42話:風の剣
『ラピス、剣武装では風属性が使えます』
「了解。こうかな?【精霊の舞踏】」
ラピスと見た目そっくりな分身が6体出現した。それらが独自に違う動きをしている。
「いけぇぇぇぇ」
ラピスの命令により一斉に分身はカイトに向かって駆け寄って行く。
「これは素晴らしい。他に分身を出す魔法はあるけれど、ここまで寸分違わず同じなのは珍しい。それに各々が意志を持ってるような動きをしている。何とも厄介だ」
ゴーレムや魔法人形などの組み込まれた術式により動くだけならパターン化された動きになるはずだとカイトは考えてるだろう。
だが、これらの分身達は自分らで考えて動いているように見える。まぁ普通の分身ではない。ラズリの魔力制御があって初めて出来る業だ。
「ちっ…………これが分身の一撃だと」
驚いてる驚いてる。分身は本来、作った本人より弱体化してしまう弱点がある。だが、その弱点も自分が強くなれば解消する。
「背中がガラ空きですよ」
「それは知ってる」
「これを防ぎますか」
声を掛けなければ良かった。分身に紛れて背中を狙った意味がない。だが、それで良い。今直ぐに終わってしまっては詰まらない。
「ハァハァ、まだ5歳だよな」
「えぇ、それは間違いないです」
「5歳にしては強過ぎじゃないか」
「前世では傭兵をやってましたので、身体をどう動かすと効率が良いのか理解している積りです」
それでも一般の5歳児と比べても魔力や筋力を始めとした全てのステータスが異常に高過ぎるのも確かだ。
まぁ神様の加護のお陰だと、職業剪定の儀によって神様達お会いした事で分かったことだ。
「どうやらまだ5歳だからだと、侮っていたのはこちらの方らしいな。これから本気で行く」
「えぇ、その方が良い修行になります」
私(俺)を含めて7人で一斉に襲い掛かる。四方八方からの剣の嵐に受け止め流してる。
先程よりも速度スピードを上げてるにも関わらず、どういう風に防御・回避すれば良いのか分かってるようなそんな動きをカイトはしている。
「攻めきれない」
「これでもBランク冒険者だからね。これくらい捌けないと」
「なら、もっと速度と剣撃を上げる。【風の刃】と風妖精の羽根】
「二重詠唱だと」
いや、先に【精霊の舞踏】をやってるから三重詠唱になる。
三重詠唱となると宮廷魔法使いレベルとなる。因みに四重詠唱だと、伝説な職業である賢者や聖女が挙げられる。
「着いて来れるかしら」
ラピスとその分身達の背中に羽根みたいなものが生え、剣先の延長線上に見えない透明な刃が光の屈折で見え隠れしてる。
「はぁぁぁぁぁ」
ガキンガキンガキンガキンガキンガキン
「くっ……………これ程の力をまた隠し持っていたのか」
ギリギリ私(俺)の速度にカイトは着いて来れてるが、私(俺)の速度に着いて来れるのは最早限界に近いみたいだ。
(これなら勝てるかもしれない)
だが、何故か勝てるビジョンが浮かばない。速度や手数では勝ってるはずなのに決め手が見つからない。
カイトは、ミスリル以外にも何か使ってる?そんな気がしてならない。相手は黄昏、何か魔道具を使っていてもおかしくない。
そうでなければ、あの剣捌きの理由に検討がつかない。
(ラピス、【鑑定】を使ってみなさい)
「えっ?分かった。【鑑定】!」
カイトには2つの魔法が付与されており、その魔法によって私(俺)の攻撃を悉く防いでいた。
「あれってアリなの?」
(黄昏だから出来る芸当と言えましょう)
マジですか!
勝てると思ってた自分がバカみたいだ。今の私(俺)では逆立ちしても勝てない。でも、強い奴と戦いたい気持ちの方が勝ってる。
本来なら会う事すら叶わない相手と…………そう、今戦ってるのは正に勇者。魔法によって勇者の動きを模倣してる。その再現度は、1回勇者を見た事のある者ならば、本当に勇者だと錯覚してしまう。
(勝てないとしても、どうしても一矢報いたい)
前世を思い出せ。傭兵の時分はどうしてた。格好いい勝ち方なんて指の数で事足りる。ほとんどが泥沼で卑怯な勝ち方を十二分にしてきた。
格上相手に格好いい勝ち方なんて理想論甚だしい。最後に立っている方が勝ちなんだ。
よし、やってやる。