21話:麻婆豆腐と塩ラーメンとチャーハンセット
「お待たせ致しました。麻婆豆腐辛さ星5でございます」
「こっちだ」
見るからに真っ赤で辛そうに見える。だが、香ばしい香辛料の匂いが隣まで漂って来る。
パパを【鑑定】した事があり、無類の辛い物好だと称号に出ていた。まぁマックスじゃないから、きっと大丈夫なはずだと注文したのだが。
「これは食欲がそそる匂いじゃないか」
「でも、真っ赤で辛そうね」
麻婆豆腐が星5で、ここまで赤いとはラピスも予想外である。見てるだけで、こちらまで喉が痛くなるような錯覚に陥る。
「こちら炒飯でございます」
「私です」
ドーム状に盛られた炒飯は、お米一粒一粒事に炒められたと言われても納得出来る程の見事なパラパラ感だ。
それに良い油を使ってるのだろう。香辛料とは違う良い匂いが鼻に付く。早く食べたい衝動に駆られるが、まだママの料理が届いてない。
子供といえど、親よりも先に食べたら怒られる。パパとママが先に食べないと私も食べれない。
「お待たせ致しました。塩拉麺でございます」
ママの料理が来た。底が深い容器に半透明なスープが注ぎ込まれており、そのスープに色んな具材が盛り込まれている。
その中で目を引くのが、細長くて黄色な大食間虫に酷似してる物体がある。
パパとママは初めて見るようだが、私はこれを知っている。
「ママ、これ麺って言うのです」
「麺?初めて聞くわね」
「大食間虫ではないのか?」
「小麦粉と卵で作るのです」
地域によっては大食間虫を食べる。全長4~5mはあるような巨体で大きく開いた口で何でも丸飲みする魔物だ。
大量の肉が取れるため、珍味として屡々屋台で売ってる事もある。ラピスも前世では自分で狩って焼いて食べていた。
だが、ラピスに転生してからは何故か大食間虫を拒否ってしまう。前世の記憶で、これだけ封印したい位だ。
だけど、拉麺は別だ。チュルチュルとした喉越しにスープと絡み合い、食べる手が止まらなくなる逸品と化す。
「ラピス、良く知ってるわね」
ギクッ
転生した事バレたか?ママは元宮廷魔導師だし、そういう知識を持っていても何ら不思議ではない。
「家で作れないかしら」
「無理です。スープだけでも複雑過ぎて、家計が火の車になってしまうのです」
「でも、家で作りたいわ」
拉麺のスープ作りは極めようとすると、もしかしたら生涯費やすかもしれない程に奥が深い。
それに食材が大量にいる。ひと家族で、それをする位なら適当に調理した方が一月は食料に困らないだろう。
「何を言ってる?家で作れないのだから、こういう所に来るのだろう?ラピスの言う通り破産したらどうするんだ?」
「それもそうね。ごめんなさいね」
「分かってくれたら良いです」
ママに限らず、魔導師系統の職業を持つ者達は薬品生産系統の職業に劣るものの、薬品を自作出来る。それ故、料理にも興味を持つ者が多い。
「それよりも冷めない内に食べよう」
「それもそうね」
「「「頂きます」」」
パクパク
うん、やはり炒飯は食べた事はないが記憶が鮮明に思い出せる。とても懐かしく知らず知らず涙が零れ落ちた。
「ラピスどうしたの!」
「不味かったのか」
「いえ、美味しくて美味しくて」
ヤバイ、涙が止まらない。私(俺)の感情はどうしちゃったのだろうか?
次々と歓喜が溢れて涙を流しながら炒飯を口の中に流し込む。
涙の塩味が追加され、少しショッパイが前世でも味わった事がない程に美味しく感じる。
「そんなに美味しいなか?どれ、パクっ」
パパが麻婆豆腐を一口含んだ。その瞬間に額や頬から汗が次々に溢れだし、火蜥蜴みたく炎を天井に向けて吹き出した。
予想以上に炎が舞い上がる様子を見て、ラピスは目を輝かせた。
「辛ぁぁぁぁぁぁ!でも、旨いな。クセになる」
「パパ、凄いです。口から火を吹き出したのです」
「そうかそうか。ガッハハハハ、どれどれもういっちょぉ」
パクっ
ボォォォォォォォォ、再び麻婆豆腐を口に含み一種の演芸みたく炎を吐き出す。
「あなた、いい加減にしてください。店が燃えたらどうするの?」
「済まん済まん。ラピスが喜ぶので、ツイな」
「何の事です?」
パパが炎を吹き出したのは、麻婆豆腐が辛かったからではない。
炎魔法の一つで、その名も【火蜥蜴】、口から火を吹く魔法だ。
それを聞いた途端にラピスは、ガックリと項垂れた。