53話:ラピスへ投資
「勝者ラピス」
パパの勝利宣言で、1部を除いてワーーッと歓声が挙げられる。苦虫を噛み潰したような表情をしてるのは、今そこで気絶しているキールの父であるカイル・ウォン・ブラウン伯爵1人だけである。
キールは医務室に運ばれ治癒士による治療を受けるだろうが、ほぼ外傷はないはずだ。
「ラピィィィスゥゥゥ」
「うわっ」
危ない危ない。
アテナが、物凄い勢いで駆けて来て抱き着いて来た。足元の踏ん張りが効かず、一緒に倒れるところをどうにか持ち堪えた。
「ラピスおめでとう」
「ありがとう」
アテナが喜ぶと私(俺)も嬉しい。何時までもこの笑顔が守れるなら私(俺)は何だってするだろう。
「そ、そんな馬鹿な!キールが負けるなど、なにか不正があったに違いない」
「ブラウン卿、それはありません。圧倒的な実力差があっただけです。ウチのラピスは、毎日のように屈強な騎士の訓練についていってます。それに最早、王国騎士団で1番強いといっても過言ではないでしょう」
「うむ、その通りじゃな。余から見ても不正が無かった様に見えるが、余の目が節穴という訳かな?」
パパだけなら何とか弁明出来たが、直ぐに国王が宣言した事により弁明する機会は永遠と失われた。
国王の発言は、白が黒となりその逆も然り。国王の発言に対して下手に言い訳をすれば、最悪打首になる。
「陛下!いえ、滅相もありません。失礼する」
冷や汗を掻きながら、颯爽とブラウン卿はこの場から去っていた。
「いやはや困ったものだ。頭はキレて出来る奴なのだが黒い噂も絶えぬ。伯爵という爵位であるが故に絶対的な証拠がない限り爵位剥奪は出来ぬ」
国王陛下が顎に手を当てながら考え込んでいる。明らかに悪そうな顔をしていたもんな。
パソコンやSNSで簡単に情報のやり取りが出来れば、簡単に動かぬ証拠を掴めると思うが、そんな物は当然ながらない。
「頭の上のタンコブじゃが…………今は」
くるりと私(俺)の方へ国王陛下が向き直った。ニコニコと笑顔で近寄って来る。
「ラピス、素晴らしい試合であった。何か褒美を取らせなければな。何か欲しい物はないか?」
国王陛下自ら褒美をくれるという。毎日のように王城へ通ってるが、こればかしはどうしても慣れない。
「国王陛下、光栄の憂いですが、私にはもう素晴らしい褒美を貰っている次第です」
「うん?その褒美とは何だ?」
「アテナ様と友達でいる事です。これ程、素晴らしい褒美はありません」
「ラピス!」
アテナが、ウルウルと瞳に涙を貯めている。口にした本人も急に恥ずかしくなってきた。
本音を言えば、特に欲しい褒美が思いつかなっただけなのである。武器・防具なんかはラズリで、どうにでもなるし、お金なんかもパパ王国騎士団団長なため特に困ってる訳ではない。
国王陛下自ら褒美をくれると言われ断れるはずが無い。断ったら、国王の名に傷がつく。こういう所が貴族は面倒臭いという場面だ。
まだ、剣聖をやっていた前世の方がまだいくらかマシだ。いや、それよりも前前世で日本という国で暮らしてた方が幸せであったか?記憶が曖昧だが、その当時の知識だけは妙に思い出せる。
まぁ今はママ・パパにアテナがいるから今の方が幸せかもしれない。
「わっははははは、そうかそうか…………益々気に入った。だが、褒美は別に取らせよう。国立魔法騎士学園での学費全額免除と学園生活に掛かる全てを国王の名のもとに負担するというのはどうじゃ?」
国立魔法騎士学園の学費は、平民と貴族とて大幅に差がある。平民に関しては実力アリと判断され、全学年通しても銀貨1枚で済む。
ただし、狭き門として知られ入学出来るのは本のひと握りとされる。そこで平民が卒業すれば、最低でも男爵の爵位を叙爵したと同じ位になる。
貴族の場合は、金貨よりも上である白金貨で10枚の学費が必要となる。少なくとも子爵でなければ支払いは難しいだろう。
男爵であるパパでは、本来難しいはずだが例外として王国騎士団団長を務めているので払える訳だ。
「陛下!本当に宜しいのですか?!」
「よいよい。これも投資よ。この国を背負う大物になると直感したのじゃ」
それは荷が重い!まだ10歳には荷が重い話だ。まぁ中身はオッサンだが、今までソロでやっていた手前………やはり荷が重い。




