第1部第18話「覚醒」
物語は動き出す。
勝己は力の使い方を、りこは守りたい存在と出会う。
【2013年7月1日】
オッス、渡川勝己だ。
──ここは、地下のファギア闘技場。
大門を追って、たどり着いた闇のバトルフィールド。
俺は2勝を挙げて、一時の休憩を与えられた。
控室に足を踏み入れた瞬間──そこに**“異物”**がいた。
男「やぁ、すごい歓声だったねー。
君、すっごい戦いしてたね。──スゴいんだ、キミ?」
──仮面の男だった。
白の陶器のような仮面に、満面の笑顔が張り付いている。
まるで**喜怒哀楽を演じることすら放棄した、“笑顔の死神”**みたいな男だった。
勝己の内心「……関わるとヤベえ。関わらんでおこう」
男「無視かぁ。それも仕方ないか──
だって僕たち、このあと戦うかもしれない敵同士、だもんねぇ」
勝己「……喋るのも、疲れるからなぁ」
──警戒は解かない。
こいつの**“会話のリズム”が明らかに異常**だ。
男「ところで──
“大門くん”って知ってる?」
──警告のベルが、頭の中で鳴った。
笑顔の仮面の男が、ポツリと呟く。
仮面の男「彼──大門くんは、ここで4回も5連勝を成し遂げた男だよ。
つまり、4000万円を手にした勝者さ」
勝己「へぇ、そいつはすげぇな。若ぇのによぉ」
(適当に流しておく。こいつ、妙に情報持ちすぎてる)
仮面の男「彼のお父さんは……北海道でそこそこ名の知れたお菓子会社の親族役員だった。
でもね──借金がその父親に全部のしかかって、家族はバラバラになった」
──仮面の男は、懐から一枚の写真を出してきた。
仮面の男「これが彼の2個下の“妹”だよ。
まぁ、“養女”だから血は繋がってないんだけどね」
──!!
俺は目を疑った。
その写真に映っている少女は──
りこに、そっくりだった。
勝己(……これかよ……
あいつが“りこ”に異様に執着してた理由は──
妹の面影を重ねてたってわけかよ!!)
仮面の男「大門くんは、“ビオ”を信じた。
進化生命体ビオは、死んだものを“蘇らせる力”を持ってる──
そう信じて、力を欲した。
──妹をよみがえらせる力を得るために。」
勝己「……」
仮面の男「最初はさ、ここで“仲間”を見つけようとしてたんだ。
一緒に、ビオに辿り着けるような。
でも──“何か”が彼を狂わせていった」
──“何か”?
こいつ、なんでそんなに詳しいんだ?
勝己(……なんだこいつは?
まるで、全部“見てた”みたいな口ぶりじゃねえか……)
仮面の男の口元が、ゆがんだ笑みを浮かべた。
仮面の男「“ビオ”と名を出した時、君の目がピクリと動いたね……
ならば教えてやろう──
お前は、“フェルト・リバーメイカー”の子孫だ。」
勝己「……は?」
男の声が低くなる。まるで地の底から響いてくるような声だった。
仮面の男「ビオ──“完全なる進化”を目指した存在。
その始まりはひとりの女だった。
フェルト・リバーメイカー。
彼女の血が、ビオの進化のトリガーになったんだ」
勝己「……そいつが……俺の、先祖……?」
仮面の奥、ギラリと血走った瞳が見えた。
仮面の男「そしてその血を受け継ぐ者が、渡川勝己、お前だ!!
お前たちの存在こそが、ビオにとっての“障害”だ。
だから今度こそ──消し去る」
勝己「“今度こそ”って……10年前──」
仮面の男「そうだ。
深山美沙都が、ビオを滅ぼした。
進化の果て、最も完全に近づいたビオを──だ」
──脳裏に、あのとんでもない訓練の日々が蘇る。
勝己(美沙都さん……あれほどの力を持つ理由が、そこにあったのか)
仮面の男「だがな──ビオは“死んでいない”
ビオは最後に“子”を残した。
その子が、今頃この町に**“連れて来られる”**だろう」
勝己「……っ!」
仮面の男「いずれお前たちが対峙する。
その子は、“記憶”も“意思”も持たないかもしれない。
だが──ビオのDNAが脈打っている。
進化は、再び始まるのだ……!」
東谷町の空が、真っ黒に染まりはじめていた。
ぽつ、ぽつと、窓を叩く雨音。
それは、まるで何かの“警鐘”のように響いていた。
りこはカーテンの隙間から、外を見た。
……そこにいた。
街灯に照らされた雨の中、
ただじっと立ち尽くすひとりの少年がいた。
色白で、小さな身体。
表情は……まるで何かを探しているようだった。
りこ「……あの子、ずっと濡れてる……」
いてもたってもいられなかった。
りこは傘を持って外に出ると、
その子の肩にそっと差し出した。
りこ「どうしてこんなところにいたの? 名前、聞かせてくれる?」
少年は、小さく首を振った。
少年「……わかんない……」
その瞬間──ゴロゴロォン!!
雷が夜空を裂く。
少年「……っ!!」
バッと、りこの服の袖を握る。
震えていた。びしょぬれの身体で、小刻みに。
少年「……ママ……?」
りこ「……え?」
少年「……ママ……じゃない……の……?」
その瞳に浮かんだ涙。
声が、震えていた。
りこは一瞬戸惑う──でも、すぐに微笑んだ。
りこ「ううん、ママでいいよ。落ち着いて。大丈夫だから」
少年は、涙をぽろりとこぼした。
その涙は、まるで……人間の“心”を持っている証のようだった。
仮面の男の言葉が、耳にこびりついて離れなかった。
「あの子は“ビオ”そのものだ」
嘘だと思いたかった。
けれど……心のどこかで確信があった。
勝己(やべえ、マジでやべえ……!
今すぐ美沙都さんに伝えねえと……)
地下通路を、駆け足で進む。
と──
風の流れ。
空気の違和感。
──奴がいる。
鼻息のクセ。
歪んだテンション。
大門だ。
案の定、ニヤリと歪んだ顔を仮面の下に潜ませながら、立ち止まった。
大門「へぇ、勝己くんも来たんだ?」
勝己「……その呼び方、やめろ」
大門「次で5戦目だろ?
このままいけば、お前と俺の“最終決戦”ってわけだ」
勝己「……ああ、奇しくも因縁ってやつだな」
大門「オレは5連勝すりゃあ、この街に家が持てる。
“りこと二人暮らし”するための、な」
勝己「……くだらねぇ妄想、語るなよ」
大門「もう“名前”も考えてんだ、一人目の」
勝己「……!」
その瞬間、勝己の中で何かがはじけた。
勝己「わかりたくもねぇし、聞きたくもねえ。
──とっとと、失せろ」
大門「ククッ、楽しみにしてるぜ、ダ・イ・ゴ・ロ・ウ?」
──肩がぶつかる。
すれ違いざま、大門の吐息が背中にかかった気がして、
勝己はぐっと歯を食いしばる。
(ぜってぇ、負けねえ。
こんなクズに、りこも、この街も、渡すもんか……!)
司会「では、3人目の相手は──ッ!」
司会「その身に宿すは超古代のファギア!ティラノマン!!」
闘技場がざわつく。
巨大な体躯。広がる鋭い腕。そして──極太の“しっぽ”。
ティラノマン「ガウッ!」
……なんか雄叫び入れとけば強く見えると思ってんのか。
勝己「能書きはいい、とっとと始めようぜ。
客が待ってるんだろ?」
司会「ゴォング!!」
──瞬間。
ティラノマンの足が跳ねた。
ブオン!!と音を立てて、しっぽが金網を裂くように叩きつけられる!!
勝己「うっ……!?」
ギリギリで回避。
だが空気の感覚が……狂ってる。
ティラノマン「オイ、そろそろ種明かししてやるよ」
「お前の“空気操作”、動き出す瞬間の気圧の乱れでわかんだよ!!」
勝己(こいつ、目が……)
ティラノマン「“目がいい”んじゃねぇ。“空気の乱れ”を、見てるんだよ!!!」
ティラノマン「どうだ、この爪の動き!──これが、**“狩りの動き”**だァッ!!」
金網が切り裂かれるほどの高速スラッシュ。
勝己は身を翻し、なんとか一撃を回避する!
勝己(ちくしょう!避けるので精いっぱいだ……)
巨大な尾が風を巻き、刃のように振り回される。
それに加えて──背中の骨状の「ステゴプレート」が、伸縮している。
勝己(あのステゴ部分、エネルギー制御の調整器……!)
(なるほど、こいつ……大門と同じ、肉体変化型ファギアか!)
ティラノマン「どうした少年!顔色が悪いぜぇ!防戦一方ってやつだぁ!」
勝己「……いーや、違うね」
汗をぬぐい、仮面の下で不敵に笑う。
勝己「博物館見学の時間は終わりだ。」
ティラノマン「なにぃ?」
勝己「──見切った!!」
ティラノマン「なんだその指の動きは!!」
仮面の下、勝己はニヤリと笑う。
勝己「──書き込んでんだよ。コードを、空気に!!」
ティラノマン「ふざけた真似を!!空気ごときに負ける恐竜じゃねえ!!」
だが、勝己は止まらない。
勝利(親父)「1も、小さく見れば“100”と同じように集まっているという考えもできるんだよ。」
その言葉が、ずっと脳裏に残っていた。
今、答えが見えた──
“1つの役割”に縛られてたのは、自分の思い込みだった。
勝己「与えるのは──0.001のパンチ。」
指を突き出し、無数の点に“役割”を書き込む。
勝己「だがな、それを──1000発だ!!」
勝己「サウザンドスマッシュ!!!」
空気の粒がミサイルのようにティラノマンを包囲する!!
ティラノマン「なっ、俺は恐竜の頂点──そんなパンチでっ……!」
ドガガガガガガ!!!
無数の0.001パンチが、一撃ごとに細胞を震わせ、神経を刺激し、筋肉を弾き飛ばす!
ティラノマン「見事だ……お前は……(バタリ)」
司会の実況が熱い!!
「今宵の闘技場はまるで地獄の門!
ダイゴロウ4戦目は対戦相手の棄権により不戦勝!
男と男、女をかけた因縁の戦いがここに!!」
大門がマントを脱ぎ捨て、肉体に宿した複数の動物がうごめく──
観客「おおおおお!!」
司会「一方、対するはこの男!!
空気の魔術師──“ダイゴロウ”!!
このアリーナを変えた革命児ッ!!」
大門「なぁ勝己、お前さぁ、俺の留守中に“俺の女”に何しやがった?」
勝己「ハッ、勘違いも甚だしいな。お前みたいなゲスが、りこに触れる資格なんかねぇよ。」
大門「触れただけじゃねぇ、今夜、最後の一本勝ち取って──
“あいつ”を孕ませてやるよ!!俺の子をな!!」
勝己「……殺す。」
ヤジ1「このチビが調子乗ってんじゃねーぞ!」
ヤジ2「女を盾に勝ち誇る奴に男の価値はねぇぞ!!」
ヤジ3「フュージョンデーモン、地獄見せてやれ!!」
司会「ゴングぅうううう!!!」
大門「お前、試合一つ少ないとはいえ、疲れは溜まってるだろ? 二分間、クモの糸は使わないでおいてやるよ」
余裕ぶった大門の態度が、逆に不気味だった。
だが、そこまで油断してくれるなら──俺のサウザンドスマッシュでぶち抜いてやる!
「跳ね返す力で進化した俺の跳躍。お前が追いつけると思うなよ? 童話なら、ウサギとカメか? だが俺は──油断しねぇウサギなんだわ!」
「だったら、ゴールで待ってるカメの勝ちってことだ!」
煽り返した瞬間、視界から大門が消えた。
──ドスッ!
強烈な蹴りが、俺の腹を撃ち抜く。痛みとともに、息が詰まった。
「司会! 経過時間は!」
「……一分五秒!」
ちっ……! 時間はまだ半分! コードがまとまらねぇ……!
あいつの動き、俺と“軸”が違いすぎる!
まるで二次元と三次元のゲーム。こっちは平面の戦いをしてるのに、奴は空間を自在に飛び回ってやがる……!
~回想~
勝己「りこ、お前もファギアあるんだな」
りこ「てへへ、でもね、わたしのは戦えない力だよ。だって、人の記憶を読み取るくらいしかできないもん。ビジョンも出せないし」
勝己「ふーん……でもさ、それって逆にスゴくね? 強請ったりできんじゃねえの? 俺だったらそう使うけどな」
りこ「……勝己くん、それ、わたしにそんな悪い使い方してほしいって思ってるの?」
勝己「いや、まあ……お前には、隠し事できねーからな」
りこ「ふふっ、そうだよね。……でもね、勝己くんのファギア――《インビンシブルインビジブル》はね。わたし、ずっと思ってたんだ」
勝己「ん?」
りこ「きっとそれは――“誰かを助けるための、夢の演算機”なんだよ」
勝己「そうだ……拳の一発分の威力が0.8でも、800発叩き込めば、あいつには十分だ!」
俺は息を整えながら、自分に言い聞かせる。
勝己「残りの0.2は――お前を掴むために使わせてもらうぜ!」
勝己「大門、てめぇを捕まえる“力”に0.2使う! さあ、キメるぞ!!」
大門「は……? な、なんだ!? 背中が引っ張られるッ……!?」
勝己「ライフは“きっちり”削ればいい。余分はいらねえ!」
勝己「――エイティオー・ホールド・コンボ!!!」
炸裂した一撃に、大門の身体が吹き飛ぶ――!
司会「ダウンッ!! フュージョン・デーモン、敗れる! ダイゴロウ、いや――勝己が! 登場以来、無敗だった男に初の土をつけたぁぁ!!」
アリーナに鳴り響く歓声の中、俺は、賞金の入ったケースを片手に歩き出した。
静かに、そして確かに。
そして――アリーナの出口で、仮面を外す。
俺の名前は、渡川勝己だ。
仮面をつけているのはここまでだな。
あーちらいおんです。遅くなり申し訳ございません。
第1部残りも続けて投稿しますので引き続きよろしくお願いします!




