序章:伝説な傭兵は死んだ
俺は剣士系最上職である剣聖まで昇りつめて、かれこれ30年は経とうか?いくら『最強』と名のつく称号を欲しいままにしてきた伝説の剣聖でも年波には勝てない。
相棒である聖剣を振るうにも息を乱れる始末だ。鍛え上げた己の肉体も悲鳴をあげ、上手く思ってる風に体が動かない。頭で考えるよりも数秒動きが遅れる。
剣聖であるため魔法にはほぼ適正はない。ないが、二つだけ使える魔法がある。その一つが強化魔法だ。自分自身の肉体と手に持ってる武器を名前の通り強化出来る。
これを用いれば、息切れはしなくて済み、体も思う様に動かす事が出来る。しかし、元々の魔力が少ないので数分しかもたない。つまり、強化魔法は今の俺にとって諸刃の剣に等しい。
「ハァハァ、こんな事ならマナポーションを買って置くべきだったか?それよりも、ヒットポーションをもっと買うべきだったか?」
魔法を主力である魔法使いとは違い、魔力を回復させるマナポーションは剣聖である俺にとって普段必要ないアイテムだ。どちらかというと、近接戦闘を行う俺にとってHPを回復させるヒットポーションが必要なのだ。
まぁ今さら考えても目の前の状況は変わらない。俺の全盛期なら目の前にいる敵なんぞには、ここまで苦戦を強いられる事はなかった。過去に戻れるなら戻りたいと思ってしまう。
時間と空間を操る時空間魔法でなら過去に戻れるらしいが、剣聖である俺にはそんなものは使えない。無いものをねだっても仕方ない。
「ハァハァ、アースドラゴンの皮膚ってこんなに硬かったか?そんなはずはない。きっとアースドラゴンの変異種に違いない」
『ギャォォォォォォォォォォォ』
「うぉっと危ねぇぇな」
この世界での最強種と呼ばれるのがドラゴンであり、そのドラゴンの中で最弱とされるのが〝アースドラゴン〟だ。
アースドラゴンは、土属性のため体重が重く空を飛べないところから通称:地を這う蜥蜴と揶揄され、一部の者からドラゴン扱いされてない。
そんなアースドラゴンをパーティーで倒せB級、単独でA級冒険者として認知されてる。因みに俺はSSS級で国に一人か二人しかいない最高ランクの冒険者だ。
SSS冒険者になると、その国だけではなく世界中で英雄扱いとなり、所属国家の一大戦力として数えられる。何処にいるかの所在確認は常にされ、自由の身でなくなる代わりに様々な特権を国から与えられる事になる。
その特権は、所属する国によって多少違いがあるものの次に記した権利は大抵同じだ。
・最低でも男爵を爵位する。
・土地と家を貰える。
・国から金を支給される。ただし、国からのクエストを優先的に行わければならない。
・冒険者ギルド関係の施設を優先的に使用出来る。
・殺人以外の犯罪を犯した場合、無罪放免とする。ただし、やり過ぎた場合、SSS級を剥奪の恐れあり。
等々、以上がSSS級冒険者の特権だ。細かい箇所は所属する国によって違ったりする。
『ギャルゥゥゥゥ』
「くぅっ!このヤロウ」
アースドラゴンがブンブンと重量がある尻尾を振り回し、遠心力が加わり実質数倍となり、アースドラゴンの尻尾が俺へと襲い掛かる。
それを俺は聖剣の腹で防ぎ、まともに喰らっていたら数百mを吹き飛ばされたところを数m引き摺るまで抑え込んだ。
ただそのせいで、体力を根刮ぎ持っていかれ体が限界を迎えつつあった。どうにか聖剣を杖代わりとして立ってるのがやっとだ。それなのにアースドラゴンは、まだピンピンとしている。
「くそっ!俺の運もここまでか……………だがしかし、ただで殺られる訳にはいかない」
『ギャォォォォォォォォォォォ』
アースドラゴンが満身創痍の俺に突進をしてきた。俺は、それをギリギリで避ける。他のドラゴンとは違い、それぞれの属性ブレスや飛行は出来ない。
そのため、普通なら中遠距離からの魔法や技能を使用しながら戦うのが定石だ。だけど、俺は剣聖であるがためほとんどの技能が近接しかない。
「本当なら使いたくなかったが………………仕方ないか」
『ギャルギャルゥゥゥゥ』
俺に考える隙を与えないようアースドラゴンは、突進と尻尾攻撃を繰り返す。たまに爪と噛み砕こうとしてくる。
俺は悩んでる暇はないと判断し、温存しようとしてた切り札を切る事にする。
「【限界突破】うおぉぉぉぉぉ」
近接系統職業が覚える技能であり、単純であるが切り札になり得る。その効果は、全てのステータスを十分の間倍にする。その間は、状態異常は効かなくなるというものだ。
「これなら行ける。喰らえ【竜王斬一閃】」
『ギャォォォォォォォォォォォ』
アースドラゴンの首元を目掛け俺は聖剣を思いっきり切り付けた。剣聖の必殺の剣撃の前では流石にアースドラゴンでも、ただですまなかったようで、アースドラゴンの首を切断され息絶えた。
「ハァハァ、や……………やったか?」
俺の隣にアースドラゴンの首が転がってる。ドラゴン種全て高級な素材が取れ高値で売買される。これを持って帰れば一攫千金を得られるだろう。
だけど、俺は今回のアースドラゴンの戦闘で限界を感じていた。そして、今回の戦闘で勝っても負けても俺はとある覚悟を決めていた。
「これは眉唾物だが、試す価値はある」
俺は、もう一つ取得してる魔法である収納箱から一つのナイフを取り出した。
このナイフは魔法具であり、その効果は『刺した者を転生させる。転生先はランダム、転生する時代はランダム』である。
「では、この世界からサラバだ。転生するなら、今度は魔法系の職業が良いな」
ブスッと俺の胸に魔法具のナイフが突き刺さり赤い血飛沫が舞う。魔法具のナイフの効果でなのか?俺が意識を失い背後に倒れる前に全身が真っ白い光に包まれた。その後、俺の行方は誰も知る者はなかった。
と、思われたが、物陰が出てくる一人の女性がいた。その女性は、見目麗しく美の女神が降臨したと言われても納得出来る美貌の持ち主だ。
だけど、一つだけ他の人間とは違う部分があった。別に美貌の事ではない。他の人間より耳が尖ってるのである。
「逝って仕舞われたか。ワタクシが渡した魔道具とはいえ、心苦しいモノがありますね。さて、彼は何年後に転生するのやら」
そう呟くと、彼女はその場を後にした。