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0009. コーディングを始めるぜ






 俺は奴を倒すフローを脳内で描き始める。


 知識だけは十分ある。

 俺がどれだけのアニメから知見を得たと思ってんだ?


 ……まずは落ちていた武器の整理だ。


 剣が数本、そして使える槍が二つくらいあったか。

 なら、オブジェクト:『槍』だな


 そして、使う変数の指定をする。

 変数:『クソトカゲの顎の長さ』『槍の長さ』

 『俺とクソトカゲの距離』『状況』


 数本の剣は欠けていた。

 もしかしたらアイツの皮は固いのかもしれない。

 なら、王道だがあのやり方で槍で突く方が良い。


 いつもの俺なら出来ない。

 ビビッて引いて殺されるのだろう。


 俺たちとアニメの主人公と呼ばれる者達の

 大きな違いは出来るか出来ないか。

 それは実力の有無というより、心の強さだ。


 心が折れようと、骨が折れようと、

 プログラムの命令の前では俺の行動は絶対!

 今の俺なら、戦える。


 ビビりで、意志が弱くて、

 すぐ諦めるこの俺でも。

 

 プログラムならば、

 必ず実行させることが出来る!!



「さぁ、クソトカゲ。コーディングを始めるぜ」



 まずは多数分岐であるスイッチの作成だ。


 俺の状態を『状況』とする。


 もし『状況』が

 『クソトカゲ』が『俺』に近づき、

 かつ尾で攻撃をするとき。

 『俺』は『クソトカゲ』から

 『クソトカゲの尾の長さ』+五センチの距離をあける。


 もし『状況』が

 『俺とクソトカゲの距離』が三メートル以上、

 かつ『何も持ってない』なら

 『俺』は『槍』を取得しに行く。

 

 もし『状況』が

 『俺とクソトカゲの距離』が三メートル未満

 かつ『何も持ってない』なら 

 『俺』は『クソトカゲ』から距離を取る。


 もし『状況』が『俺』が『槍』を取得しており、

 かつ『クソトカゲ』が『俺』に噛みつこうとしたとき。

 口を開けた『クソトカゲ』の口内に槍を突き刺す。


 突き出すタイミングなどは

『槍の長さ』や『クソトカゲの顎の長さ』から

 適切なタイミングを計算させる。


 プログラムの原則は、

 共通項としての変数作りとルール付け。


 あらゆる物を数値化し、

 あるいは、干渉するように。

 あるいは、干渉させないように。


 無から有へ、有から無へ。


 ルールを作り出し、括りあげ、

 管理し、作用させ合い、指示を明確化させる!


 脳内の勝つヴィジョンをフローチャートへ。

 フローチャートはコードへと姿を変え、

 プログラムに生命を吹き込む。

  

 

「さぁ、実行だ!!」



 止まっていた世界が、動き出す。

 

 『クソトカゲ』の嚙みつきに対し、

 『槍』を持たず『俺とクソトカゲの距離』が

 三メートル未満の俺は『クソトカゲ』から

 走って距離を開ける。


 すると自動で俺は『槍』へと走り出すことになる。

 三メートル離れたからだ。


 『クソトカゲ』がこちらを向いて走ってくる。

 が、幸いなことにのろまものろまだった。

 

 あっさりと『槍』を拾う『俺』


 警戒しているのか距離が開いているのにもかかわらず、

 尾をぶんぶんと振り回している。


 だが、条件として

 『状況』が『クソトカゲ』が『俺』に近づき、

 かつ尾で攻撃をするときと書いた以上

 『俺』が動くことはない。


 そして、どの分岐条件にも当てはまらない『俺』は

 俺の意志で歩みを進める。


 痛みにも慣れてきた。歩く方がむしろ痛くない。


 『クソトカゲ』も『俺』めがけて

 進み『近づいて』きた。


 すかさず『俺』へと尾を振り回す『クソトカゲ』

 だが、その攻撃が俺に触れることはない。


 何度も。

 何度も何度も俺を攻撃する。


 しかし、そのすべてはかろうじて当たらない。

 分岐条件として『近づいた』以上、

 全てが五センチという間隔をもってして避けられる。


「お前の攻撃はあたらねえんだよ雑魚!」


 言葉が通じるのかわからないが、

 馬鹿にしたのは伝わったのだろう。

 『クソトカゲ』の目が変わる。


 『クソトカゲ』は真っすぐ。

 俺にドタドタと突進して口を開ける。


 正直怖い。逃げ出したい。

 あの牙で噛まれたらどれほどのダメージを負うのか。


 脚がすくむ。力が入らない。

 ダメージもあるからか震えが止まらない。


 だが、どれだけ恐れようと、

 挫けようと、どんなに不可能と思おうと。


 プログラムの命令は『絶対』だ!


 そしてクソトカゲは俺の頭へとその口を近づけた。

 

 俺の身体は軟弱な意思と反して、

 冷静に命令を実行し、口内に向け両手で槍を構えた。


 ────グシャリ。


 初めて聞くような気持ちの悪い音と感触。

 生暖かい血がシャワーのように俺に降り注ぐ。


 槍のつかの部分はしっかりと地を捉え、

 大地の力を受けてクソトカゲの身体に槍は進んでいく。 


 重さと自分の加速度をのせた

 『クソトカゲ』のエネルギーは

 『俺』の突き出した『槍』が

 『クソトカゲ』の内側から頭へと突き破る為の。

 そう、俺が勝利を得るための力となったからだ。


 ゆっくりと、だが加速を増しながら、

 『クソトカゲ』は倒れる。


 

 ─────ドスンッ。



 残ったのは静寂。

 そして、高鳴る鼓動の音。 


 こんな達成感を味わったことはない。

 

 ずっと笑われて、ヒソヒソと悪口を言われて

 諦めて、言い訳して、蓋をして。



 勝利という言葉とは無縁だった。


 

 だけど、だけど。


 今回は、

 

 今回のこの戦いは!!



「俺の……勝ち……だな」



 無意識に出る言葉。

 無意識に出る涙。


 そして、俺はゆっくりと倒れ。



 意識を失った。





 

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