0007. 変わらないモノ
階段を下りて少し歩く。
階段を下りて少し歩く。
どうやらこの階には魔物はうろついていないようだ。
みんなの警戒は解かれており武器をおさめている。
俺への警戒は続いているが。
「そこ、右ね」
トオルの声だ。
俺は返事をせず右へと曲がる。
後ろからこうやって指示が飛んでくる以外は、
俺との会話は何もない。
洞窟内には声が響く。
魔物のいない静かな道中は、
俺への悪態が止まらなかった。
本人たちは聞こえてないとでも
思っているのだろうか。
「そもそもおかしいと思ったんですよ。ステータスジュエルのことも知らないのですから」
「洞窟内で私がオークたちを切っていた時も足を震わせていたからねぇ」
トロンの言葉に
トオルが笑いながら答える。
「戦ったことないのにぶっつけで『特殊スキル』使えると思います?」
「転生者って本当はもっと多いはずなんだけど、半分以上は『特殊スキル』を把握する前に、魔物に殺されてると言われているんだ。国は転生者を強さの象徴としたいから、この事実を隠してるみたいだけどね……」
「転生者オタクのレイがいうなら間違いなさそうですね」
「はぁ、転生者にしてはなんかダサいとおもったんだけど、まさか『ハズレ転生者』だったなんてねぇ……」
「……それに、あの人言うこといちいち気持ち悪いんですよねー」
「こっちが乗ってやったから調子に乗ってたんでしょうよ。……とはいえ、よくそんなこと言えるなとは思ったけどねぇ。ハハハハ」
俺の頬を熱い何かが伝って、溢れた。
それは止まらず、静かに溢れ出てくる。
言われたことに傷ついたのも、勿論ある。
けど、それよりも辛かったのは、
生まれ変わったのに、前と変わらない不甲斐なさ
という事実だ。
馬鹿は死んでも直らない。という言葉がある。
似たようなモノなのだろう。
俺のダメな部分は、
多分一生どころか何生かけても変わらないんだ。
なんで俺は転生なんかしちまったんだ。
あのまま死なせて欲しかった……。
死んでいた方が絶対マシだった。
俺が死ななかったことで喜ぶ奴なんて、
俺を含めたって誰も居やしない。
あの女神がさせたのか知らないけど、
余計なことをしてくれたもんだ!
俺なんかをどうして……。
……気づけば俺は無意識に歩いていた。
故に気付かなかった。
目の前の大きなトカゲの様な化け物の存在に。
「グワァァァァァァァァァァ!!!」
咆哮が俺の身体を突き抜ける。
それは振動か、風か、何なのか。
呑気なモノで化け物と相対したことなんか
そっちのけでそんなことを考えていた。
そして、後悔よりも早く。
理解よりも早く、俺の身体に痛みが走る。
それらが追いついた時に俺がしたことは……
「あっ」
デジャヴ。いや、違う。
あの時と同じ。
情けない声を漏らしただけだった。
────ブンッ。
丸太よりも大きな尾で俺は吹き飛ばされたんだろう。
トラックにひかれたときのような感覚を再び感じた。
吹き飛んでゴロゴロと地面を転がる俺。
前回とは違って感覚には続きがあった。
痛みだ。激しい痛み。
前の世界では味わったことのない痛み。
骨が折れたのかどうかすらもわからない。
そんなのとは無縁で細々と生きてた俺だ。
とにかく全身がひどく痛む。
あぁ、なんで今ので死んでないんだ。
きつい。苦しい。辛い。
痛い目にあって。
惨めな目にあって。
何が転生だ。
何が異世界最高だ。
地獄みたいなもんじゃねえか。
世界が変わっても何も意味なんかなかった。
俺自身が変わってないんだから。
わかってたよ。
変わらなきゃいけないことくらい。
俺だって変わろうと何度も思ったさ。
でも、どれだけ変わろうと思っても
俺の意志の弱さじゃ変われなかったんだ。
軟弱な思想が俺を操って
それでずっと今まで逃げ続けて来たんだ。
いつもやる気はその時だけだ。
やれば出来るだろうって。
やる気を出せばすぐ出来るだろうって。
何の根拠もなく。何の努力もなく。
機会は作れたのに。時間は作れたのに。
環境のせいにして、忙しいからとうそぶいて。
結局、何もしてこなかった。
もし、俺が
『決めたことを必ず実行出来る奴だったら』
そしたら、こんな惨めな人生になってなかった。
誰のせいでもない。
結局、俺のせいなんだ。
────ドシンッ、ドシンッ。
何かが近づく音がする。
俺、殺されるのか。
────ドシンッ、ドシンッ。
いいよ。早く殺せよ。
生きてる意味なんてもうねえよ。
────ドシンッ、ドシ……。
奴が目の前に立っているのが分かる。
……そして、俺を尻尾で叩きつけた。
「ぐあっ!!」
だが、先ほどより威力は低い。
「ぐっ! がっ! ぐあぁっ!!」
何度も何度もたたきつけられる。
そして奴は叩くのをやめた。
俺はせき込みながらもボロボロの身体を
持ち上げて顔を上げる。
奴は細い先の割れた舌を宙にチロチロと出して
俺を見下していた。
こいつ、殺せるのに遊んでやがる!!
こんな魔物にすら馬鹿にされてんのか俺は!!!
一体、俺が何をしたよ!
お前に何かしたかよ!!
どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!!
……逆か?
俺が何もしないから舐めてるのか?
いいぜ、やってやるよ!!
どうせ死ぬだけなんだ!!
とことんやってやる!!
ボロッボロの身体に鞭を打って立ち上がる。
だが、完全に立ち上がることはもうできない。
右の片膝をついて。
そして、もう片方の膝に左手をついて。
右手を奴に伸ばした。
奴は俺をとことん馬鹿にしているみたいだ。
逃げようともしない奴の顎にかろうじて手が着いた。
「出ろ!!! 『コーディングッッ!!』」
その瞬間、
全ての時は、止まった。
どうやらこの階には魔物はうろついていないようだ。
みんなの警戒は解かれており武器をおさめている。
俺への警戒は続いているが。
「そこ、右ね」
後ろからこうやって指示が飛んでくる以外は、
俺への言葉は何もない。
洞窟内には声が響く。
魔物のいない静かな道中は、
俺への悪口が止まらなかった。
本人たちは聞こえてないとでも
思っているのだろうか。
「そもそもおかしいと思ったんですよ。ステータスジュエルのことも知らないのですから」
「洞窟内で私がオークたちを切っていた時も足を震わせていたからねぇ」
「戦ったことないのにぶっつけで『特殊スキル』使えると思います?」
「転生者って本当はもっと多いはずなんだけど、半分以上は『特殊スキル』を把握する前に魔物に殺されてるみたいだよ。国は転生者を象徴としたいからこの事実を隠してるみたいだけどね……」
「転生者オタクのレイがいうなら間違いなさそうですね」
「はぁ、転生者にしてはなんかダサいとおもったんだけど《《ハズレ転生者》》だったなんてねぇ……」
「……それに、あの人言うこといちいち気持ち悪いんですよねー」
「こっちが乗ってやったから調子に乗ってたんでしょうよ。……とはいえ、よくそんなこと言えるなとは思ったけどねぇ。ハハハハ」
俺の頬を熱い何かが伝って、溢れた。
言われたことに傷ついたのもある。
けど、それよりも辛かったのは
『生まれ変わったのに、前と変わらない不甲斐なさ』にだ。
馬鹿は死んでも直らない。という言葉があるが、
俺のダメな部分も、多分一生どころか何生かけても
変わらないのだろう。
なのになんで俺は転生なんか……。
あのまま死なせて欲しかった……。
死んでいた方が絶対マシだった。
気づけば俺は無意識に歩いていた。
故に気付かなかった。
「グワァァァァァァァァァァ!!!」
目の前の大きなトカゲの様な化け物の存在に。
咆哮が俺の身体を突き抜けて、
初めてその存在を知った。
「あっ」
デジャヴ。いや、違う。
あの時と同じ。
俺は情けない声を漏らしただけだった。
────ブンッ。
丸太よりも大きな尾で俺は吹き飛ばされたんだろう。
前世? でトラックにひかれたときのような感覚を
再び感じる。
吹き飛んでゴロゴロと地面を転がる俺。
あぁ、なんで今ので死んでないんだ。
全身が痛い。きつい。苦しい。辛い。
痛い目にあって。
惨めな目にあって。
何が転生だ。
何が異世界最高だ。
地獄みたいもんじゃねえか。
世界が変わっても意味なんかなかった。
俺自身が何も変わってないんだから。
わかってたよ。変わらなきゃいけないことくらい。
俺だって変わろうと何度も思ったさ。
でも、どれだけ変わろうと思っても
俺の意志の弱さじゃ変われなかったんだ。
軟弱な思想が俺を操って
それでずっと今まで逃げ続けて来たんだ。
いつもやる気はその時だけだ。
やれば出来るだろうって。
やる気を出せばすぐ出来るって。
何の根拠もなく。何の努力もなく。
機会は作れたのに。時間は作れたのに。
環境のせいにして、忙しいからと嘯いて。
結局、何もしてこなかった。
もし、俺が《《決めたことを絶対実行出来る奴だったら》》。
そしたら、こんな惨めな人生になってなかった。
結局、俺のせいなんだ。
────ドシンッ、ドシンッ。
何かが近づく音がする。
俺、殺されるのか。
────ドシンッ、ドシンッ。
いいよ。早く殺せよ。
生きてる意味なんてもうねえよ。
────ドシンッ、ドシ……。
奴が目の前に立っているのが分かる。
そして、俺を尻尾で叩きつける。
「ぐあっ!!」
だが、先ほどより威力は低い。
「ぐっ! がっ! ぐあぁっ!!」
何度も何度もたたきつけられる。
そして叩くのをやめた。
俺はせき込みながらもボロボロの身体を
持ち上げて顔を上げる。
奴は細い先の割れた舌を宙にチロチロと出して
俺を見下していた。
こいつ、殺せるのに遊んでやがる!!
こんな魔物にすら馬鹿にされてんのか俺は!!!
一体、俺が何をしたよ!
お前に何かしたかよ!!
どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!!
……逆か?
俺が何もしないから舐めてるのか?
いいぜ、やってやるよ!!
どうせ死ぬだけなんだ!!
とことんやってやる!!
ボロッボロの身体に鞭を打って立ち上がる。
だが、完全に立ち上がることはもうできない。
右の片膝をついて。
そして、もう片方の膝に左手をついて。
右手を奴に伸ばした。
奴は俺をとことん馬鹿にしているみたいだ。
逃げようともしない奴の顎にかろうじて手が着いた。
「出ろ!!! 『コーディングッッ!!』」
その瞬間、
全ての時は、止まった。