24話:クッキーその2
「ラピス、凄いです」
まぁ木の板で作った簡易的な足場だ。家の手伝いをするためにパパに作って貰った。
「パパにお願いしてみたら作って貰ったの」
最初は自分で作ろうとしたが、危険だからと言って作ってくれた。剣の修行はしてくれるのに変なの。
「あらあらまぁまぁ、【収納魔法】が使えるのね。凄いわぁ」
「ステラおばさん、これは内緒でお願いします」
「えぇえぇ、分かってますよ」
本当に分かってるのか不安だ。まぁ城に勤めてる辺り機密事項は漏らさない口が固い人柄だと思われる。
そもそも王城で働くとなると、大した仕事でなくとも厳しい検査がある。ステラおばさんもその検査を突破したという事になる。
見た目に反してスゴい人物なのだろうか?
「ステラおばさんって、実はスゴい人?」
「ワタシ?ワタシなんて、タダの料理を作るおばさんだよ」
ケラケラと笑うステラおばさん。そこら辺の屋台や食堂で売り子をしてそうな、何処でもいそうな雰囲気を醸し出してる。
「何が必要なんだい?何か作るんだろ?」
「小麦粉とバターと卵と砂糖があれば」
「あいよ。これで足りるかね?」
流石は王城だ。騎士が利用する食堂の厨房とはいえ、高級品である砂糖とバターが当たり前のようにある。
ラピスの家で実際に作ったら家庭は崩壊する。ラピスがお土産として作れたのは、ラズリが何処からか材料を調達してくれるお陰だ。
「ありがとうございます」
「ラピス、クッキーはどうやって作るの?」
「それはね」
本来なら材料の原価が高くて手に入り難いだけで、作り方は簡単だ。
適当な量を混ぜ混ぜコネコネと一纏めにコネあげるだけだ。子供でも簡単に出来る。
ただ、一つだけ問題を挙げるならば、水分が少ないためコネる度に固くなってくる。子供には重労働だ。
「どれ、ワタシが捏ねてやろうかね」
凄いパワフルだ。毎日、騎士達の食事を作っているだけの事はある。私(俺)らと力の入れ方が違う。
腕や手だけではなく足腰から身体全体を使い、力を余す事なくクッキー生地に伝えている。
「あっという間に纏めちゃった」
「すごぉぉぉぉい」
クッキー生地を麺棒で伸ばすところまでやって貰った。厚さにムラが無く、均一で伸ばされている。
「はいよ、これで良いのかね?」
「手際が良くて惚れ惚れしちゃいます」
「やだよぉ。こんなババァに何を言ってるのさ」
いや、マジでおばさんに惚れてしまいそうだ。前世でアラフォーの時に出会っていたなら告白して迫っていたかもしれない。
「次はどうするの?」
「伸ばした生地に型を押し付けてくり貫いて行きます」
ラピスは【収納魔法】からクッキーの型を数種類取り出した。星、ハート、丸、四角、三角等の型を並べた。
木を材料に手作りしてる感じが出ており、多少歪んでるが型としての機能は果たしてくれる。
「余った生地は、また纏めて伸ばせばくり貫けるよ」
「面白ぉぉぉぉぉい」
「勉強になるわ」
十分な程にクッキー生地をくり貫き、後は焼くだけだがオーブンレンジなんて便利な物はない。
そこで、石窯に入れ焼く事にする。火を入れるには薪に火を着けるのだが、ここはファンタジー世界、魔法という便利なものがある。
石窯に炎属性の魔石が埋め込まれており、それを起動する事で火が着く。
「ほら、石窯に火が着いたよ」
「わぁすごぉぉぉぉい」
「初めて見た」
「窯に入れるのは危険だからワタシがやってあげますよ」
くり貫いたクッキー生地を乗せたトレーを石窯の中央付近まで挿入させると窯の蓋を閉めた。
窯の中は見えないが、そこは魔法だ。程好い焼き加減と判断されたら自然に火が止まるよう魔法構築がなされている。
だが、これは最新の魔法技術のようで、まだ指で数える程しか生産されていない代物だ。
これを所持してるのは王族か貴族の中でも公爵に近しい者の家だけだ。
「これは最新式の石窯ですか?」
「おや?良く分かったねぇ」
「私、魔法を少しかじってますので」
何となく【鑑定】してみたら石窯に付与されてる魔法が見えてしまったのだ。
それによると、3つ魔法が付与されていた。窯内の物体を感知する魔法、窯内の温度を感知・調整する魔法、炎を鎮火させる魔法の3つだ。
ただ、まだラピスの実力では、これを再現するのは無理だ。今はまだ。