22話:誕生日のデザート
だけど、パパが魔法を使えるなんて驚きだ。パパの職業は騎士長で、本来魔法を使うには不向きな職業のはずだからだ。
だが、後天的に魔法を覚える手段はある。
「ママがね、パパのためにスクロールを作ったのよ」
「スクロール?!」
スクロールとは、魔法の情報が書き記された書物を言う。それを読むと、魔法を覚える事が出来る。ただし、めっちゃくちゃ高い。
貴族の中でコレクションにしてる者がいる位だ。もしも、作る事が出来るなら一財産を築ける。
前世でも同じくスクロールは貴重であった。まぁ剣士職だったので、スクロールには無関心であった。
「とある錬金術師にスクロールの原料になる紙を譲ってくれたのよ。それが無かったら作れなかったわ」
染々とその事を思い出しながら塩拉麺を啜るママ。
ラピスが知ってる限り、ママも拉麺を食べた事はないはずなのだが、ちゃんお麺を啜れてる。
地球という世界で日本人という種族が麺を啜る行為が得意と記憶の片隅にある。
だけど、地球という世界には行った事はないし、日本人という種族も知らない。
「美味しいわね。大食間虫とは全然違うわ。こんなに細いのに噛みごたえがあって、スープに絡むわ」
麺の上に乗ってる具材も丁寧な処理をされており、スープにも野菜の旨味が染み込んでおり、パパより少食なママが難なくスープまで飲み干した。
「ゴクゴク……………ぷはぁ。残しちゃうかもと思ったけど、全部食べられたわ」
スープの一滴まで飲み干したようで、まるで洗ったかのようにラーメンドンブリが綺麗だ。
「ママ豪快です」
まさかスープまで飲み干すとは予想外だった。でも、今のラピスなら無理でも成長したら全部飲み干せるかもしれない。
「ご馳走様です」
「あら、ラピスも良く食べれたわね」
3歳の体格では多過ぎるかと思ったが、案外食べ切れた。炒飯の油もしつこくなく、具材も細かく切られており、ラピスの小さな口でも容易に放り込められたのが感触出来た要因の一つだ。
拉麺だったらスープまで回らなかったと思う。おそらく麺すら全部食べれるかどうか分からない。
「ゴクゴク…………プハァ。辛かったがクセになる美味しさだった」
パパも初めて挑む香辛料の衝撃的な辛さに悪戦苦闘しながらも完食した。途中から病み付きになっていたような気がする。
「パパ、もっと辛くする事出来ますよ」
「これ以上にか?!うむ、今日は止めて置こう」
まぁ初めてにしては辛さレベル星5でも十二分に検討したとラピス自身内心奥底から思っている。まさか完食するとは思わなかった。
「また来ても良いかもな」
「パパ、また連れてってくれるの?」
「あぁ、飯は旨い。値段はお手頃で、しかも量がある。こんな店中々ないぞ」
またココに来れる?!
普通は屋台じゃないと頻繁に外食は出来ない。家無しの冒険者でも拠点してる宿屋で飯を取るか野宿で狩った魔物を調理して食うのが一般的。
貴族に関しては、お抱えのコックがいるからして余程お気に入りの店でないと外食はしない。そもそもする意味がない。
「もちろん、ママも連れてってくれるわよね?」
「も、もちろんだとも」
騎士隊総隊長でもママには弱いみたいだ。冷や汗がダラダラと顔面だけではなく、首筋や腕から手首まで溢れ出ている。
笑顔のはずなのに、ラピスにもガタガタと恐怖を感じてしまう。ここだけ5℃下がったような感覚がある。
「で、デザートもあるみたいです」
話を反らそうと、メニューを開きデザートの欄を指差した。どれも初見のはずなのに、どんな味をしてるか容易に想像出来てしまう。
それ故、ラピスの喉がゴクンと鳴る。食べてみたいと衝動に駆られてしょうがない。
「デザート?」
「何だいそれは?」
「甘味です。私、食べたいです」
パパとママに子供らしくオネダリする。前世でも甘味は食べる機会はそうそう無かった。あっても氷果くらいだった。
甘味と聞いて、大人であるパパとママもゴクンと喉を鳴らす。貴族でもない限り、大人でもそうそう甘味は口に出来ない。
アテナ第二王女殿下にプレゼントした〝プリン〟は例外中の例外なのだ。何故、ラピスが用意出来たのかパパもママも知らない。
「よし、頼もうか。今日はラピスの誕生日祝いなんだから」
「そうね、そうよね」
「わーいです」
万歳して喜ぶラピスだが、パパとママも実は食べたかったのかと見抜いていた。