0003. 特殊スキル:IT
俺はなんとかリザードマンさんから
逃れることができた。
さて、そんな俺は何をしていると思う?
答えは逃げる途中にあった草原にポツンとある
二メートルほどの岩の上に座っている。でした。
そこで体感小一時間ほどの試行錯誤を経て、
俺はこの世界の仕組みの一つに気付いた。
「なるほどね〜」
『特殊スキル』の確認の方法などがわかったのだ。
俺の左手の甲には
トライバルタトゥーのようなモノに囲まれた
虹色に輝く大きな宝石が埋め込まれている。
もちろん、憧れていたことはあったが
タトゥーを入れる勇気なんてものはない。
この世界に来てから勝手についてたものだ。
それに触れると、
ボオッとホログラムのような画面が浮かぶ。
そこには所持品だとかステータス、
そしてスキルという項目が
ゲームのメニューのように並ぶ。
凄いことに触らずともスキルと念じれば
スキル画面へと画面が切り替わる。
そして左上に、でかでかと書いてあったのだ。
スキル名『IT』
ちなみにスキルレベルは1だそうだ。
なるほど。
確かに俺が持つ能力の中では一番いいのかもしれない。
良かったほんとに『歩く』とかじゃなくて。
そして、どうやら『IT』スキルには
三つのカテゴリがあるらしい。
『ソフトウェア』
『ハードウェア』
『ネットワーク』
『ソフトウェア』以外はグレーアウトしている。
暗くなっていて触っても反応がない。
唯一、触れそうな『ソフトウェア』の中を見てみると、
一つだけスキルがあった。
『プログラミング』
詳細を開くと書いてあるのはこんな言葉だった。
『対象にプログラムコードを用いて命令を与えることが出来る』
命令を与えることが出来る……。
待てよ? これ無敵じゃないか?
さらに詳細を読み進めていったところ、
対象に触れ『コーディング』と言えば、
コーディング画面が出るらしい。
試しに近くに落ちている石を拾う。
「コーディング!」
返事はない。ただの石のようだ。
木の枝を拾う。
「コーディング!」
返事はない。ただの枝のようだ。
砂を拾う。
「コーディング!」
返事は以下略
草、花、泥水。
「コーディング!」
……何も開かない。
「どういうことなんだ。スキルレベル……。そうかスキレベの問題か? スキレベは使用者のレベルを上げたうえで、スキルを使えば使うほど上がると書いてあったが……」
そもそも使えないのにどうやって使うんだ(遠い目)
なんだこのポンコツスキルは!!!!
サラっと流してたけどそもそも全部おかしいだろ!!
態度の悪い女神!
使い方の説明もないし期待もない!!
挙句の果てにはクソみたいなスキル!!
ステータスもさっき見てみたら
マジでFとかGランク!!
知能はAランクだったが
SとかSSがあるかどうかで変わるぞ!
そして美少女合流イベントは!?
いつまで一人なんだよ!
かれこれ一時間以上独りぼっちなのだが!?
……だが、まだだ。
まだチャンスはある。
『不遇のハズレスキル』ってのは
実は世界最強クラスになる潜在能力を秘めてる。
異世界転生ってのはそういうもんだ。
初めから『俺つええええ!』か、
不遇と見せかけて『実は俺つええええ!』か。
実際、他人とか命令できるのなら期待しかない。
やってやるぞ。
俺はこの世界で無双してハーレム作ってやるぞ!!
「あの~、すいません」
野望に燃えていた俺の後ろで
誰かが声をかけてくる声がした。
振り返ると岩の下に三人の美少女。
「あのっ、その左手……転生者様ですよね!?」
茶髪のショートカットの女の子がそう言った。
なるほど。ズィ・異世界って感じの
かわいい子じゃないか。ほーぅ?
テンプレに沿った、たわわなお胸。
着てる服もあれだ。童貞を殺すセーターに似てる。
「あ、急にすみません」
「いや、いかにも俺は転生者だが。なぜわかったんだ? 意外にも転生者って結構いるのか?」
じゃないとこんなあっさりバレないよな?
俺は頬をかきながら問い返す。
すると隣の銀髪ロングツインテールの
ゴスロリっこがずずいと前へと出てきた。
見たまんまの魔法使いだろう。
大きな赤い宝石を嵌めた白黒の杖を持っているからだ。
「左手を見ればすぐわかるじゃないか! それと、現在では転生者様は百人くらいは確認が報告されてるよ! ……それより、よかったら名前を聞いてもいいかな!?」
ロリっ子はキラキラとした目で俺を見上げ、
年齢に不相応な話し方で名を聞いてくる。
するとその隣に居た最後の一人。
藍色の長い髪の色気たっぷりなお姉さんが
申し訳なさそうに言った。
「悪いねぇ。この子、転生者オタクでねぇ」
この人は……いわゆる戦士だろうか。
背中の槍はそういうことだろう。
そして、中華服みたいにスリットが入った
長い水色の服からちらりと生足が見えた。
なんだろう。もうエロイ。
流し目も。ぷっくらした唇も。エロすぎる。
アディオス語彙力。ウェルカムこの衝動。
と、そう言えば名前か。
転生したからには名前……変えるか。
もうめちゃくちゃ格好つけるのもありだよな。
「名乗るほどの名ではないが、人は俺をこう呼ぶ。『さすらいのヴァンシュタイン』と」
「か、かっこいい!!」
「初めて聞くですね!!」
「悪くない名だねぇ」
それぞれに好感触を与えたようだ。
語感の良い名前リストを作ったことがあって良かった。
ありがとうドイツのお城!!
「ヴァンさま!!」
ロリっ子は目をキラキラさせたまま岩を登ってきた。
他の二人もスイスイと上がって俺の手を取る。
「僕たち、ダンジョンに行くんだけど。ついてきてもらえないかな!?」
「ここの近くのダイン鍾乳洞なんですけど……。あの……あれが出るじゃないですか? 私たちだけじゃ心細かったけどヴァンシュタイン様が居てくださるなら……///」
僕っ子ロリータはウルウルとした目で俺を見上げ、
たわわ子は、たわわなたわわを……。
えーい! 行くまでにはスキルも使えるだろう!
この感じだと転生者にハズレスキルなさそうだし!!
多分あれだ! 美少女たちにピンチが来て、
俺が颯爽と助けて一気にハーレム展開!!
これだから転生物は良いんだ!
ハーレム万歳! 異世界万歳!!!
「ふっ。今日もまた、この世に絶望を知る者を増やしてしまうのも悪くない。代わりに君達には希望という名の光を見せてあげよう。さぁ、共に奏でよう! 僕と君らの前奏曲を!!」
この時、俺は完全に浮かれていた。
敵の正体も、自分の能力の正体も。
そして、この子たちの正体も知らずに。
ただ、ただ、浮かれていた。