13話:先生が部屋に泊まる
泣き止んだアイル先生と私(俺)達三人は、少し料理が冷めてしまったが着席し今宵のご馳走を堪能した。
ママの料理は、宮廷料理人にも匹敵するのではと私(俺)は勝手に思ってる。何度かアイル先生に食事のマナーについて注意と作法の指摘があったが、それでも鱈腹食べて当分動きたくない。
そんな私(俺)は、椅子に凭れ掛かってるとアイル先生とパパが酒の肴に昔話を語り出した。
「しかし、まさか《閃光》とまで呼ばれたアイルが森精族だとは驚きだ。よくも騎士団の動きに着いてこれたな」
「騎士団に入隊する前から魔法よりも剣主体で戦っていましたから。それでも《剣鬼》と名高いガイス様には及びませんでした」
へぇ~、アイル先生よりパパの方が強いのか。元部下と元上司の関係だし、当たり前か。
私(俺)は、ジュースをチョビチョビと飲みながら興味深くアイル先生とパパの昔話に耳を傾けていた。
「いやいや、謙虚になるな。魔法を組み込んだ剣技だと、お前の方が上だっただろう」
「純粋な剣だとガイス様の方が上です」
二人とも相手を持ち上げて譲らない様子だ。パパの娘ながら、パパとアイル先生の勝負が見てみたい気持ちがある。
「ラピス、もうそろそろ寝る時間ですよ」
片付けからママが帰ってきてしまった。もう少しパパとアイル先生の話を聞いていたいが、ママを怒らせると鬼に変貌するから、ここは大人しく従う事にする。
「アイル先生は、今日家に泊まるのですか?」
「いえ、悪いですし………………もうそろそろお暇しようかと」
「もう部屋の準備をしてしまいました。どうしましょう?」
「アイル先生、家に泊まるの?嬉しい」
ママよ、わざとらしいがグッジョブだ。私(俺)もそれに乗っかり、アイル先生が逃げる道を失くすのだ。
もしかしたら、アイル先生と添い寝出来るチャンスが訪れるかもしれない。
前世が男だったから、一生に一回くらいはアイル先生みたいな美女に添い寝でも良いから一緒に寝てみたいもんだ。
「お部屋までご用意して頂き、心苦しいのですが………………ラピス様の部屋で御一緒してはダメでしょうか?」
これはまたのないチャンスだ。こんな直ぐに訪れるなんて、とんでもない幸運なんだ。
それもアイル先生から提案してくれるなんて、私(俺)の内心ではガッツポーズをとってる。
「アイル先生と寝れるの?私、嬉しい」
幼女ぽく物凄くご機嫌が良いと両手を万歳し体全体を使って表現した。アイル先生を含めパパとママも私(俺)の様子を見て、何故か知らないが微笑んでるから良しとする。
「アイル先生、私の部屋を案内するの」
「はいはい、ガイス様アリア様失礼致します」
私(俺)は、アイル先生と手を繋ぎ、ルンルン気分でスキップをしながら二階へ上がった。
私(俺)の部屋は、階段を上がって向かい側にある。パパとママは相部屋で私(俺)の部屋の反対側だ。
私(俺)の部屋は、3歳と少し経った頃に子供部屋として与えてくれた。まだ幼い私(俺)にとって、これ以上のない誕生日プレゼントだ。
「ここが私の部屋なの」
「素敵な部屋です」
一般的な子供部屋よりも1.5倍は広い。そもそも子供部屋を貰えない子供の方が多い。
子供部屋があるという事は、お金に余裕のある裕福な家庭か、大商人又は貴族じゃないと到底無理な話だ。
私(俺)の部屋の内装は、シングルベッド、クローゼット、勉強机が置いてある。枕元には、可愛らしいクマのヌイグルミがちょこんと座ってる。
勉強机の上には、この部屋唯一の光源であるランタンが置いてあり、ユラユラと何処か悲しげに揺れてる火が灯ってる。
「ラピス、開けてちょうだい」
「ママだ。今、開けるね」
ママは、態々布団を持って来てくれたようだ。洗濯したばかりのように太陽の匂いが立ち上る。フカフカで実に気持ち良く寝れそうだ。
「アイルさん、これをお使いになってください」
「わざわざすみません」
そうだった。私(俺)のベッドでは二人は寝れない。二人だとギュウギュウで狭いだろう。それでも私(俺)は良いと思ったが、そう問屋が卸さない。
ママが運んで来た布団を床に引き、これで何時でも寝れる準備は整った。
「アイル先生が一緒に寝てくださって、私嬉しいです」
「私もラピス様と御一緒に居られ嬉しいわ」
添い寝とはいかなかったが、一緒の部屋で寝れるだけで私(俺)は歓喜でしかない。それにアイル先生の笑顔は、まるで女神のようだ。本当に女神がいるなら、アイル先生のような人の事を言うと思う。
「それと、よく私の魔道具を見破りましたね」
ニコリと微笑んでいる。これは見破った事を怒ってる?