第1部 第11話「継承(けいしょう)」
今回は“修行回”です。
ただの修行じゃありません、山登りからの地獄メニュー付き!
体力、根性、そしてファギアのセンス……全部ぶっ叩き込まれます。
ちなみに、タイトルの「継承」がどこにかかってくるかは、最後まで読んでのお楽しみ。
勝己の“成長”をちょっとだけ感じられる回になってます。
2013年 6月8日
第1部 第11話「継承」
──俺が、大門からりこを救い出した、あの日のあと。
聞いた話によると、
美沙都さんが、大門と交戦したらしい。
あの人は、10年前の進化生命体事件を終わらせた、伝説の“勝者”。
そのファギア──**《キル・ザ・ブリンガー》**は、無敵とまで言われていた。
けど──
美沙都さんの攻撃を受けても、大門は……仕留めきれなかった。
勝己「マジかよ……あのキル・ザ・ブリンガーでも、ダメだったのかよ……」
ただ、美沙都さん曰く──
「ヤツの“トカゲの再生能力”は、潰した」とのこと。
再生を封じるほどの一撃。
……それだけで、十分すぎるくらい、スゴい。
勝己「マジリスペクトっすわ……」
でもつまり、それでも倒しきれなかったってことは──
──俺が、“次”に進まなきゃいけないってことだ。
──俺が住んでる東谷町は、自然が豊かな場所だ。
とはいえ、隣のM町方面に向かう途中にある千景って地域は、
同じ東谷町内でも、なんか“別モン感”がすごい。
中学校も違えば、空気感も違う。
なぜかキャラの濃い連中が多くて、
“あれ?ここ、別の自治体だったっけ?”って錯覚するくらいだ。
まあ、北海道にはよくある話なんだけど。
勝己(だって本町から15kmも離れてんのに、
まだカントリーサイン見てないとか……あ、ここ離れてるんだ!ってやつじゃん)
──そんなこんなで今、俺は列車に揺られていた。
勝己「でさ、美沙都さん。
なんで俺ら、汽車乗ってんの?」
美沙都「千景行きの切符だから。……千景に行くとわかるだろう?」
勝己「だから、“なんで行くのか”を聞いてんだってのぉぉぉ!!」
──列車内、思わずツッコんでしまった。
しかも車内、静かだから反響エグい。
俺、なにこれ? 修行イベント? 転校?
謎が謎を呼ぶ、千景編スタートの車窓から──。
列車はゆっくりと、東谷から千景へ向かって進んでいく。
窓の外に広がるのは、
ただ、ただ、どこまでも続く畑、畑、また畑。
見渡す限り、緑と土のパッチワーク。
勝己(……すっげぇな。
街からたった6km離れただけで、ここまで“田舎感”あるのか)
ふと、窓の向こうに目をやると──
のっそり走るトラクターの姿が見えた。
勝己(うん、これ絶対“修行系の導入”だろ。畑仕事からスタートみたいな──)
未久「今日はね~、サンドイッチ作ったよ~♪」
……は?
勝己(え、ちょ、待って!?)
なにこれ?
このテンション、このメンツ、この空気感──
俺、今から美人いとこ2人とピクニックでも行くの?
楽しい楽しい遠足ですか!?!?
……って油断した瞬間、
だいたい地獄が始まるの、俺もう知ってるんだよな。
──その頃、東谷高校。りこ視点。
りこ「それじゃあ、よろしくお願いします!」
今日は、ちょっと特別な日。
なんと……わたし、制服ポスターのモデルに選ばれちゃいました!
(……えへへ、ちょっと照れるけど、嬉しいなぁ)
校舎の中庭。
制服に身を包んで立つと、カメラマンさんが軽くうなずいた。
カメラマン「硬すぎず、そうそう、うん……いい顔! そのままいこう!」
カシャッ、カシャッ。
シャッター音が、軽やかに響く。
りこ(5枚撮影……かな?)
……どの写真が使われるんだろう。
ちょっと緊張するけど──
楽しみ、かも。
──千景駅。
列車を降りたのは、俺と、深山姉妹。
勝己「……うわ、ここで降りるの、小学校の遠足以来だなぁ……」
懐かしさに、ついぼそりと呟く。
が──その隣で、
美沙都「……フッ。思い出話をしていられるほどの余裕があるのは、“今のうち”だぞ」
勝己「え、なにその言い方!? なに!? 怖いんだけど!!」
なにその含みありすぎる“お姉さんスマイル”!?
地雷踏んだ系!? これからやばいやつ来る系!?!?
未久「勝己く~ん♪ 夕日山まで、歩こうね~」
夕日山──
たしか、千景駅から日高山脈方面へ向かう場所にある山。
しかも駅の案内板に、**“駅から15km”**って書いてあったような……
勝己「……いやだあああああああああ!!!」
美沙都「歩け」
あのトーン、完全に“拒否権なし”のやつだ……。
──大体、登り始めて3時間後。
夕日山の展望台に、ようやく辿り着いた。
勝己(……マジで山じゃん。超のどかじゃん)
でも、周りを見回して気づいた。
勝己(……え、これ一応、車でも来れる場所じゃねえか!?)
なんで歩かせた!!
レンタカー借りろや!!
てか、ここ本当に東谷町なのかよ。
東谷町民でも来たことあるやつ、どれくらいいんだココ!?
“町内なのにほぼ別世界”感すごい!!
勝己(これ……ちょっと遠くに“拉致られた感”あるぞ!?)
未久「着いたね~! あー、空気おいし~♪」
未久ねえはのびのびと、深呼吸。
くそっ……この人だけピクニック気分だ……!
そのとき──
美沙都「勝己。……お前、あまり息を切らしていないな」
勝己「ま、まあ、日頃鍛えてるから……って、え?」
美沙都「5分後に始めるぞ。」
勝己「……え? なにを……?」
お願いだから、そういうことは段取り踏んで伝えて……!!
美沙都「ファギアの訓練だ。」
勝己「いやだああああああああああああああああああああ!!!」
──こうして、“ピクニック(嘘)”は、“地獄の訓練”へと進化するのだった──。
──こうして始まった、美沙都さんによる“ありがた~いファギア訓練”。
……の、はずが。
勝己(……あれ?)
なんで俺、今ストレッチしてんの?
なんか普通に体育の準備運動みたいなことしてんだけど……。
しかも、未久ねえまでとなりで伸びてる。
美沙都「スクワット100回」
勝己「アアアアアアアアアアアア!!?」
美沙都「騒ぐな。無駄に体力を使うな」
勝己(なんで特訓してんだ俺!?!?
いや、まぁ……大門には勝ちたいけどさァ!?)
美沙都「次──うさぎ跳び50メートル」
勝己「うおおおおおおおおおおおお!!!」
跳ねる跳ねる跳ねる……足パンッパン!!
美沙都「お前、黙ってできないのか?」
勝己「はぁ、はぁ……終わったぞ美沙都さん!」
美沙都「2分休憩。──もう1セット」
勝己「鬼軍曹があああああああああああああ!!」
っていうかさぁ!
なんで隣でストレッチしてた未久ねえが、
一切息切れせずピョンピョン跳んでんの!?!?
未久「楽しいね、勝己く~ん♪」
勝己「アンタら姉妹は──
バケモンかあああああああああああ!!」
美沙都「次、縄跳び50回連続」
未久「は〜い♪」
ぴょんぴょん。
勝己(あー、未久ねえが跳んでる〜……かわい〜……ぷるんぷる〜ん……)
──じゃねえッ!!
勝己「……きつい!! キツすぎる!!!」
美沙都「逆立ち、30秒キープ」
勝己「ちょ、待てそれファギアに関係あんの!?」
美沙都「肉体が強いほうが、ファギアも強くなる。……黙ってやれ」
勝己(……体育教師のテンプレやないかい!!)
ゼェゼェと息を切らしながら、
なんとかすべてのメニューを終えた。
美沙都「……よし」
勝己(よし!?)
勝己「やっ……やった……終わった……」
未久「勝己く〜ん、はいっ♪」
未久ねえが、汗をかいた俺にタオルを差し出してくれた。
勝己(……あ、なんか……癒される……)
勝己(未久ねえ、マジママ……!
家ではアレだけど、今だけは……マジでママすぎる……!)
勝己「じゃあ、いよいよ!
本格的なファギア訓練、ですよね!?!?
美沙都「そうだな。身体も温まっただろう」
勝己「……これ、ウォーミングアップだったの!?!?!?!?」
美沙都「いいか。ファギアには、必ずしも“法則性”がある」
勝己「はぁ……」
勝己(ん? なにこれ、急にお勉強会?)
美沙都「中でも多いのが、“呼吸のリズム”などに合わせて発動するタイプ。
私のファギア──《キル・ザ・ブリンガー》も、それに当たる」
勝己「ふーん、なるほどな。つまり呼吸のリズムで──」
ズバァンッ!!!
勝己「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!???」
──俺の目の前に、
**“刃”**が、躊躇なく振り下ろされた。
ギリギリで跳ね退く。
勝己「バカか!! ビジョン型ファギアを、いきなり振り下ろすなぁぁ!!
教科書ドーンじゃねえんだぞぉ!!」
美沙都「実戦は常に突然始まる。お前に本当のリズムを教えてやっている」
勝己「講義形式じゃだめだったのかよ!!!」
美沙都「私は呼吸に“緩急”をつけ、
わざとリズムを乱すことで、相手にペースを読ませないようにしている」
勝己「……(いやマジで読めなかったし殺されかけたんだが!?)」
美沙都「だがそれも──10年以上の訓練の賜物だ」
勝己「うわあああ……先は長ぇ……」
勝己「なあ、美沙都さん。
相手のファギアが“わかりきってない時”って……どうすればいいんだ?」
美沙都「──観察しろ」
勝己「観察……」
美沙都「“見る”じゃない。“視る”だ」
勝己「……はぁ、なるほど……(なんか急に悟り系きたぞ)」
美沙都「ただ目に入れるだけではなく、相手の動作、呼吸、感情、
すべてを“見抜け”。 それが、生き残る方法だ」
勝己(おお……それっぽい……ちょっとカッコいい……)
勝己「……で、具体的にどうやってやんの? 先生!」
美沙都「──先に倒してしまえばいい」
勝己「出たァァァ!!最終的にパワー理論で解決するやつ!!!」
そりゃなぁ!?
**キル・ザ・ブリンガーとかいうAS(アタックスピード特化)型のファギア持ってたら、
先にぶっ飛ばすで正解なんだろうけどさァ!?!?
勝己「結局、脳筋じゃねえかァァァァ!!!」
美沙都「さて……実戦に入ろうか」
勝己「やめてよね、本気でケンカしたら、俺があんたに勝てるわけないだろ……」
完全にやる気失ってる俺を尻目に、
美沙都さんはカバンから、水の入ったペットボトルを取り出した。
勝己「……水?」
美沙都「このペットボトルを、私から奪い、飲んだら勝ちだ」
勝己「なにその修行!?
猫の仙人キャラが弟子にやらせるやつじゃんそれ!!」
美沙都「どんなやり方でも構わん。──始めるぞ」
勝己(おぉ……ガチでその気だ……)
──だが、俺にも策がある。
勝己「どんなことでもいいって言ったよな?」
そう言いながら、
俺はさりげなく、未久ねえの後ろに回り込む。
勝己「とっととペットボトルを寄こしやがれ!
でないと──未久ねえがどうなっても知らねえぞ!?」
未久「……あっ! そういうのダメなんだよ〜!」
美沙都「──キル・ザ・ブリンガー。」
ズドォォォォォン!!!
勝己「ぶふぁあああああああああああああ!!!!」
俺は空中を吹っ飛んだ。
木の枝に引っかかって、
「ドンッ!」って音とともに地面に落ちる。
勝己「く、くそっ……やっぱこの姉妹、
笑顔で殺しにくるタイプのバケモンだぁ……!!」
──ペットボトルを取るための試練、ついに開始!
俺が何度手を伸ばしても、
美沙都さんは、無駄なくすり抜けていく。
ほんのあと一歩──
でもその一歩が、遠すぎるんだよ!
勝己(あ、くそ! なんだよこの動き!?
いったいどんな筋肉してやがる!)
無表情で、すます顔しやがって──
勝己「インビンシブル・インビジブル!
空気に、美沙都さんを転ばせる役割を与える!」
どかーん!
美沙都さん、やっぱり転倒する。
しかし、
すぐにバネのように立ち上がり──
──即、俺に向かって蹴りを返してきた!!
勝己「ぐはぁっ!!」
俺はそのまま後ろに倒れ込む。
勝己(くそっ……反則だろフィジカル強すぎだろこの人!!)
美沙都「お前のファギアには、無限の可能性があるだろう」
勝己(ふ、ふざけんな!!)
勝己「ぜってぇ取る!!俺は諦め悪い方なんだ!」
美沙都「──最後の汽車の時間に、帰れるといいな」
勝己(いや、やっぱりこの人鬼かよ!?)
そのとき、美沙都さんが──
《キル・ザ・ブリンガー》を、攻撃に使ってきた。
何度も俺の方へ、容赦なく振り下ろしてくる。
勝己(こっわ!? てか本気でやってんじゃんこの人……!!)
だが、その動き……どこかで見たことがある。
勝己(……あれ? このパターン……)
──大門の“カマキリの斬撃”に、似てる……!
勝己「……なるほどな。
大門戦を想定した模擬戦ってわけか!!」
俺はすぐにファギアを発動する。
勝己「《インビンシブル・インビジブル》!
“攻撃によって空気が揺れたら、ペットボトルが吹っ飛ぶ”役割だ!」
ズガァァンッ!!
美沙都さんが振り下ろした一撃──
その風圧で、ペットボトルがふわりと宙へ舞い上がる!
美沙都「……チッ」
勝己(よし!今だッ!!)
勝己「もう次の役割も準備できてるぜ!!
《インビンシブル・インビジブル》ッ!!」
宙を舞うペットボトル。
その軌道を──俺は“空気の意志”で操る。
勝己「“落下する空気の流れに沿って、ペットボトルが俺の手元に来る”役割!!」
その瞬間──
ペットボトルがくるりと軌道を変えて、
俺の方へと……スッ、と吸い込まれるように滑ってくる。
ポタ……ポタ……
穴の空いたキャップの隙間から、水が……俺の口に、注がれた。
ゴク……ゴク……
勝己「……ぷはっ。飲んだ!」
美沙都「──見事だ」
勝己(──取った。やっと、取ったんだ……!)
──結局、帰りの汽車には間に合いそうになかった。
……ので。
俺たちは、О市方面から帰ってくる途中だった親父の車に拾ってもらって、
東谷まで帰ることになった。
勝利「まさか夕日山まで迎えに行くとはな〜……
それにしても、久しぶりだなぁ。美沙都」
運転席で、親父が嬉しそうに笑う。
美沙都「……こいつの甘ったれた性格は、間違いなく伯父さん譲りだよ」
勝己「え、そこは譲らないでよ……」
親父は、笑ってごまかすように言った。
勝利「こいつ、昔から根性なしだからなー。
もっと鍛えてもらってもいいぞ〜、だっはっは!」
未久「また行きたいね〜♪ 夕日山!」
勝己「いやもう……修行はコリゴリだあああああああ!!」
そう叫んだあと、
助手席の窓から顔を出すと──
遠く、日高山脈の稜線に、オレンジ色の夕日が沈んでいった。
訓練の疲労と、
その向こうに残る達成感と。
少しだけ成長した自分と、
ちょっとだけ近づけた“未来のヒーロー像”を感じながら──
俺は、目を閉じた。
お読みいただきありがとうございました!
勝己、めちゃくちゃ頑張りました。というか頑張らされました。
美沙都さんはもうちょっと手加減してもいいのでは?と思いつつ、
こういう“無理矢理引き上げてくれる師匠ポジ”、嫌いじゃないです。
……というかあの姉妹、圧倒的すぎる。
次回は一転してちょっと不穏な展開になります。お楽しみに!




