十、再会
――水。水。水。
あたたかい。これは死の温度。
私が死んだ時と同じ熱さ――……
目を開けた。前世の死の瞬間に戻ったのかしらと思った。
でも違う。誰かがいた。
彼女は、抱きしめられていた。
「リョンハ……。リョンハ。会いたかった。リョンハ」
「っえ」
彼女は目をまんまるにして、自分を抱いているそのひとを見上げる。とても麗しく、逞しい。それはそれは美しい青年だった。
大きな四角い浴槽に、白の衣を着た男女がふたりきり。彼と彼女だ。
テレビの中で見たような浴室ね、と彼女は思う。なんだかデジャヴュだった。
「リョンハ」
「……私は、リョンハ、ではない、かと――」
「リョンハ」
「…………主上殿下?」
「リョンハ」
そのひとは、王だった。
けれど彼女の知る王ではない。かと言って、憎き大君でもない。知らない王だった。
(――いや、彼は、まさか。いやいや)
首を斬られて終わった、死の記憶を鮮明にもつ彼女の脳裏に、ひとつの名前が浮かび上がる。
――イム・ヒェリョン。
断片的な記憶が、彼女の脳に流れ込む。記憶があふれて洪水になる。目眩をおぼえてぐらりと傾いた彼女の身体を、彼が抱きしめた。きつく、強く。
(まさか、三度目……!?)
水の中で死を知った彼女の三度目の人生は、奇しくも再び水の中で始まった。
やがて、彼女は理解する。
この世界が、二度目の世界の二十年後であること。
今世の自分は、生まれのわからない謎の女官であること。
そして――王が、医女リョンハの〝亡霊〟と思い込んでいる〝幻覚〟に悩まされる病を患っていること。
熱い水の中で、今日も彼女は彼を抱きしめる。
「貴方の病は、私が癒やします。貴方を狙う陰謀は、この私が止めてみせます」
そして耳元で囁くのだ。強かな彼女であるために。
治してみせる。守ってみせる。解決してみせる。そう、己を鼓舞するために。
その才能と経験から来る自信を、決めた覚悟を、より固くするために。
彼女が彼女たる女であり続けるために、そう。
陰謀劇も、医学も――…………
ここから始まるのは、処刑された元宮廷女医に恋した王と、彼女の生まれ変わりの女――やがて側室の最高位にまで上り詰めて〝医嬪〟として歴史に名を残す女・ヒェリョンの話。