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長田桂陣 短編集

私、0時から2時までは絶対に目覚めないので

作者: 長田佳陣

「よしできた」


 青年のオデコに描いた【なんでも正直に話す呪印】の出来栄えに私は満足した。

 戦士として鍛え上げられた肉体と、私より頭二つは大きな身長。

 その両方が小さく見えるほどに青年はしゅんとしている。

 まるでご主人さまに叱られた大型犬の様だ。


「覚悟はいいのだな?」


 私は魔術師の杖をかかげて、最後の確認をした。

 この杖で呪印を軽く突けば、青年は一切の隠し事が出来ずに私の質問に何でも答えてしまうのだ。


「うん。もう、君に何を隠して何を話せばいいのか自分でもわからないんだ。その魔法で何でも聞き出してほしい。僕が君の信頼を得るためにはもうこれしかないと思う」

「そのとおりだ、お前の言動には怪しい点が多い。このままでは二人きりの冒険者パーティーで背中を任せられない」

「ああ。やってくれ」


 ここはダンジョンの安全地帯だ。

 モンスターもこの部屋に入ることは出来ない。

 だからこそ、ここにいる彼と私は運命共同体でなくてはならない。

 私は杖に魔力を込めると、青年のおでこの呪印に魔力を流し込んだ。



「さて、聞かせてもらおうか。私のことはどこまで知っている?」


 私の問いかけに青年が虚ろな目をむけた。

 その表情は普段の凛々しい姿からは想像もできない。まるで、眠気に耐える幼子のようだ。


「君は魔術師だ。帝都の魔術学校を優秀な成績で卒業して、研究のために冒険者をしている。出身は貴族で、小さな弟は君に甘えっぱなしだ。君もそんな弟が大好きだ」

「概ね間違いない。君は貴族としての私を利用しようと企んでいるのか?」

「いいや、そんな事はないよ」


 なるほど。まずは実家に害が無いとわかって一安心だ。

 そもそも、地方の貧乏貴族なので利用する価値もないけどね。


「では次にお前の事を話してもらうか。出身はどこは?」

「皇国の生まれだ」

「冒険者になる前は何をしていた?」

「父の仕事を手伝っていた。私には兄が居て、家業は兄が継ぐ予定だ。私はその手伝いをするための修行の身だ」

「皇国に害を成す様な一族なのか?」

「違う」


 ふむ。犯罪者の一族などでは無いようだな。

 問題はここからだ。


「夜中に私に隠れて、なにかこそこそやっているな? アレは何だ?」

「……」

「ここで抵抗したか、やはり何か隠しているな。私の魔法の眠りは知っているな?」

「もちろんだ。君は魔力を回復するため、毎日絶対に起きることのない魔法の眠りにつく時間帯がある」

「私はお前を疑ってから、魔法の眠りの時間をずらしたのだ。するとお前は安全地帯から出ていったな」


 青年が頷く。


「もし、お前が帰ってこなければ、私一人では先に進むも地上に戻ることも出来ない。それはお前も同じだ。そんな危険を犯してお前は何をしていた?」

「が、我慢できなかったんだ」

「我慢だと? 何を我慢しているんだ?」

「君の寝顔はとても魅力的で、しかもそれが絶対に目覚めない魔法の眠りだなんて。そんなことを異性に教えては駄目だよ!」

「は?」


 こいつは何を言っているんだ?


「ち……」

「ち?」

「ちゅーしたくなったんだ」


 治癒?


「治癒じゃない、口づけ、キスだよ」

「はぁ?」

「君は自分の寝顔がどんなに僕を惑わせるかわかってないんだ! それなのに『私、魔法の眠りで0時から2時間は絶対に起きないの。覚えておいてね』ってどんな誘惑だよ! 二人きりなんだぞ!?」


 私の物真似をするな気持ち悪い。しかも似てるというか、お前のほうが美形なのが腹立つわ。


「お前と二人でなんの危険があると言うんだ。二人きりだから安全なんだろ」

「三人になっちゃうだろ!」


 スライムじゃあるまいし、勝手に増えてたまるか。


「私にはな、宮廷魔術師になって貧しい領土の民を救う目的があるんだ! お前の欲情なんか知ったことか! 第一それと姿をくらます事になんの関係があるのというのだ?」

「ひとりで、その……」


 はぁ?


「まぁいい。そんなわけの分からない理由で安全地帯を抜け出すなど認められるか! これからはここでやれ」

「だからそれでは危険なんだ」

「お前が帰ってこない事のほうほうがよっぽど危険だ。なにか知らないが手伝ってやる。寝ている私が役に立つのだろう? 勝手にやってろ」


 バカバカしい。

 お前に何度、命を救われたと思っているんだ。ちゅーくらい何だ。

 こんな事で何日もやきもきしていたのか。


「お前は気楽でいいな。こっちは実績をあげて皇家の目に留まるために死物狂いだってのに。宮廷魔術師になるには皇族の推薦が必要なんだぞ。このままじゃ皇家との人脈なんて夢のまた夢なんだよ」

「そんなことは無いと思うぞ?」

「そんなことは有るんだよ。普通に生きてたらな、私達なんか一生視界にとまることもないんだ」

「だから、そうとも限らないんだよ」

「いや無理だね。皇族はね、その才能を認めるか、伴侶と認めた相手にしかその正体を明かさないんだよ」


 これだから脳筋はなぁ。


「もういい、魔法を解いてやる。この会話をお前は忘れてしまうからな。私もお前の恥ずかしい話は聞かなかったことにしてやる」


 私は再び魔術師の杖で青年のおでこを小突いた。



「終わったのか?」

「ああ。全部聞いたよ」

「そうか……僕は秘密を全て話してしまったのだね」


 秘密って大げさだな。

 ちゅーだろ?

 皇族なら婚姻の証だが、庶民にはただのちゅーだよ。


「まぁ、ちゅーくらいは受けて入れてやろう。そのくらいの仲ではあるよ私たちは」

「本当か!」


 なんだよ、めっちゃ嬉しそうだな。

 まぁ、私のちゅーがそこまで魅力的と言われて悪い気はしない。


「ありがとう。改めてよろしくな」


 青年が手を差し出してきた。

 私がその握手を受け入れると、大きな手でぐいと引き寄せられる。


「皇国、第二皇子のアルバートだ。これまで通りアルと呼んでくれ」


おしまい

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