5話:ラズリの魔法講座
トボトボと仕事に行くパパをママと抱っこされてる俺とで見送った後、俺はベビーベッドへと逆戻りとなった。赤ん坊の身では、いくら家の中でも危険がいっぱいと見なされてるからだろう。
ベッドの手摺は赤ん坊の背丈では高く、もしも立つ事が出来ても赤ん坊の腕力では登っての脱出は夢のまた夢だ。でも、魔法を使用出来れば脱出は夢でなく現実の事になる。
しかし、それをやればパパとママに心配を掛けてしまう。よって、今はベッドの上でパパとママの目を盗んでコッソリと練習する他ない。
『どうやら行ったようだな』
『マスター、ワタシが昨日マスターに魔力を感じ取る事が出来たと思います』
それだけやって寝てしまったけど、確かに覚えてる。今でも自分の体に流れる魔力を意識を軽く集中すれば感じ取る事が出来る。一回出来れば、自転車が乗れた時のように簡単だ。
本来なら3年程掛かるらしいが、ラズリの指導のおかげで1日…………………いや、半日足らずで【魔力探知】を習得してしまった。
もっと極めれば、相手の魔力が解るようになる。とある域に到達すれば、生物の魔力だけでなく大気中に含まれる魔力すら見えるようになる。
そこまで到達すれば、大気の魔力を体内に取り込め魔力枯渇の心配は、ほぼゼロになる。魔力枯渇は、魔法を扱う者に対して死ぬかどうかの問題で、もし戦場で魔力枯渇に見舞われたら戦う事は出来なくなり死ぬ運命しかない。
『大気中の魔力を自分の魔力へと取り込む事を【魔力変換】と言い、これを習得するには魔法の使用や【魔力探知】を反復練習しか近道はありません』
『俺にも出来るようになるかな?』
『マスターなら絶対になります』
うん、ラズリが言うならそうなんだろう。昨日初対面と言ったら良いのか分からないが、昨日会った瞬間からラズリの言う事なら無条件で信じられると俺の本能が告げてる。
絶対に魔法で頂点を取ってやると内心で強く思った。前世では、剣で最強になり、第二の人生では魔法で最強を目指す。
『マスターに【魔力探知】を習得した事で、次のステップに進んで貰おうと思います』
『次のステップ?』
『防御魔法の習得です』
防御魔法?攻撃魔法でなくて?何か一瞬地味だと思ってしまった。最強を目指す事には、攻撃魔法は必須だと思っていたからだ。
『防御魔法を疎かにすると………………マスターは死にます。確実に死にます。死ぬ未来しかありません』
そう何度も死ぬ死ぬって連呼しなくても良いじゃないか!もしも赤ん坊の身じゃなくても精神的に辛くなってきた。なんか泣いて良いかな?泣いて良いよね?
『すみません。言葉が過ぎました。ですが、これは事実なのです。いくら攻撃が強かろうと、相手の攻撃を防ぐ術が無ければ致命傷を被い死ぬでしょう。これは脅しでも脅迫でもありません』
『俺もごめん。どうやら魔法が使えるとはしゃいでいたようだ』
考えれば単純な事だ。どんな強力な武器でも、安物のナイフでも体に刺されば変わらず人は簡単に死ぬ。赤ん坊なら尚更だ。
そんな簡単な事も瞬時に分からぬとは、転生してから頭が軟弱になっていたようだ。
『では、講義を致しましょう。防御と言いましても大きく分けて三種類の方法があります。一つ目は、文字通り相手の攻撃を防ぐ事。二つ目は、相手の攻撃を回避する事。三つ目は、相手の攻撃を弾き返す事の三つです』
一つ目は言わずもながら、ダメージを最小限に抑える事だ。完璧に防ぎきれば、どなんなに強力な攻撃でもダメージをゼロにする事は夢でない。
二つ目は、相手の攻撃を避ける事。相手の行動読み避ける事で、攻撃する隙を生み出す事が出来る。極めていけば、最小限の動きで避け、相手の懐に潜り込められる。
三つ目は、相手の力を逆に利用して攻撃する。謂わば、カウンターだ。これは相手が強ければ強い程に際立つ。ただし、大抵が格下しか通用しないのが大半だ。格上に通用するのは、ほんの一握りなのだ。
『成る程、前世では防御に関して考えもしなかった。ラズリ勉強になるよ』
『お褒めに頂き光栄です。マスターには、一つ目の防御のみ覚えていきましょう。二つ目の回避と三つ目のカウンターは、赤ん坊のマスターの身では、まだ早いと宣言いたします』
まぁ赤ん坊が相手の攻撃を避けるって、何気に怖いような気がする。赤ん坊が相手の剣を転がるよう避け、指で剣先を止める映画を見た事あると、ふと頭の中に過った。
あれ?映画って何だっけ?前世とは違う記憶が見たような気がするが、ラズリから防御に関して色々聞いていたら眠くなってきた。
赤ん坊は、本来眠るのが仕事だからしょうがない。ラズリ寝てしまってごめん。おやすみなさい。