0008. オブジェクト:クソトカゲ
トカゲの様な化け物も。
奴が叩きつけたせいで舞い上がった砂埃も。
そして、俺自身の身体も。
全てが止まる。
動けない。
動こうにも動けない。
幸いなのは痛みも止まっていることだ。
ここは独立した俺だけの空間なのだろうか。
異質な空間だが、アニメで見たことがあるから
違和感なくすんなり受け入れることはできた。
今、目の前には大きなウィンドウが出ている。
周りの景色はその背景に少し透過されて見えるだけ。
そして俺の視線を追うようにポインタが走る。
VRヘッドセットを付けて
仕事をしたときに似ているかもしれない。
どうやら今見ているのはエディターのようだ。
ここにコードを書き込めば………ん?
左上の枠に書いてあるものを見て
俺は目を丸くする。
そこにはこう書いてあったからだ。
『サワラ カグシ』
……ええっ!?
じゃあこれ俺のエディターなのか!?
そう言えば俺、今片膝に手をついてるわ……。
つまり、現状をまとめるなら
スキルレベル1の『プログラミング』は
自分しか編集できないってことなのだろう。
なぜ気づかなかったんだ……。
さて、どうする?
せっかくプログラムを組める機会が来たが、
そもそも使える関数はなんだ?
例えば『走って逃げる』を実行させたいとする。
その場合、俺というオブジェクトを、
X軸やY軸、そしてZ軸への加減によって
動かすのがセオリーだと思うが……。
オブジェクトの宣言は必要なのか?
その記述ルールは?
言語が分からんと書きようがない!!
頭の中でフローチャートが出来ても
それを言語として出せなきゃ意味がない!!
いや……まてよ?
なんだこの歯車。
そう思ったら歯車が反応をする。
設定メニューが開いたようだ。
エディターの色を反転させる?
黒ベースがいいが……。
まぁ、そんなのは今はどうだっていい。
フォントの変更? 一応メイリオで!!
謎のこだわりがある!
言語の設定?
いや、言語は言語でもラングエッジかよ!
日本語でよろ!!
……使用するプログラム言語の設定?
え!それだよそれ!!
PythonやC++もあんのか!!
ん? なんだこれは……。
マイン言語? 聞いたことがないぞ。
この言語だけに唯一ついている詳細を読んでみる。
『編集者のオリジナルの言語。思ったことをそのまま出力することが可能。ただし、出力させることが出来るのは一度に一つの関数だけであり、関数の組み立てなどは自身で行う必要がある』
つまりエクセルのウィザードみたいなものか?
あぁ、それでいい!!
組み合わせることさえ俺がしていいのなら
何の問題もない!!
俺は『マイン言語』をためらわず選ぶ。
ネットで探すことができない以上、
『何が出来るのか』を調べるには最適だ。
ウィザードのように出るならば
記述方式もそこから学べば良い。
言語はその名の通り『言語』
元の素養さえあればそれをどのように扱うかだけで。
記述方式さえ学べれば新しい言語も難しくない。
さぁ、始めるぜ。
俺は書きたいことを思い浮かべる。
それが文字としてエディターに出力された。
ならば、まずはオブジェクトの指定のようだ。
オブジェクトは『俺』と『クソトカゲ』!
そして変数として『クソトカゲの尾の長さ』
そして分岐関数!
もし『クソトカゲ』が『俺』に近づき、
かつ尾で攻撃をするとき。
『俺』は『クソトカゲ』から
『クソトカゲの尾の長さ』+ 五センチの距離に動く。
まずはこれで様子を見よう。
俺は保存っぽいモノを選び終了を選ぶ。
……そして世界は動き出す。
俺は『クソトカゲ』にアッパーを
繰り出したみたいになっていた。
そして、全身に激痛が走る。
身体が痛い。
もう動けないほど痛い。
ニヤニヤした『クソトカゲ』は倒れそうな俺を見て
勢いよく尾を振り回した。
その瞬間、俺の意志と反して、
勝手に体が動き出す。もちろん痛い。
俺の意思を無視して動いている。
止まってえええええ!!
だが、俺の爪楊枝ほどの芯に反して、
身体は止まらず命令を実行する。
結果『俺』は『クソトカゲの尾の長さ』を
すれすれでよけることに成功をする。
首をかしげる『クソトカゲ』
再度、試すかのように尾を振り回す。
俺は激痛と共にすれすれで避ける。
初めていらだちを見せた『クソトカゲ』は
何度も何度も縦横無尽に俺を攻撃する。
……だが、俺はそれをすべて避けきった。
間違いない。
プログラムは俺に『必ず』実行させる。
絶望の痛みを抱えながらも
避けながら周りの観察を行った。
今は勝つために使える情報が欲しい。
遠くにはあの三人。
おそらく使いようがない。放置して良い。
そして周りに落ちているものは……、
今までこのトカゲに殺されたであろう
いくつもの遺体、そしてその装備が見つかる。
そうこうしているとき、
『クソトカゲ』の目つきが変わったのに気付く。
遊びは終わったみたいだ。
おもちゃがおもちゃじゃなくなったんだ。
面白くないのは当然。
奴は迷わず俺の頭めがけて噛みつこうとしていた。
これは尾ではない。ゆえに俺は避けない。
俺は俺に触れて叫ぶ。
「コーディング!!」
目の前にはエディター画面。
問題ない。材料はそろっている。
みてろよ『クソトカゲ』
今、お前を倒すフローを描いてやる!!