0005. ステータスジュエル
さて、俺にとって初めてのダンジョン。
だが、どうやらこのダンジョンは
そもそも難易度が高くないようだ。
ファンタジーお馴染みのゴブリン。
大きなコウモリやお約束のスライムさん。
強そうな敵でもオークみたいな奴だけしかいない。
道中は俺の能力を温存して
三人だけが戦うということになっている。
流石のパーティーといったところか、
連携は申し分ない。よくアニメでみるような戦い方だ。
まず、トロンがみんなに何かをかける。
おそらくバフ魔法って奴だろう。
トオルのスピードが常人の速度を超えていた。
そして、トオルはオークの様な敵に接近。
攻撃を引き付け、カウンターのような攻撃で
相手の戦力を削ぐ。
具体的に言えば、
オークが木の枝のように軽く振り下ろす大剣を、
紙一重で避けて肩口を切り飛ばす。
そして、そのまま回転するようにして脚も切る。
槍って突くだけのものと思ってたのに、
あんな芸当もできるのかと感心した。
そして、レイはその倒れて動けないオークへと
大きな火球を放って処理をする。
『フレアアロー』という名前の魔法のようだが、
アローの面影はない。大砲級である。
メラミくらいの強さだろうか。黒焦げである。
正直、この戦いを見てワクワクをしているが、
同様以上にびくびくしている。
だって、この強さのパーティーで、
誰かに任せたいレベルの敵を俺一人だよ!?
正直このオーク一体でも、俺は死ぬと思うよ!?
だが、それを言うわけにもいかず、
一行はどんどん奥へと進んでいく。
願わくば、誰かが大けがをして、
一度引き返すのが一番良いのだが……。
そんなことはあるはずなかった。
順調に俺たちは洞窟の奥へと進んでいく。
焦りで心臓の音が胸を強く叩く。
セールスマンでもちょっと加減して叩くのに。
見習って欲しい。切実に。
落ち着きのなさを隠すように俺は話を振る。
「君たちの目標はボスを倒すことのようだが、その目的は何かな? 何か良いものが手に入るとか、何かの依頼かい?」
「そっか、転生者はクラスアップがないからヴァンくんは知らないんだねぇ」
「クラスアップ?」
トオルがニコッと笑顔を向けて答えた。
概念は知っている。
つまり、これは昇級の為の討伐依頼か?
俺はアゴに手を当てて考え込んでいると、
続きをトロンが拾った。
「私たちのランクは青。これを緑に上げるためにはここのボス『パームダイン』を倒さなくちゃいけなくて……」
「パームダインは生まれたばかりだったらそう強くもないはずなんだけれど、倒した相手の能力を得るレアモンスターなのさ! だからこうやってちょこちょこ討伐依頼が出るんだよ!」
トロンの話をレイがずずいと出て続けた。
どうやらこの子は説明するのが好きなようだ。
そんなレイをトオルが撫でながら話を続ける。
「まぁ、そう強くないっていっても、青のカンストが数人でパーティー組んでやっとのレベルなんだけどね。えへへ」
「だからヴァンさまが居てくれるのは本当に心強いよ!」
「まぁ、任せたまえ。君たちの昇級は約束された」
本当に何を言っているんだ俺は!!
「本当、トロンが言わなきゃヴァンくんに会えなかったし、私たちは運が良かったねぇ」
「ふふ、運ではないよ。『人の出会いは『重力』。出会うべくして出会うものだ』と、僕の世界の有名な神父が言っていた。つまりこれは必然なのさ」
よせば良いのに言葉が止まらない
どうしよう、俺には暗闇に道が見えない。
暗闇の荒野は暗闇のままだ。
そうこうしている間に洞窟の道が切り開かれていく。
そして、どうやら終わりが近づいたらしい。
終わりについたら終わり。
それがドーシヨ・ボクジャカテネンス・レクイエム
「この階段を下りた先が主のいる間だねぇ」
「ヴァンさま、僕は楽しみが止まらないよ!」
「じゃあ、パーティ申請送るのでご許可をおねがいします」
最後にトロンがそう言って、
手袋越しに自分の左手の甲を触る。
すると、俺のものと同じようなウィンドウが出てくる。
内容は見えないようだが。……というか。
「それ、君達にも!? 君達も転生者なのかい?」
俺の質問にはレイが答えた。
「ヴァンさま何言ってるの? ステータスジュエルはみんな持ってるじゃないか」
「いやはや、すまない。実はこの世界に来て話したのはまだ君達だけでね。僕の左手を見て転生者と言っていたから僕たちにしかないものかと思ったのだよ」
「転生者様ってわかるのは宝石が虹色だからです。私たちは……ほら。普通のステータスジュエルですから」
そういってトロンは手袋を外す。
そこには青い宝石が埋め込まれていた。
なるほど。普通は青なのか。
いや、青ランクというのを加味すれば、
ランクの色が『ステータスジュエル』とやらに
反映されると考えて良いのかもしれない。
「では、ヴァンシュタイン様。申請のご許可を」
トロンがそう言った時、
どこかから『ピコン』と音が鳴った気がした。
宝石が点滅している。
ウィンドウを開いてみる。
メイン画面とは別に右上に、
小さなサブウィンドウが出ていた。
『申請が一件届いています』と書いてある
そのウィンドウを開き俺は『許可』を選んだ。
するとメインウィンドウの隣に
サブモニターのように三人の簡易情報が出てくる。
みんなの名前や職業などが記載されている。
これは実にやばい。
名前:トロン 職業:司祭
名前:レイ 職業:黒魔術師
名前:トオル 職業:戦士
そして栄えある俺の項目はこちら。
名前:サワラ カグシ 職業:無職
やばいやばいやばいやばい。
「サワラ……カグシ?」
「無職……」
「ってことはレベルは10もない??」
それぞれが目を合わせて呟く。
オワタ……。
ボーナスタイムは終了のようです。