28話:王女様の部屋で寝る
ラピスには拒否権は無く、王城に泊まる事は決定事項になっていた。パパにも知らされ、私(俺)を置いて帰ってしまう。
前世で王族と無縁だった俺が、今や王女の友達として城に泊まるなんて、今だに信じられないでいる。
何か不敬になる事をしないか、アテナの誕生日会よりもドキドキ感が半端ない。
前世でなら間違いなく、胃に穴が開いてる。
「ラピス、今日は一緒に寝ましょう」
「えっ?!わ、分かった」
てっきり別の部屋を用意されるかと思っていた。まぁ別々ではアテナが泊まらせると言った意味が失くなってしまうか。
だから、つい了承してしまった。相手は三歳児、何処にドキドキする条件があるというのだ。
それなのに私(俺)は、ドキドキしている。前世の魂が今の身体に合わせて三歳児になってるのか?
そんな悩みを知らずか、アテナは私(俺)の手を引っ張り城の案内をし始めた。
まるで遊園地のようだ。1日では、まず廻りきれない。似ている廊下や部屋が数え切れない程あり、一人なら迷う自信がある。
「ここが、いつもアテナが食べるところ」
「広い。キラキラしてる」
王族専用の食堂ってところか。騎士らが使ってる食堂とは大違いだ。段違いにキレイでホコリの一つも落ちていない。それに高そうな美術品が、あちらこちらに飾られている。
それと食堂の真ん中にはラノベで出てきそうなローテーブルが置かれている。
「ここがお風呂」
流石は王族。湯が張れる湯船を持ってる者なんて、爵位が高い貴族や店舗を数十軒も国のあちこちに構えてる大商人しか持ってない。
それに、こんなに広々とした湯船があるところを探そうとしたら国で見つかるかどうか?
「素敵です。早く入りたいです」
前世でも湯に浸かった事はなかった。宿屋で借りた桶にお湯を張り、濡らしたタオルで体を拭き取る事で汚れを落とすのが一般国民の常識だ。
結構金を稼がないと風呂に入る機会なんて中々ない。だけど、何故か無性に入りたい欲望が溢れてくる。
「ラピス、一緒に入ろうね」
「うん!」
つい了承してしまった。でもまぁ、風呂に入れるならアテナと一緒に入る事は目を瞑ろう。
「ここがアテナの一番のお気に入りの場所ですわ」
「これは!」
素晴らしい景色であった。
王城の中で一番高い塔で、王都全体を見渡せる数少ない場所だ。ここをアテナがお気に入りと言うのも納得の絶景だ。
ちょうど日が沈む、夕焼けの時間帯で王都の街並みが夕焼け色に染まっている。
「すごくキレイ」
「でしょでしょ。父様には内緒なんだ」
まぁここは高所で落ちたら危ない。先ず私(俺)らのような子供が落ちたら助からないだろう。
「ここに入ったら父様に怒られちゃう」
「なら、二人の秘密だね」
「二人の秘密!それ良い!」
私(俺)の両手を掴みながら二人の秘密という単語にはテンションが上がる。
前世での私(俺)も子供の頃、親しい同い年の友人と秘密基地を作ったり、親に内緒で子猫を飼って二人の内緒にしたものだ。
「そういえば、時間は大丈夫?」
城の中を案内という名の探険をしていて、あっという間に時間が過ぎていった。
その中で最後に訪れたのは、今いる王都全体が見渡せる塔だ。時間を知るには、王都の中心に聳え立つ鐘が設置してある塔がある。
その鐘が鳴る数で知る方法と大雑把に日の沈み具合で知る方法がある。
最後に鳴った鐘は午後5時を知らせる鐘であった。一般的に、もうそろそろ夕飯を食べる時間帯となる訳で。
「はっ!急ごう」
アテナに手を引っ張られながら塔を降りる。子供ながら足が速い速い。
多少、汗を掻きながらも王族専用の食堂へたどり着いた。食堂の扉前にはメイドが待機している。
「アテナ様ラピス様、お待ちしておりました。皆様、お待ちでございます」
扉が開けられると、ローテーブルの上座には国王陛下。順番に王妃、王位継承権が高い順に座っている。
王子が三人と王女が一人。アテナを含めれば二人。王子の方が王位継承権は高いため、アテナが最後となる。
まぁそのため私(俺)はアテナの隣に座る事が出来る訳だ。初対面の王子王女の隣なら緊張でガチガチになってしまう。
「アテナとラピス、座りなさい」
「はい、父様」
いくら親子でも王族全員が揃う中では上下関係をハッキリとしなければならない。
トップの国王陛下が命令されない限り、座れないし食べる事も許されない。