38話:黒龍
「履いて見ても良いですか?」
「はい、どうぞ。それは、もうアテナ王女殿下の物ですから」
アテナが履くと靴のサイズは測った訳でもないのに見事にピッタリだ。いや、靴自身の大きさが履いた瞬間に変わった風に見えた。
ほんの一瞬の出来事で、相当な剣の達人でも見落とすに違いない。履いたアテナすら気付いていないのだから。
「うわぁ、ピッタリです」
「それは良かった。実は、いくつかの魔法が付与されているのです。1つ目は、履いた時にサイズを合わせるもの。ピッタリなのは、そのためです」
そんな魔法聞いた事ない。ラズリに聞いても知らないという。可能性があるとすれば、カイトが開発した魔法だという可能性。
だが、相当難しい。魔法を開発するというのは十数年単位でやるもの。
それも1人で行うのではなく、複数人の魔法研究者によって日夜行われていると聞いた事がある。
「それと【不壊】と【自動洗浄】も付与されてますから、一生使える代物となっております」
3重付与?!それはもう国宝レベルに近い代物だ。売るだけで10世代くらいは余裕で暮らして行ける。
「グリフォンは、風属性の魔物。アテナ王女殿下と同じなので、これから手助けになってくれる事でしょう」
自分と同じ属性の武器や防具を装備すると、その属性を扱いやすくする相互作用という利点がある。
例えば、その属性の威力を高めたり、耐性を上げたりと様々だ。ただし、付与するためには付与術師が必要であるが、希少な職業なため高額になりやすい。
「3重…………いや、4重や5重以上の付与がされてるのか。余には複雑過ぎて全部は把握しきれん。これ程の付与が出来る付与術師がおるとは、是非とも紹介して欲しいものだ」
国王陛下が言うように、あの靴には5重以上の付与がされている。ラピスも【鑑定】をしてみたが、全容が掴めなかった。ラズリの力を借りても、あそこまでの付与は不可能だ。
「いえ、それには及びません。何故なら、私めが付与を施したのですから」
「なんと!」
そもそもの話。ここまでの付与を出来て名前が聞かないのは、おかしな話だ。希少な職業なため付与術師と分かった時点で、王城へ連絡が行く手筈となっている。
でも、付与術師でない者が付与を行ったのなら話は別だ。本来の職業が隠れ蓑になり、付与を出来る事なんてバレない。だけど、普通はそんな事は中々出来ない。
「それなら王城に務めないか?」
「光栄な事でありますが、彼らが許さないと思います」
「彼らとは?」
国王陛下の申し出を断る程の人物なのか?誰もがそう思った。下手をすれば、不敬罪になりかけない。最悪死刑だ。
「国王陛下、ここにお呼びしても構いませんか?」
「近くにおるのか?」
「はい、私めの固有武装の中に」
私(俺)のラズリと同じ固有武装。黄昏の固有武装とても気になる。アテナが指輪型で、私(俺)のラズリは宝玉型。黄昏のカイトは一体どんな固有武装を持ってるというのか?
コンコン
「おい、クロウいるか」
『カイト殿であるか?』
「今、出て来れるか?」
『構わない。そなたの友達であるしな』
カイトの手提げカバンのかぶせが捲られると、腕が先ずは出てから顔の順に体が除々に這い出るように誰かが出て来た。
「ふぅ、カイト殿ここは何処だ?」
「エリュン王国にある王城だ。そして、ここは玉座の間になる」
「ふむ、カイト殿あそこに座っておるのが国王なのか?」
「無礼であるぞ」
貴族の1人が騒ぎ出した。それを切っ掛けに次々と罵倒の嵐に発展した。
「静まれい」
国王陛下ではなく、クロウの威圧で罵倒を繰り出していた貴族連中は黙り込み、国王陛下に謁見するように畏まっている。
「か、カイト殿、このお方は一体」
「彼は、黒龍のクロウと言います」
「ぶ、ぶぶぶぶ黒龍」
龍種の中でも世界に8体いるとされる龍皇の1体が黒龍。国を軽く滅ぼす力があるとされ、もし討伐するとしたらSSSランクになるであろう。
「我の友達であるカイト殿に危害や支配をしようとすれば、どうなるか分かっておるな」
ギリッと国王陛下を睨むクロウという黒龍。睨んだだけで、周囲の空気が痛く感じる。これは絶対に怒らせては行けないと本能が告げている。
「我が望む事は、タダ1つ。カイト殿の自由を保証する事。ただ、カイト殿と取り引きをする事は認めよう」