23話:クッキー
レストラン〝カズト〟で、数日遅れの誕生日祝いしてから翌日。パパと一緒に王城に来ている。
パパは騎士の仕事として別れ、私(俺)はメイドの一人にアテナの部屋へと案内された。
「ラピス、いらっしゃい」
「アテナ来ました」
アテナの部屋は、私(俺)の部屋とは違い広々とし女の子らしい造りとなっている。
ベッドに天蓋が装着されており、それだけでお姫様気分が味わえる。
それにベッドだけではなく、三歳児の部屋とは思えない程の豪華絢爛な家具の数々、花瓶や絵画等の装飾品の数々がラピスにとって眩しい。
「お土産を持って来たの」
「お土産?わぁ、ありがとう」
【収納魔法】からお土産を取り出した。お土産の中身は、ラピス特性クッキーだ。ラズリに作り方を教わり、材料もラズリが用意したくれた。
最初、何処かで盗んで来たのではと怪しんだが、ずっと一緒だったのに出来る訳がないと、今は怪しんでない。
「わぁ、キレイ」
一種類だけではなく、チョコ、アーモンド、マーマレード、バター等数種類作ってみた。
「これはクッキーというお菓子なの」
「何処のお店の?」
「私が作ったの」
「ラピスが?スゴい、ラピス凄い」
アテナの目がキラキラと輝いて眩しい。でも、悪い気はしない。まだ平らな胸を精一杯前へ出し、子供ながら見栄を張る。
「食べて感想を聞かせて欲しいの。アテナ、良いかな?」
「もちろん!でも、アテナにも教えて欲しいな」
初めての友達であるアテナの頼みを断りたくないが、二人とも三歳児。普通なら料理なんて危ない事は大人から止められる年齢だ。
だが、アテナは王女様。下手に止めてもしたら、それだけで不敬になりかねない。
「食べたら食堂へ行く?」
「うん、パクパク」
口に放り込むと、口に広がるバターの香りと濃厚な食材達の味が広がる。
一個食べてしまえば、中々手が止まらなくなる魅惑な食感と味。正に麻薬的な食べ物の一つだ。
「ほら、口周りにクッキーのカスが付いてます」
フキフキ
懐から取り出したハンカチでアテナの口元を拭く。はい、キレイキレイになりました。
「ありがとうございます。ラピス」
「どういたしまして」
ニコニコと微笑むアテナ。そんな笑顔にドキッと心がざわつく。鏡がないから自分の顔が見れないけど、おそらくピンク色に頬が染まってるかもしれない。
(何をドキドキしてるのだ。相手は、まだ幼女で王女なのだぞ)
前世では戦いの日々で恋愛をする余裕というかした事がない。むしろ、戦いこそが恋人であった。
そんな私(俺)が、今更恋なんて自分自身信じられない。それに相手は幼女で王女様だ。立場が違い過ぎるというか有り得ない。
「さぁラピス食堂に行きますわよ」
「えっ?!ちょっと待ってぇ」
アテナに手を引っ張られ部屋を飛び出す二人。廊下には二人の足音しか響いていない。
普段から鍛えてるからアテナに遅れを取らずに余裕で走ってるが、アテナも息を切らずに走ってる辺り三歳児にしてはステータスが高そうだ。
「ここが騎士達が使う食堂よ」
アテナに案内された場所は、訓練や遠征に行ってる騎士達が集う食堂。本来アテナを含む王族が来る場所ではない。
騎士達が使うからか、薄汚れおり所々誇りが貯まっている。前世の記憶で傭兵や冒険者が利用する宿屋の食堂と比べてもほぼ変わりがないと思う。
「あらぁ、アテナ様じゃないのぉ」
「ステラおばさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。今日はどうしたの?」
まるで給食のおばちゃんみたいな風貌の女性が厨房から顔を覗かせた。
アテナと親しそうで、いつもここに出入りしてるのか?まぁ幼い子供ならやりかねない。
「こちらアテナの友達のラピス」
「ラピスです。お初にお目見え致します」
「あらあらまぁまぁアテナ様に友達が出来たなんて、今夜はお祝いかしら」
本当に嬉しそうでニコニコと満面な笑みを見せるステラおばさん。自然とこちらまで笑顔になってくる。
「あのステラおばさん、厨房を貸して頂けませんか?」
「厨房を?アテナ様の命令なら構いませんが」
「やった、ありがとう」
厨房に入る。三歳児から見ると広く感じた。ラピスの実家よりも広い。
入った途端に思わぬ壁に激突した。三歳児である二人には背が低くて届かない。
「アテナ大丈夫。これなら届く」
ラピスが【収納魔法】から取り出したのは、二段ある足場だ。これで背が低いラピスとアテナにも届く。