プロローグ
「ごめん!やっぱりお前とはパーティは組めない」
そうスピルが言われるのは、もう5回目のことだ。
「精霊と話すことができる」という彼の特技は、噂で聞く『精霊使い―エレメンタルマスター-』と同じ特徴だ。
滅多に見ないジョブなので、彼をパーティに入れたいという冒険者は数多くいた。
しかし、彼の無能さを見て、段々とその数を減らしていった。
この世界は、一つの大きな大陸に人々が暮らす世界。
「デヴート大陸」と名付けられているこの大陸の領地は現在、5つの国と1つの土地に分かれている。
大陸の真ん中に位置する「魔生群地」を囲むようにして、5つの国は発展してきた。
それは、人々が「魔物」や「魔族」、「ダンジョン」に対してどのように対処してきたかの歴史を象徴している。
1つは武力。
1つは知力。
1つは魔力。
1つは結力。
1つは信力。
それぞれが生き残るために、自らの力を発展させていった。
そうして国ができ、人々が生活を営む世界となっていった。
さて、スピルがいるのは、宿屋「ファーテン」。
大陸にある国の一つ、「トウト王国」の端にある。
ファーテンは、食事処と宿屋と小規模ギルドの3つの役割を持っていた。
王国の端にある小さな町「リブルス」にあり、この町で唯一ギルドの認定を受けている建物だ。
ファーテンのクエスト用の掲示板には、初心者、これから冒険者を目指す者向けのクエストが並んでおり初心者冒険者たちの登竜門となっている。
王国の出口は全部で4つあり、大陸の中心である魔生群地への方向には、王国最大のギルドハウスがあり、その他の出口には、ファーテンのような小規模の組合所が複数存在している。
つまり、大陸中心に向かうクエストは、危険性を孕むものばかりで、その他は安全ということだ。
その中でももちろん、クエストレベルの違いはある。
高いクエストを受けられる場所は自ずと人が集まり、発展していく。
それぞれの経営者たちは、高いレベルのクエストをギルドからもらえるよう努力するのだ。
スピルは、ファーテンに住んでいる孤児だ。
今では多少手入れされているが、栗毛の髪を無造作に伸ばし、前髪は顔が隠れるほどだ。
男か女かわからないような華奢な身体は、押せば倒れそうなほど弱々しい。
背丈は150cmほどで、大きくはない。顔を見れば、年齢はすごく若いことがわかる。
そう、スピルがファーテンを訪れたときも、彼はまだ幼かった。
店の前で行き倒れていたスピルの面倒を見てくれたファーテンの経営者「エドリー夫妻」は、スピルが冒険者として自分で稼ぎができるよう、世話をしてくれた。
というのも、スピルが精霊と話ができると言ったからである。
そ彼らはスピルに精霊使いとして活躍できるのではという期待を向け、店の看板にしようと思ったのだ。
精霊使いがいるとなれば、話題にもなる。
店が栄えることで、安全な物の中でも、高いレベルのクエストが降りてくるようになり、店の、ひいては町の発展に繋がるのだ。
エドリー夫妻は、まだ名前がなかった彼にスピルという名前を付け、教育を施すことにした。
そして、読み書きやある程度の会話ができるようになってから、初心者パーティにスピルを紹介して、冒険に出していたのだが…スピルは特に何ができるわけでもなかったので、みんな彼を遠ざけて行った。
精霊と話ができる。スピルにはそれしかなかった。
他人との会話もままならず、言葉が通じない場合がある。
人の目を見て話すことができない。
たまに、誰もいないところを見て変な音を出す。
魔法が使えない。
筋力が無い。
弱い。
以上の点から、スピルは毎回パーティに入れてもらっては、断られるといったことを繰り返していた。
エドリー夫妻は悩むことになる。このままこの子を置いていても、自分たちの利益にはならない。
スピルを追い出すことを決め、その話をしようと決めたある日。
スピルの元に、あるパーティが訪ねて来ることになる。
それが、この物語の始まり。