたしな……! あの女には、2マリガンスタート確定の呪いでもかけてやりてえわ!」
勝己「ん?静華からメッセージだな。昨日のガチャ切りの件、謝罪か?」
静華『見てこのハンド』
送られてきたのは、カードゲームの手札の写真。しかもかなり強い。
勝己「はぁ!? 朝っぱらからお前のデッキの布教とか誰得だよ!? デカブツとマナ1だけでスタートしてろ!んで、マナ出し用の生物引けずに事故ってろ!!」
……と、思ったらまたメッセージ。今度は……誤送信か?
静華『強すぎて勝ち確定ごめんなさい。そのリョウって子の件、警察にも相談した方がいいと思う』
勝己「謝る内容そこじゃねぇ!! ポンコツすぎんだろ、あの知的メガネ女!!」
もうキリがねえ!りこの元へ行くぞ
勝己「りこ〜、愛妻弁当はできましたかな〜?(にこにこ)」
りこ「愛妻だなんて……(照れて顔を赤らめる)そんなぁ……もうっ」
勝己「で、言いにくいんだが――未久ねえと静華から、リョウのこと警察にも相談しろって言われててさ。どうする?」
りこ「うーん……まあ、あの子、昨日の夜に雨の中ずっと立ってて、最初は名前すら思い出せない状態だったしね」
勝己「ってか、雨ん中でずぶ濡れで立ってたって何事よ。100年前からの手紙でも待ってんのかアイツは」
りこ「そ、それは……」
勝己「でもって100年前の手紙が届いたら、いきなり西部劇の世界とか言い出すのもなあ……」
りこ「ちょっと!? 車がタイムマシンになってる話にすり替わってない!?」
勝己「まあさ、こんな――おほん、変わったお子さんにママって呼ばれたからって、俺たちで全部面倒みる義理はないだろ? な? わかるよな?」
りこ「……でも、ママって言って慕ってくる子を、知らん顔なんて――できないよ。私、そんなに冷たくなれない……!」
勝己「……りこ、お前、自分の家に親がいないからって、ウチに転がり込んできたよな。それだけなら――まだいい。だけど、そこに正体不明の子どもまで連れてきて、ウチに迷惑かかるとか考えなかったのか? 昨日は流れで連れてきちまったけど……」
りこ「……っ」
りこは、戸惑いの表情を浮かべて、言葉に詰まった。
勝己「……感情で動きすぎだよ、お前。」
りこ「――わからず屋。」
ピシャリとした口調。ふざけた雰囲気なんか、どこにもない。
勝己「り、りこさん……?」
りこ「そんなに冷たい人だと思わなかった。」
――あ、やべ。これ、ふざけすぎたか?
りこ「この子、連れて帰る。私の家に。」
勝己「ちょ、学校は――!?」
りこ「行けば?」
そう言い残して、りこは踵を返した。
勝己「ちょっと待てよ! 俺たち、あんなに一緒だっただろ……!」
りこ「……知らない。」
玄関のドアが閉まる音が、心に響いた。
美沙都「……やっちまったな(ボソッ)」
勝己「そのリアクションやめてくれえぇぇ!」
昼休み。廊下で静華に声をかけた。
勝己「……静華、ちょっといいか?」
静華「鹿子さんは?」
勝己「……リョウの世話で、今日は休みだってさ。」
静華「ふぅん。皆勤賞、消えたわね。」
あっさり言うなよ。もっとこう、心配とかねえの?
勝己「で、あのさ。静華からも、りこを説得してくんね? 俺からじゃ話にならなくて……」
静華「無理。」
即答だった。むしろ食い気味で。
勝己「……はやっ。」
静華「あなたの差し金だって、すぐバレるでしょ?今の彼女が、あなたの言うことを聞くと思う?」
勝己「うっ……」
静華「そんな状態で、私が口出したら、関係まで悪くなるに決まってるじゃない。言うだけ時間の無駄よ。」
ぐうの音も出ねえ。完敗感すごい。
静華「……それとも、鹿子さんがダメになったから、保険にしようとか思ってないでしょうね?」
勝己「さすがに俺だって、そこまで薄情じゃねーよ。てか、お前と付き合うとか、普通に嫌だし。」
静華「奇遇ね。私も、あなたの交際相手になるのは願い下げよ。」
口調は冷たいが、どこか一周回って落ち着くこのやり取り。
静華「でも……話し相手くらいにはなってあげるわよ。何度か一緒に戦ってきた仲だしね。」
そう言って、彼女は踵を返し、次の授業に向かって廊下を歩いていく。
勝己「あのさ」
静華「なに?」
勝己「……ありがとうな。」
静華「それだけ?」
勝己「それだけだっ!」
ふっと、静華の口元がやわらかく緩んだように見えたのは……気のせいじゃなかったと思う。




