第1部 第10話「危険」
前回の“夫婦ごっこ”から一転。
今回訪れるのは──りこ、最大の危機。
怪物の手が彼女に迫るとき、勝己は立ち上がる。
「お前に、りこは絶対渡さねえ」
2013年 6月3日
第1部 第10話「危険」
どうもどうも、渡川勝己です!
前回あんなに甘々でしたよね!?
ハンバーグだのシチューだの、“あなたー♡”だの──
これ、もうゴールイン確定でしょ!?おめでとう俺!!
……とか思っちゃった、そこのあなた。
いやいやいやいやいやいや。
人生、そんなに甘くないんだってば!!
いけるじゃん!すげえじゃん!アゼルバイジャン!じゃねぇんだよ!
いや知らんけどどこの国だよそれ!!
──そう、俺に訪れたのは“愛の実り”なんかじゃなかった。
危機だったのだ……!!
──なんなの、この化け物……!!
混ざってる。
いろんな生き物が……ぐちゃぐちゃに混ざってる人型の怪物が、
私を追いかけてくる。
猫のような静かで素早い動き。
それでいて、カエルみたいにあり得ない跳躍力。
──とにかく、逃げなきゃ。
学校とは逆方向へ、全力で駆け出した。
けど、それが──間違いだったのかもしれない。
気づけば、人の気配がまったくしない林の中。
ざわ……ざわ……木々が不穏に揺れる。
後ろから、あの“なにか”が迫ってくる。
近い……近い、やだ、来ないで──!
そのとき、
りこ「きゃっ!!」
足がもつれた。
バランスを崩して、地面に倒れ込む。
足首に、ねばねばした感触。
おそらく──クモの糸のようなものが絡みついていた。
すると、
大門「へへへ……りこ、可愛いピンクだなァ……」
ぴしり、と背筋が凍った。
大門の視線は、倒れ込んだ私のスカートの中に向いている。
その目は、理性も理屈も何もなかった。
──なんで……なんで、こんなやつに……。
私は震える指でスマホを取り出す。
そして、ただひとつ浮かんだ名前に──
『助けて』
位置情報を添えて、メッセージを送る。
──勝己くん、お願い。気づいて……!
──東谷高校 1年B組、朝の教室。
スマホをなんとなく開いた瞬間──
一通のメッセージが目に飛び込んできた。
『助けて』
送り主:りこ。
……添付された位置情報が、林のほうを指している。
勝己「……っ!!」
一気に血の気が引いた。
これは、ふざけてるんじゃない。
文字から“本気のヤバさ”が伝わってくる。
勝己(まさか……またあの大門の野郎か!?)
テメェ、りこに手ェ出したら、今度こそ──終わりだぞ!!
椅子をガタン!と鳴らして立ち上がる。
太一「おい! 勝己! どこ行くんだよ!」
勝己「悪ぃ──1時間目はズラかるぜ!!」
そのまま、教室のドアをぶち開けて飛び出した。
──これは、授業じゃねぇ。
りこを守るための、戦いだ。
──走る。とにかく、走る。
別に俺は、特段足が速いわけじゃない。
でも今は、そんなの関係ない。
全力で──りこを助けに行く。それだけだ。
この林、覚えてる。
保育所の頃──りことよく遊んだ場所だ。
あのときの笑顔が、脳裏をよぎる。
──そして今。
りこ「勝己くん!!助けて!!」
その叫びが、森の奥から聞こえた。
俺は迷わず、叫びの先へ突っ込んだ。
視界が開ける。
そこには──
大門「なんだぁ? これから楽しいとこだったのによォ……」
──バケモン化した大門が、
押し倒されたりこに跨っていた。
勝己「……大門。てめえ、りこから……離れやがれ!!」
怒りが、全身を駆け巡る。
イメージしろ。
この前、静華が作っていた即席爆弾の爆発──
その衝撃と破壊力を、俺のファギアで再現するんだ!
勝己「“インビンシブル・インビジブル”!!
空気に、“爆発する役割”を与えるッッ!!」
ボンッ!!
空間がうねり、爆風の“気配”が林に走る。
りこ「きゃあっ!!」
──その瞬間。
大門がりこをガシッと抱え、自らの盾にするように引き起こした。
大門「へっへへ……どうするよ? このまま爆発したら、りこが巻き込まれちまうぜ?」
最低すぎる。
でも──今の俺に、選択肢はあるのか……!?
──そのときだった。
大門の腕が変形を始める。
ぐにゅり、と肉がうねり、骨が突き出し、
カマキリの鎌のような刃物に変化していく!
勝己(チクショウ……! でももう、俺は能力を“宣言”してしまってる!)
逃れられない。
そして、次の瞬間──
シャッ!!
大門の鎌が、りこのスカートを斬り裂いた。
ぱさり。
破けた布が宙を舞う。
その一枚一枚が、まるで──俺たちの日常が壊れていく音みたいだった。
りこ「いやあああああああああ!!」
りこの叫び。
その声には、羞恥と怒り、そして恐怖が入り混じっていた。
勝己「ふざけんな……!!」
その長さ、ちょっとでも動けば“見える”レベルじゃねぇか!!
大門「よかったなぁ。もっと可愛くなったぜ? 俺的にはドストライクだ」
勝己「……このクソッタレがああああああああ!!!!」
ボンッ!!!
──その瞬間、俺の“空気に与えた爆発の役割”が、
ちょうど大門の背後に届いた。
ドガァァァァン!!!
煙と爆風が林を揺らす。
勝己(やった……! 巻き込んだッ!!)
──しかし。
大門「ふはは……正義は、負けねェんだよォォォ……!!」
大門の身体が、ぐずり……と脱皮するように形を変える。
勝己「なっ……!」
皮膚が剥がれ、中から傷のない新しい肉体が這い出てくる。
再生した。
まるでトカゲのように──
大門「“フランケンフュージョン”。
今度は“トカゲの力”で再生した。……無限の進化ってやつよ」
──これが、ヤツのファギア。
“フランケンフュージョン”──混ぜて、喰って、融合して、進化する悪夢の能力。
大門「俺はな……“進化生命体”にかなり近い存在なんでね」
──進化生命体。
その言葉に、脳裏に浮かんだのは10年前の記憶。
俺のいとこ、美沙都さんが倒した、伝説的な怪物。
勝己「進化生命体……まさか、テメェ……!」
大門「取り込むのは、必要な行為さ。
あらゆる生物を殺して、融合する──
それが、“フランケンフュージョン”の本質さ」
こいつ……命を、なんだと思ってやがる。
勝己「てめぇ……このゲス野郎。
てめぇのために、何匹の動物が死んでんだよ!!」
大門の口が、ぐにゅりと広がった。
まるでクモの顎のように、気色悪く歪む。
大門「渡川よ……お前、家の中に入ってきた虫を殺した数、覚えてるか?」
勝己「は……?」
大門「なぁ? 覚えてねぇだろ?
それが命ってやつだよ。
殺すか、殺されるか。そんなもん、生存競争の結果にすぎねぇんだよ」
──そう言いながら、
りこにカマキリの刃をピタリと当てたまま、大門は続ける。
大門「俺にとっては、これはもう必要不可欠なことなんだよ」
りこ「ひどい……!!」
震える声で、りこが大門を責める。
……でも、ヤツは――
大門「りこぉ……お前は意見するな。
お前は、俺の子を産む。それだけでいいんだよ」
──その瞬間だった。
何かが、音を立てて、
俺の中で“ぷつん”と、切れた。
りこ「こんな奴! こんな奴やっつけて……勝己くん!」
勝己「ああ……そのあと、一緒に学校行こうな」
──見えてきた。
ヤツ、大門の呼吸が荒い。
さっきからずっと、“吐いてる”んだ。
いろんな生物を取り込んでるせいで、
呼吸機能がめちゃくちゃになってる。
ってことは──空気の出入りが激しい=吸い込みやすいってことだ。
勝己(……チャンス、だ)
勝己「“インビンシブル・インビジブル”──空気に……ボソボソ……」
大門「いつになったら学習すんだよ渡川ァ!!
てめえのチンケな空気じゃ、俺には通じねえんだよォ!!」
──その怒鳴り声、待ってたぜ。
勝己(今、お前は自分の口で、俺の空気を……思いっきり吸い込んだんだよ)
数秒後──
大門の身体が、ぐらりと傾く。
ドサッ!
勝己「──“動物が昏睡する役割”を与えた空気、だよ」
りこ「……え?」
勝己「人間には効かない。
でも、いろんな動物を取り込んで融合してるヤツには──効果バツグンってわけだ」
静かに倒れる大門。
“正義”なんて言葉を名乗る資格、どこにもない化け物。
勝己「眠ってろ、バケモン」
──戦いは、終わった。
◇ ◇ ◇
その後、りこは自宅に戻り、
予備の制服スカートに履き替えて登校した。
結局、俺たちが学校に着いたのは、3時間目の途中。
1時間目? 2時間目? 知らん知らん。
今、大事なのは──
勝己(りこが、無事でいること。……それだけで、いい)
──教室に戻ってから、
3時間目の途中、窓際の席で、俺はぽつりとつぶやいた。
勝己「あの野郎をぶっ飛ばす方法……考えねぇとな」
今は、眠らせるので精一杯だった。
本当に“勝った”わけじゃない。
ヤツの能力は、まだ脅威のままだ。
だから──次は。
りこ「……かっこよかったよ、勝己くん」
隣の席で、りこが静かに微笑んでくれる。
その言葉が、胸の奥に、じんわりと染み込んだ。
勝己「……ありがとな」
俺は拳をそっと握った。
──次は、勝つ。
確実に、完全に、あのバケモンを倒すために。
俺はもっと強くなる。
大好きなりこを守るために。
そして、この街の笑顔を、取り戻すために。
──そう、俺は誓う。
勝己とりこ、そして“フランケンフュージョン”という強敵。
絶望の中で生まれた閃き、吹き込まれた“空気”の逆転劇。
でもこれはまだ始まり──
次こそ、本当の“勝利”を掴むために。
読んでくれてありがとう。
この物語は、まだまだ加速していく。




