27話:城にお泊り
「今日はこれくらいにしておこう」
「パパ、私まだやれます」
ポンポン
「無理はするな。休憩も大事な訓練の一環だぞ」
訓練と言われたら素直に頷くしか出来ない。まだ三歳児なのだ。魔法や剣の感覚に慣れて来たとは言え、体力的にまだ低い。
下手に無理をすれば、ケガに繋がる。
「分かった」
「よし、お前達。オレの娘、ラピスとの戦いを見て良い刺激を受けた事だろう。これからも精進するように。解散」
「「「「「はっ!」」」」」
パパの号令にビシッと敬礼をし、片付けをした後に颯爽と訓練所からネズミが逃げるように誰も残らず去って行った。
「ラピス、もの凄く格好良かった」
「あっははは、ありがとう」
両手を握りられ、グイッと顔が目の前まで迫られた。ドキッとするも、それを悟らされないように苦笑いしつつも礼を言った。
ドキドキ
(まだ三歳児だぞ。何、ドキドキしてるんだ)
(それは恋ではないかと)
(煩いぞ、ラズリ)
つい、【念話】をしてしまった。それほどに現在のラピスは、少々テンパり気味。
「ねぇねぇ、ラピス。今日、ウチに泊まって行かない?」
「ウチって、この城に?」
えっ!マジで!このお姫様は何を言ってるんだ?!国家機密や警備の都合上、一般国民が王城に泊まるなんて普通なら有り得ない。
国家騎士隊総隊長であるパパなら城に泊まっても問題無さそうだけど、その娘はヤバいだろう。
「そう。この城に」
「アテナ、それはダメな気がする。ねぇ、パパもダメだと思うよね」
「ガイス総隊長、ラピスを城に泊まって良いですわよね」
二人は三歳児なのに妙な迫力がある。まるで猛獣でも鉢合わせし相対してるかのような錯覚を肌に感じてる。
「国王陛下に許可を頂いてはどうでしょうか?」
「父様に?それは良い考えね。ラピス、父様のところへ行きますわよ」
パパに目配せして助けを求めるが、頑張れとウィンクされ裏切られた気分だ。
アテナに手を引っ張られ、訓練所を後にする。ものの数分で国王陛下がいるであろう玉座の間の扉前に着いていた。
コンコン
「父様、アテナです」
『アテナか?入っても良いぞ』
「失礼します」
国王陛下の他に大臣数名がいる。仕事柄か、待機してる大臣ギロッとこちらを睨んでるような視線を送ってくる。
「どうした?アテナ」
「父様にお願いがあります」
「んっ、なんだい?」
仕事をそっちのけでアテナを話を聞く国王陛下。ヒソヒソと「またか」と大臣達が愚痴を溢してる。
「このラピスをアテナの護衛に着けて欲しいの」
私(俺)に抱き付きながら、そう宣言するアテナ。その瞳は真面目で視線だけで誰かを殺せそうな程に威圧感を放っている。
私(俺)に視線を向けられてはいないが、ゾクッと背中に悪寒が走った程に殺気染みていた。三歳児が出すそれではない。
(アテナ、聞いてないよ!)
(ラピスは黙ってて)
耳元にて小声で訴えるが、瞬時に却下された。ラピスが放つ気迫に圧倒され、それ以上何も言えなかった。
「ゴホン、ラピスが困っているだろう。護衛は何人も着けてるのだから」
「その護衛さんは、アテナとお話してくれるの?遊んでくれるの?ラピス、護衛さんは何処に何人いるか分かる?」
これは当てても良いのだろうか?アテナから期待の眼差しを浴びせられ、無下に出来ない。
「えーと、廊下に二人、この部屋の四隅に一人ずつ、天井裏に四人でしょうか?」
私(俺)が答えた後、宰相らしき男が国王陛下に耳打ちする。
「良かろう。ただし、正式にアテナの護衛に就かせるのは五歳の祝福を受けてからじゃ。それまでは仮にという事にしようか」
どうやら正解したらしい。気配は上手く隠せてるが、殺気は隠せてない。こんな近い場所なら特に【感知】を使用しなくても分かる。
「やったぁぁぁぁ」
「うわっ、アテナくっつき過ぎ」
気恥ずかしい。頬同士をスリスリされて同い年の女の子同士だから端から見たらセーフだが、中身はアラフォーなオッサンだ。
今現在、心身ドキドキしっぱなしで気が休まるヒマがない。中身がオッサンだと知られたら、この場で首が飛ぶの確実だろう。
「父様、今日ラピスを泊めても良い?」
「認証許可証を持っておるのだろ?それは城の滞在も出来る証明じゃ」
何を言ってると不思議そうな顔を浮かべる国王陛下。
えっ?それじゃぁ、最初から泊まる事は確定してたという事か?
アテナの横顔を見詰めると、口元がピクピクと震え笑いを堪えてる様子が見て取れる。
あの時、アテナの誕生日会で認証許可証を私(俺)が貰った事を知ってる者は自然と城に滞在出来る事を知ってる事になる。
(パパも知ってたという事か)
後でお仕置きをするとして、今日は大人しくアテナとお泊まりを楽しむ事にするか。