19話:第二王女と友達
国王陛下とアテナ様が一口スプーンでプリンを掬い取り口に含んだ。
チュルンと飲み込むように咀嚼すると、自然に口角が上がり笑顔となっていた。
「う、旨い。口に入れた瞬間に蕩けるような肌触り。これは卵を使ってるのか?いや、それよりも濃厚で鼻を抜けるような味わい。今まで食した菓子よりも旨いではないか」
「ラピスと言ったかしら?とても美味しいプレゼントを贈ってくれて感謝しかありませんわ。何かお礼をしたのだけれど、欲しい物はないかしら?」
王族からのお返し?!とてもじゃないが、畏れ多い。何か変な事を申したら不敬だろうし、逆に申さないと失礼だと取られ不敬になってしまうかもしれない。
「余の娘が、こう言っておるのだ。何でも良いぞ」
「では、申し上げます。わ、私と友達になってくれませんか?」
ラピスの言葉にシーンと静まり返る。何か失礼な事を言ったのではないかとラピスはオロオロと慌て出す。
これで私(俺)の人生は終わったのか?!第二の人生は短かった。実に儚い命であった。次に生まれ変わる事が出来たら、もっと長く生きたいと心底思う。
「クッカカカカカ、友達ときたか。アテナはどうじゃ?」
「はい、ワタクシで宜しければ、よろしくお願いします」
欲しい物が特段思い付かず、つい友達にと口にひてしまったが、どうやら無事にアテナ様と友達になれたようだ。
風の障壁により中の声は届いてないが、この事を貴族共に知られれば、悔しがる事間違いなしだ。
「夢のようです。アテナ様と友達になれるなんて」
「ラピス、もう友達なんですから様は付けないで。アテナと呼んでくれれば、ワタクシ嬉しいです。ワタクシもラピスと呼びますから」
そんな畏れ多い事、普通なら頼まれても出来るはずがない。位が高い貴族ならまだしも、一般貴族や平民なら間違いなく泡を噴いて倒れてる。
「あ、アテナ。これで宜しいでしょうか?」
「言葉使いも無礼講で良いのですのよ?」
「アテナ、これで大丈夫?」
「うん、まだ緊張してるようだけど合格よ」
合格?どうやら不敬に囚われないようだ。国王様もウンウンと頷いてポロリと涙が頬へ垂れた。
「アテナは、余の娘であるがために同じ年の子らと接する機会がなかったのでな。それが嬉しくて嬉しくて」
「父様?!」
口に出したら不敬になるから言わないが、国王様って親バカなのか?!
アテナを膝に座らせ、頬をスリスリと摩り寄せてる。長く伸びた髭がジョリジョリと痛そうだ。
「は、恥ずかしいです」
だが、けして口に出さないのは王族の娘故か。普通なら嫌がったり最悪泣いてしまうだろう。
もしも私(俺)がパパに髭をゾリゾリされたら蹴ってしまうと容易に想像出来る。
「おぅ、済まない。これからもアテナの事をよろしく頼む」
「国王陛下、頭を上げてください」
国王自ら頭を下げるとは思わず、呆気に取られ焦った。いくら風の障壁で中の声が聞こえなくとも姿は確認出来る訳で、こんな所を見られては国王の威厳に関わる。
国王は、どんな時でも頭を下げてはいけない。それが、どの国でも暗黙の了解となっている。
それに運が良く、こちらを見てる貴族は誰もいない。だから、急ぎ国王の頭を上げさせ玉座に座らせた。
「おい、セリス」
「はっ、国王陛下」
プリンの毒味役の人だ。
「こちらが認証許可証でございます。こちらをお持ちでお越しになられば、何時でも王城へ登城出来ます」
「アテナに会う時に必要だろう。そうだな、ガイルと共に来れば、よかろう」
キーホルダー風な金属製ぽいプレートを渡された。どうやら魔道具のようで、これに一滴自分の血液を垂らせば他の者は使えなくなる。
「良かったな、これで一緒に行けるぞ」
「パパも持ってるの?」
「おぉ、ほらこれがパパのだ」
同じようなプレートが胸元から出した。これを持ってないと、王城の周囲に張られた障壁により弾き出され入れない。
一種の暗殺対策だ。ここにいる貴族もこれと同じプレートを持っているのだそうだ。
「これでラピスは、ウチに来れるのね」
「そうみたい」
「ワタクシ嬉しいですわ」
キュン
まだ3歳のはずなのにアテナの笑顔がキレイだと見惚れてしまいそうだ。それは前世が男だっただろうか?
いや、それでもいけない。ロリコンになってしまう。うん?ロリコンって何だ?何でこんな言葉を思い付くのか理解出来ないまま、アテナの誕生日会はお開きとなった。