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29話:一番緊張した夕飯とお風呂

 国王陛下の許可を経て椅子に座る中、王族独特の威厳オーラがビシビシと伝わるせいか、緊張感が拭えない。

 アテナの誕生日会で談笑した国王陛下までも話さぬまま料理が運ばれて来た。

 ラピスの家では、先ず見る事のない豪華な料理の数々、どれだけの貴重な食材を使用してるのか?想像出来ない。


(ラピス、大丈夫?緊張してる?)

(うん、大丈夫)


 誰にも聞こえぬ小声で話す。もしも、私語が聞こえたら不敬になるかもしれない。

 無理をして私(俺)の緊張を解すために話し掛けてくれたのは嬉しい。嬉しいが、この中で話すのは命懸けだ。


「皆の者、料理が揃ったようだ。命をくれた食材に感謝し頂きます」

「「「「「「「頂きます」」」」」」」

「い、頂きます」


 見様見真似で手を合わせる。後で教えて貰ったが、これは勇者の世界でやる料理を食べる前の儀式だそうだ。

 食材を提供してくれる植物や魔物モンスターに命をくれた事に感謝を捧げる意味合いがあるらしい。


「ラピスよ、料理は美味しいか?」

「はい、美味しいでございます」

「そうかそうか」


 ハッキリ言って味は分からない。国王陛下が、たまに話すようになっても部屋全体が緊張感に犇めきあっている。

 この中で料理の味が分かるとしたら、慣れてる王族か相当な大物のどちらかだ。


「命に感謝を。ご馳走さま」

「「「「「「ご馳走さま」」」」」」

「ご、ご馳走さま」


 食べ終わり、食べ始めと同じように手を合わせ合掌する。今までやった事がないが、何故か良い気分になる。

 昔にもやった事があるような既視感デジャブに陥るが、前世では「頂きます」と「ご馳走さま」はやった事はないはずだ。


「ラピス、行こう?」

「うん、分かった」


 解散となり一人一人食堂から去って行った。やっと空気が吸えるような気持ちになる。これが朝にもあるというと、胃に穴が開きそうな位に気が滅入る。

 アテナに手を引かれるまま、アテナの部屋まで戻って来た。おそらく、アテナに手を引かれないと戻って来る自信がない。


「ふぅー、やっと落ち着けるよ」

「ごめんね。アテナ達全員が揃うと、いつもあぁなの」

「アテナが謝る事じゃない。あれに耐えるとかアテナは凄い。尊敬しちゃう」

「そうかな?えっへへへへ」


 照れてるアテナ、可愛い。三歳児なのに、こうキュンキュン来るものがある。


「失礼致します。湯浴みの御用意が出来ました」


 おぉ念願のお風呂に入れる!前世でも滅多に入れなかった風呂、ワクワクが止まらない。


「やったー。ラピス行こう」

「うん」


 一回アテナに案内されて場所を知ってるが、案内役のメイドの背後を着いて行き風呂場に辿り着く。

 脱衣場にもメイドが二人待機しており、アテナは慣れた様子でメイドに身を任せ服を脱がせて貰う。


「ラピス様、失礼致します」

「えっ?ちょっ!」


 断るよりも早くメイドは、私(俺)の衣服を脱がし生まれたての姿でいる。

 ここには女しかいないが、元々私(俺)は男だ。羞恥心が勝り穴があったら入りたい。だが、湯船に浸かりたい気持ちもある。


「ラピス、何ボーッとしてるの?」

「いや、何でもない」


 そういえば、アテナも全裸である事を忘れていた。ここで目を隠せば色々怪しまれる。

 出来れば、タオルで隠して欲しいが、そんな上等な布があればドレスなり高級な衣服を仕立てるのに使われる。


「ほら、行こう」

「う、うん」


 私(俺)は三歳児の裸体を見て何ドキドキしてるんだ!じ、自分の体で慣れてるだろ!


「先ずは体を洗ってからお湯に入るんだよ」

「へぇー、そうなんだ」


 つい、棒読みになってしまう。何故なら、何故か湯船に入るマナーを知ってるからだ。前世でもマナー知らずに入っていたのに。


「アテナ様ラピス様、お体を洗いますので、こちらに」

「分かったぁ」


 えっ?!メイドが体を洗うだと!家ではタオルを水に濡らして拭いていた程度だ。

 王族だと洗って貰うのか?初めての真実に茫然自失となる。メイドも体を隠しておらず、そこら辺の男らよりも堂々してる。


「さぁラピス様も」

「あっ、はい」


 ヤバい、じっくりと体の上から下まで見ていたのバレたか?!いや、今の私(俺)は三歳児だ。そんな視線を気にするような大人の女はいない。

 そもそも今の私(俺)も性別は女だ。堂々とすれば、別に問題ないはず。大人しくメイドに洗われる事にしよう。心を無にするんだ。

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