第1部 第9話「日向(ひなた)」
日曜日の昼下がり、ふたりきりの時間。
やって来たのは、りこおしかけ女房編──!?
料理してくれる彼女、バグる彼氏。青春コメディ全開でお送りします。
2013年 6月2日
第1部 第9話「日向」
6月──この月には、祝日がない。
だから社会人たちは、有給を駆使して**“勝手に祝日”を作る**らしい。
でも、俺たち高校生にはそんな自由はない。
特にこの、5月末〜6月初旬の謎の空白期間……!
俺の住む北海道ではこの時期、
運動会だの体育祭だの、誰が得するんだよって行事をぶち込んでくるんだ。
陽キャが得して、陰キャは泣く。
──この構図は、男と女、光と闇、天と地……いや、それは違うな。
ま、とにかく。
元々のカテゴライズから、青春という名の縮図ができあがってるわけよ。
で、組体操とかあるじゃん?
あれ、もう絆でもなんでもないからね?
ただの体格差別だろ。腕ちぎれるっつーの。
そんなわけで、
「高校生になったし、体育祭なんてもうないだろ~」と油断していた俺。
──東谷高校、6月中ごろに体育祭あるってよ!!
勝己「あ゛あ゛~~もうやだやだ!クラス対抗?走る?団結?知らん!!」
俺はただ、りこといちゃいちゃしていたいだけなんだ!!
りこを愛したいんだ!! ただ、それだけなのに!!
りこぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!
……さて、本編入るぞ。
──俺は、自宅でスマホをいじっていた。
画面の向こう、りこからのメッセが届く。
りこ『またヒトマルの弁当じゃない?朝ごはん!』
うん、まぁ……そうですよ。
りこ『ダメ!そんなのじゃ身体壊しちゃう!』
ツッコミが早い。
だがその通りである。
──仕方ねえだろ?
“自称・面倒見に来ました!”とか言ってた未久ねえが、
最近はもう完全に目的忘れて、親父と家でキャバクラごっこしてんだよ。
思わせぶりな言動は一流だけど、
実働ゼロ。
口だけお姉さん。それが未久ねえ。
と、そこに──りこからまた通知が。
りこ『待ってて。この前の成金さんの件もあるし、お礼も兼ねてご飯作りに行くから』
……きました。
はい、おしかけ女房イベント発生です!!
勝己「え、マジで!? りこ来るの!?
……やべ、見えるとこだけでも掃除しねえと!!」
俺はリビングを、最低限の努力で“それっぽく”整えた。
掃除ってのは、やった感さえ出れば勝ちだからな。
未久「おはよ、勝己くん」
キッチンからふらっと登場。
寝癖、部屋着、そしてなぜか笑顔──
絶対ろくなことがない顔で、未久ねえが現れた。
勝己「ああ……。
未久ねえ、下着、ちゃんと片づけといてくれよ」
未久「あげるよ? 私だと思って、大事にしてねっ♡」
……。
い る か ぁ あ あ あ あ !!!!
いや、でも……ちょっと待て……
本当にいらないのか?
これは、いわば“未久ねえ本体の象徴”……いやいや違う違う!
仮に──仮に持ったとして、だ。
それをりこに見つかったら……?
勝己「……戦争だな」
そう、恋愛どころか核戦争レベルの危機が勃発する。
未久ねえの下着なんて、戦略兵器に匹敵するっつーの!
ふう……とりあえず、
目に入るところは片付けた。たぶん、大丈夫。……たぶん。
部屋は、それなりに片付いた。
完璧じゃないけど、「努力は見える」レベルにはなったと思う。
──ピンポーン♪
チャイムが鳴った。
来た……! 来たぞ……!!
勝己「りこォォォ! いらっしゃ〜い!!」
(※新婚さんの某番組のテンションで)
ドアを開けた、その瞬間。
美沙都「すまない。私だ。……未久は起きているか?」
勝己「……あ!起きてる起きてる、どうぞ廃品回収で!」
未久「お姉ちゃ〜ん!」
美沙都さんの声に反応して、
うちの寄生生物(※未久ねえ)は“びゅんっ”と走っていった。
……つまり、これ、美沙都さんが未久ねえを“お出かけ”に誘ってきたわけで。
ってことは──
りこと俺、二人きり!
日曜日!家!ノープラン!!
なにも起きないはずが──
ないっっっ!!!
これは大事な大事な──
\\ ア・タ・ッ・●・チャ〜〜ンス!! //
深山姉妹が外出してから、すでに数分──
俺の心臓は、さっきからずっとバクバク言ってる。
勝己(やべえ……やべえ……落ち着け俺、深呼吸だ!)
りこ、りこ、りこ……
名前を心の中で連呼してると──
──ピンポーン♪
来た……!!
この控えめで柔らかい押し方……
間違いねぇ、これはりこチャイムだ!!
俺は玄関へ猛ダッシュし、
深呼吸一回だけして、ドアを開ける。
りこ「あれ? 勝利さんは……今日は留守?」
勝己「親父のことなんていいから! ささっ、どうぞどうぞ、こちらへ!」
強引にりこを引き入れる。
※ドアの閉め方が3割くらい早かったのは気のせいではない。
ちなみに、りこの両親は本州で仕事をしている。
そのせいもあって、こうして俺の家に来ること自体、珍しくはなかった。
──でも、
“未久ねえも親父もいない状態”での訪問は、レアだ。
それが、何を意味するかって……
俺の心臓が、誰よりもよく知ってる。
キッチンに立ったりこは、
バッグから、見慣れないチェック柄のエプロンを取り出した。
りこ「えへへ〜、これね、持ってきたんだ〜」
「……よいしょ、っと♪」
するりとエプロンを装着。
まるで**“家庭”って概念の擬人化**みたいな破壊力だった。
そして、振り返りながら――
りこ「あなたー、なに作ってほしい?」
バ グ 発 生 。
思考回路、完全ショートッ!!
勝己(あっ! 理性が死にました!!)
↑誰だ今の実況!?
↑てかお前だろ冷静に突っ込んでるの!!
勝己「……こ、子供!!」
りこ「ッッ!?」
顔を真っ赤にしたりこが、
**バッッッシィィィィン!!**と拳を振るう!
勝己「ぎゃあああ!!」
さらに間髪入れず、
ドゴォッ!!
膝蹴りが俺の腹部にめり込んだ!
勝己「きゃいん!! きゃいん!! いたぁい!! ……でも、なんか、きもちいぃ……(←末期)」
りこ「今日はね……ハンバーグ、作ってあげるね。あと、シチューも!」
勝己「よっしゃ、なんでも食うぜ!」
ふっ……決まったな。
これはもう、完全に胃袋つかみに来てる。
俺、もうすぐ“りこ沼”に沈む未来しか見えない。
キッチンで、
手際よく野菜を刻み、ミンチをこねるりこ。
その後ろ姿が、もう可愛いのなんのって──
勝己(いやマジで、
可愛くて、料理できて、天然で、ちょっと照れ屋で……)
──理想のヒロインじゃねえかッッ!!!
バチバチに決まってんだよ、この子は!!
そして──
りこ「できたっ!」
テーブルの上には、
湯気を立てる大ぶりのハンバーグと、具だくさんのホワイトシチュー。
視覚も嗅覚も、そして心も、
すべてがこの料理に包まれた瞬間だった。
りこ「どうぞ、召し上がれ? 勝己くん」
その声が、なんかもう“奥さん感”ありすぎてダメ。
俺はそっと手を合わせる。
勝己「いただきます!」
まずはシチューから──
スプーンをすくって、口へ運ぶ。
……あっ。
勝己(これ……うまッ!!)
バターのコクと、ほくほくの北海道産じゃがいもが
スープの中で絶妙に溶け合ってる。
もう、口の中が幸せの鍋状態だ。
その様子を、りこはニコニコしながら見ている。
あぁ……この笑顔も調味料なのかもしれん。
お次は、メインのハンバーグ!
ぱくっ……
勝己(……は!?)
粗めに刻まれた玉ねぎの甘みが、
ジューシーなひき肉の旨みを際立たせる……!!
これぞ、愛情ハンバーグの完成形!!
思わず、言葉が出た。
勝己「りこ……お前、いい嫁になるよ」
りこ「え……?」
ぽわっと顔を赤らめるりこ。
うわ、やべ、言っちゃった?俺言っちゃった?
勝己「あ、いや、その……」
一瞬、気まずい空気が流れたかと思ったそのとき──
りこ「なぁに?」
いつもと変わらぬ、優しい声でりこが返してくれた。
勝己「……りこって、さ。結婚したらさ、子供何人くらいとか、そういう夢あんの?」
りこ「そうだね〜……。
私、一人っ子だから……いっぱいかなぁ」
──はい、理性、終了のお知らせです。
勝己(だめだ……この流れ……甘すぎて……もう持たねぇ……!!)
──食事が終わり、二人で並んでキッチンに立つ。
皿を洗いながら、静かに流れる時間。
りこ「このお皿、こっちでいいの?」
勝己「ああ、その棚の上で」
りこが手を伸ばしたその瞬間、
わずかに体のバランスを崩した。
りこ「あっ──!」
とっさに、俺の手が伸びた。
間に合うか……!?
勝己「“インビンシブル・インビジブル”!
支える役割を、空気に与える!!」
──一応、保険をかけた。
すると、りこはふわりとバランスを取り戻し、
そのまま倒れることなく、立て直すことができた。
りこ「……ありがとうね、勝己くん」
そう言って、りこが笑った。
ただの感謝の言葉。
ただの微笑み。
でも──その“ぬくもり”が、心にふわっと差し込んだ。
なんだろう、この感じ。
空気がやわらかくて、
世界が少し、あたたかい気がする。
……まるで、“日向”みたいだ。
そんな、やさしい日曜日だった。
バターの香りと、ほっこりシチュー。そして甘々な“夫婦ごっこ”。
だけど、ふとした瞬間に気づくんだ。
この空気があたたかいのは、きっと──隣に、君がいるから。
次回もどうぞよろしくお願いします!




