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天城仁美は中3の受験生である。
そして眼の前では、伝説の剣が大きな石に刺さっていた。
周りの大勢の冒険者たちが固唾を呑んで、仁美の様子を窺っている。
(はぁ…どうしてこんなことに…)
時は10分前に遡る。
仁美は付き合って1年の彼氏、蒼太と同じ高校に行くため、教室で真剣に授業を受けていた。
しかし突然、仁美の周囲の空気がキラキラと輝きだす。
それが収まると中世風の大広間に立ち、ファンタジーRPGに出てくるキャラのような人々に囲まれていたのだ。
皆、仁美を見つめ、どよめいている。
「え!? ええー!?」
パニクる仁美に、傍に立った魔法使い風の老人が「魔王討伐軍の諸君! 魔王を倒す伝説の勇者の召喚に成功したぞ!」と、高らかに宣言した。
「ええ!? 勇者!?」
仁美は、さらに面食らう。
「その証拠に、今から伝説の剣を抜いていただこう!」
老魔法使いが続けた。
仁美の前には、確かに伝説の剣っぽいものがある。
大きな石に刺さった長剣だ。
「ちょっ、ちょっと!」
「何じゃね、勇者殿?」
魔法使いが訊く。
「いくら何でも、急すぎます! 全然、気持ちが追いつかなくて…」
「あなたが魔王を倒せば、元の世界にお戻ししますぞ」
「えー…」
仁美は困った。
元の世界に帰るのは、最優先事項だ。
出来るだけ早く戻らなければ、受験勉強が捗らない。
仁美は恋人、蒼太と同じ高校に通いたいのだ。
「もー!」
半ばキレつつ、右手で伝説の剣の柄を握った。
拍子抜けするほど、あっさりと抜ける。
大広間の人々が「ワー!」と大歓声をあげた。
と、そこで仁美は最前列に立つ1人の少女に違和感を覚える。
他の人々は全員、ファンタジーRPG風なのに、彼女だけが違った。
デザインこそ異なるが、仁美同様、現代のセーラー服を着ている。
そして、それよりも眼を引くのは、彼女が頭に被ったゴーグル付きの黄色いヘルメットだ。
それはまるで、サイバーパンクSFの装備である。
「ええー!?」
驚く仁美に、その少女が「こんにちは」と声をかけてきた。
周りの歓声が落ち着いてきたので、彼女の声はよく聞こえる。
「こ、こんにちは」
「わたし、藤堂麻衣です」
「え!?」
やはり現代の名前、しかも日本人の名前だ。
仁美も自己紹介した。
2人はかいつまみ、互いの事情を説明する。
麻衣は高校2年生で、仁美と同じ世界から来ていた。
父親の虎男が発明した「異世界転移ヘルメット」を通学用のものと間違えたそうだ。
「前に行った世界はマザーメカが支配する世界で、ルーシーさんとゾーイさんに助けてもらって…ああ、今はこの話は関係ないですね」
マザーメカとやらは、よく分からない。
「それじゃ、そのヘルメットで元の世界に戻れますか?」
一縷の望みを求めて、仁美は訊いた。
ヘルメットを脱いだ麻衣が、首を横に振る。
「ごめんね。操作方法が、よく分からなくて」
「そうですか…」
2人が話して把握した現状は結局、元の世界には帰れないということだった。
「さあ、勇者殿! そろそろ魔王を倒す旅に」
老魔法使いが、そこまで言った瞬間。
彼の背後に、背中に翼が生えた悪魔のような男が現れた。
「私を倒すだと? 笑わせるな」
男を見た人々が、一斉に「魔王だ!」と叫び、半狂乱で大広間から逃げていく。
「ええー!?」
「 魔王!?」
残された仁美と麻衣が驚愕した。
「勇者など、返り討ちにしてくれる!」
魔王が右掌を女学生2人に向けた。
麻衣が、慌ててヘルメットを被る。
魔王の手から発射された火の玉が、2人を襲った、その時。
仁美が握った伝説の剣が輝き、勝手に動いてファイヤーボールを斬り散らした。
「ええ!?」
仁美が1番、驚く。
「ほう。なかなかやるな」
魔王がニヤッと笑った。
伝説の剣が再び仁美の身体を引っ張り、魔王に突進していく。
「ちょちょ、ちょっとー!?」
仁美は慌てるが、右手が伝説の剣から離れない。
振りかぶった剣が、魔王に斬りつけた。
しかし、伝説の剣の刃は敵に届かない。
いつの間にか出現した2つの闇の球が、魔王の周りをクルクルと浮遊し、攻撃をブロックしたのだ。
「ククク、何の対策もせず、ここに来たと思ったか?」
魔王が今度は、連続で火の玉を放つ。
仁美の剣が、それを片っ端から斬り捨てるが。
「ひゃあー!」
仁美の軽い身体が、あらゆる方向に引っ張られ、飛び踊った。
これではファイヤーボールを防げても、仁美がバラバラになりそうだ。
かと言って、こちらの攻撃は2つの闇球で受けられてしまう。
「フハハ! それで、いつまで保つかな? 勝負あった!」
魔王が勝ち誇った、その時。
「ユーザーに深刻な生命の危機を感知。もう1人の女性を援護します」
突然、麻衣のヘルメットから、機械音声が流れた。
「え!?」
仁美と魔王の戦いを見守っていた麻衣が、眼を丸くする。
次の瞬間、麻衣のヘルメットの額から、青色のレーザービームが発射された。
ヴォンという音と共に、魔王の闇球のひとつが青い光線を受け止める。
「何だと!?」
魔王が、眼を剥いた。
麻衣に火の玉を放つが、それを仁美が全て斬り飛ばす。
仁美からの攻撃は、残った闇球に防御された。
しかし、もうひとつの闇球を麻衣のヘルメットビームが抑えているため、もう少しで魔王に届きそうだ。
魔王の顔に、焦りが浮かんだ。
しかし、仁美の身体も相変わらず剣に振り回され、限界が迫っている。