37話:グリフォンの羽根靴
「して、何用で余との謁見を望む」
ギリッと玉座の間全体に圧を掛ける。いくら黄昏であるカイトでも一端の騎士ではないのだ。当然圧迫感で息が苦しくなる。これが職業である国王の【支配】なのか。
「この度は、御息女アテナ王女殿下が無事に職業選定の儀を終えらましたお祝いとして、贈り物をリリ王女殿下に頼み込みお持ちした次第で御座います」
「ほぉ、お祝いの品とな?はて?何も持ってない様子だが?」
国王陛下の言う通り。幻の職業:黄昏であり、私(俺)と同じ転生者であるカイトとやらの手元には何も握られていない。
「ご安心を」
何もない空間に腕を突っ込み引き抜くと、そこにはリボンが巻かれた箱が握られていた。
「ほぉアイテムボックス持ちか。アテナよ、近くに寄るが良い」
「はい、父様」
国王陛下に呼ばれた娘がアテナ王女殿下、リリ王女殿下を幼くしたような容姿で、まだ5歳のはず。
それなのに受け答えをしっかりとしており幼いながらも王女の貫禄が滲み出ている。
「アテナ王女殿下、こちらが私めが容易しました贈り物で御座います」
リボンを解き、箱を開放させると、そこには一足の靴が鎮座している。この世界では、一般的に木靴が出回ってるが、高級品だと一部貴族で皮で作った皮靴が普及しつつある。
「私めがお作りになりました《グリフォンの羽根靴》で御座います」
この靴は、後者で両脇にグリフォンの羽根が装飾されており、実に威厳と可愛さが両立してるかの如くの出来栄えである。
「黄昏だったな。薬や武器だけではなく、いろんな物を作れるようだ。アテナよ、履いてみなさい」
「少しお待ちを。アテナ王女殿下、失礼ながら血を1滴宜しいですか?」
「貴様!」
「よい、その靴に垂らすのだな?もしや、その靴は魔道具なのか?」
「はい、その通りでございます」
国王陛下が静止してくださらなかったら、待機中の騎士が剣をぬいでいた。
魔道具に限らず愛用する物は盗まれないよう血を1滴垂らす【血判】をする。こうする事で、血の本人にしか扱えないなくなる。
ただし、専用の道具が必要で【血判】をする時は然程掛からないが、解除する時がお金が掛かり盗難するには割に合わない。
【血判】すると、そのした物体の何処かに印が出現する。余っ程の世間知らずでない限り誰でも知ってる事だ。これ絶対不変な常識の1つである。
「【血判】する道具が、今切れていてのぉ」
「ご安心を。私めが【血判】を実施出来るのでございます」
「道具を持っておるのか?」
「いいえ、黄昏の力でございます」
「そんな馬鹿な」
先程剣を抜きそうだった騎士だけではなく、ここにいる上級貴族もザワザワと騒ぎ始める。
【血判】は、神が武器から奴隷に至るまで、これは自分の所有物だと証明したという証を刻印する魔法なり技能の総称。
それを道具無しで行おうとすれば、頭がイカれてるヤツだと思われてと仕方ない。
「静まれい。誠なのか?ウソではないな」
「はっ!今から実践してみましょう。アテナ王女殿下、失礼ですが血を1滴頂けませんか?」
「アテナ!」
「ラピス大丈夫だから」
チクッ
「これで良いかしら?」
チクッと針で指先を刺し、うっすらと血が溢れ黄昏のカイトの掌に収まってる靴にポタっと落ちたと誰もが思った。
普通ならシミが出来汚れるが、不思議な事に途中でアテナの血が止まり淡く光輝き靴に吸い込まれるように靴の側面に刻印された。
「はい、これで本当の意味で完成致しました」
この靴は、もう解除しない限りアテナしか使えなくなった。作製したカイトですら、解除するには1週間を要する。それ程に【血判】の刻印の効力は強力で神の魔法の1つとして揶揄される事が屡々ある。
「わぁ、ありがとう。カイト様」
「私めに様は付けないで下さい。アテナ王女殿下は王族なのですから」
凄い!ラズリに聞いた事がある。黄昏は、神の使徒として選ばれた職業の1つなのだと。それ故、同じ時代に1人しか任命されない。
他にも黄昏以外に存在してるそうだが、分からなかった。ラズリが、他の神の使徒として選ばれた職業を話そうとすると全く聞き取れなくなる。
(【鑑定】)
カイトを【鑑定】しても脱字やエラー表記で判別不可能な状態で見える。これは【鑑定】に対して【鑑定妨害】を施してる。
【隠蔽】とは、また違った【鑑定】をされた時の高度な対処方法だ。カイト本人から見せて来ないと、これは見えない。
『ラピス、バレてます』
そう【隠蔽】とは違い、【鑑定妨害】は誰が自分に【鑑定】を行ったのか分かる点だ。私(俺)は、冷や汗が止まらなかった。