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騎士団長からの甘すぎる溺愛  作者: 有栖川 すず
5/5

デート?




―――夢現の中で迎えた翌日。



眩しい光で目が覚めれば、そこには昨日と変わらない絢爛華麗な景色が広がっていた。




―――コンコン。



ドアをノックする音で寝起きで回らなかった頭が一気にはっきりする。



「・・・は、はいっ」



今までドアをノックされるという経験がなかったために、ぎこちない返事になってしまった。



・・・誰だろう?



ドアの方を見ていれば、白黒のメイド服を着た可愛らしい容姿をした女の人が、1人静かに入ってきた。



「本日からエマ様専属のメイドになりましたエレンです」



そう言って彼女は綺麗に頭を下げた。



専属のメイド・・・・・・。



メイドね・・・・・・。



・・・・・・ん?



今、誰の専属のメイドって言った?



私の耳がおかしくなければ、私の名前が聞こえたような・・・・・・。



「・・・・・・わ、私の?専属の・・・メイド?」



戸惑いながら聞けば、小さな笑みを浮かべた彼女は確かに頷いた。



「はい。ウィリアム様からのご命令ですので」



本当は断りたい。


専属のメイドだなんてほど遠い話だと思っていたのに・・・。


なにより、私は専属のメイドを付けてもらえるような高貴な身分じゃないのに・・・。


どちらかと言えば、私はメイド側になるべき人間なのに・・・・・・。



でも、きっと断ることはできないんだろう・・・。




「では早速、こちらにお召し替え下さい」



エレンさんの言葉で、ハッとして彼女の方を見れば、右手には白いドレス。



「・・・え?」



どうしてドレスを着るのかと疑問を口にする前に、てきぱきとしたエレンさんの手によって、いつの間にかドレスを身に纏っていた。



シルク素材で出来ているドレスなのか、滑らかな肌触りで、いかにも高級そうな香りがする。



「お次はこちらに座ってください」



ドレッサーの前まで導かれると、慣れた手つきで私の髪を巻き上げていく。



髪に装飾が施され、メイクをされ、コロンをつけられ、全身鏡の前に立たされた。




「・・・・・・っ」



思わず目を見開いた。


鏡に映っているのは自分なのかと疑うほど、知らない人がそこにはいた。



「これ・・・・・・すごい!」



テンションが上がり、エレンさんの手をギュッと握った。



「エレンさんて魔法が使えるんですか?」



「え・・・?」



「こんなに変わるなんて・・・ありがとうございます、エレンさん!」



嬉しさのあまり頬が緩んだ状態でエレンさんを見れば、彼女は微かに頬を赤らめた。



「そんな恐れ多いです・・・。エマ様の存在自体が素晴らしいんですよ」



「・・・・・・ふふ」



シルクのドレスを着ることも、髪を綺麗にしてもらうことも、メイクも、コロンも初めての経験だった。


・・・こんなに変われるなんて・・・・・・。



「喜んでいただけたようで良かったのですがエマ様、私に敬語はお使いにならないで下さい。呼び方もエレンと呼んで頂ければ・・・」


懇願するような口調のエレンさんに驚くけど、すぐに意味を理解した。



ウィリアム様が私の事をなんて言葉で説明したのかは不確かだけど、この家の中で私の存在は上の方の立ち位置なんだと思う。


そんなことを思っても、すぐに人の上に立つ人の気持ちには到底なれそうもない。


でも、傍から見たら私は、専属のメイドが付いているスミス家の人間と思われても仕方ない。


そんな人がメイドに対してさん付けで呼んでいたり、敬語を使っているのは変な目で見られるんだろうということは、容易に想像がつく。


・・・・・・確かにそれは・・・。



もしも自分がメイドという立場だったら嫌な気持ちになる。



「・・・わ、分かった。最初の方はぎこちなくなっちゃうかもしれないけど、努力しまっ・・・するね」



鏡越しに頷けば、エレンは嬉しそうに顔をほころばせた。




「あっ!もうすぐ時間です!」



急に大きな声を上げたと思えば、慌て始めるエレン。


・・・なに?どうしたの?


時間てなんのこと?


誰かと約束をした覚えはないし・・・・・・。


そもそも、何で私はこんなに可愛い格好をしているんだろう?



「ウィリアム様がお待ちです!」



エレンは私の手を引かれて階段を降りついたのは、大きなシャンデリアが吊り下げられている広い玄関らしき場所。



そう言えば、下の階に降りて来たのは初めてだな・・・・・・。


と言うか、私が今までいた場所が2階だったっていうのも初めて知った・・・。



「エマ」


そんなことを考えていた私の意識は、聞こえて来た声により一瞬で引き戻された。



ドアの前に立っていたのは、今まで見てきたような高級そうな服を着ているが、いつもよりラフな格好をしているウィリアム様の姿。



数時間ぶりに見た彼は、相も変わらず美しい姿をしている。



「・・・うぃ・・・ウィリアム様・・・」



「じゃあ、さっそく出かけようか」



ウィリアム様は優しい笑みを浮かべると、慣れているようにサッと私の腰に手を回しエスコートをし出した。


あまりのスマートさに一瞬遅れて、ドキドキと心臓が鳴り出す。


「え?出かけるっていうのは・・・・・・」


まさかと思いながらも問えば、


「今日は2人きりでデートをしよう」


想像通りの言葉が返って来て、心臓がより一層早く動き出す。



それから何も言う言葉が思いつかずに、馬車に乗り、いつの間にか街へついていた。



いくつものお店が所狭しと並んでいて、おしゃれな建物も建っていて、ガヤガヤと人々の楽しそうな声が聞こえてくる。



「・・・街・・・」


馬車から降り、目の前に広がる光景に息をのむ。



人生で来るのは2回目。


と言っても最初に来たのは10年前。

私が7歳の頃のことだから、覚えていることはほとんどないし、街の風景もほとんど変わっていることだろう。


だから実質初めてと言っても過言ではない。



「街に来たことはある?」


後ろから聞こえた声に振り返れば、ウィリアム様は優しく目を細めている。



「小さい頃に1度だけ来たことはありますけど、ほとんど覚えていないので・・・」


そう答えれば、


「・・・そう」


と悲しそうな表情を見せたウィリアム様。



・・・え?


私、何かまずい事でも言ったかな?


もしかして気分を害しちゃったのかも・・・・・・。



内心、焦り始めて謝ろうと口を開こうとすれば、


「じゃあ、今日はとにかく遊ぼうか。初めてのデートなんだから」


さっきまでの悲しそうな表情や声色が幻だったかのように、ウィリアム様は楽しそうにしている。



「・・・でも・・・っ」


さっきの表情がどうしても引っかかってしまう。



「どこから行く?あっちの方に服があったはずだから行ってみる?」


私の言葉を遮って、手を引いて歩き出すウィリアム様。


少し強引な感じにさっきの事を聞いてほしくないという雰囲気を感じ取り、黙ってついていくことしか出来なかった。



それから数時間。


陽が沈む頃まで街を楽しんだ。


いつの間にか、ウィリアム様が悲しそうな表情をした理由を考える暇もなくなるくらい、心がワクワクしていた。


お店を見たり、食べ物を食べたり、人々が楽しそうに歌ったり、踊ったりしている姿を眺めたり・・・・・・。


来ることの出来なかった10年間を埋めるように楽しんだ。



「・・・ウィリアム様、今日は連れて来ていただきありがとうございました。とても楽しかったです」


馬車から降り、屋敷の玄関に入ったところで、ウィリアム様に声をかける。


屋敷に着くまでの道中は、街での余韻でボーっとしていたため、お礼を言うのを忘れていた。



「わたしこそ楽しかったよ」


その言葉に思わず首を傾げる。



あっちに行ったりこっちに行ったり・・・、連れまわしてしまったし・・・・・・。

食事のお金など全てウィリアム様が出してくれたし・・・・・・。



「私のペースに合わせるばかりで退屈でしたよね・・・。申し訳・・・っ」


もしかしたら、ウィリアム様にも気になるお店があったかもしれないのに・・・。


ウィリアム様のことを気遣うことを忘れ、完全に自分のペースで楽しんでばかりいた・・・。


頭を下げようとした瞬間、肩に手が当てられ、動きが止まる。



「退屈だなんて一瞬も思わなかったよ。わたしは、エマと同じ時を過ごせて嬉しかったし、楽しかったよ」


優しい表情で言われ、そんなことあるわけないとは思いつつも、嬉しくなった。


「だから、また一緒に出掛けてくれる?」


綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめられ、首を横に振る事なんて出来なかった。



コクッと小さく頷けば、ウィリアム様は嬉しそうに表情を崩した。


その顔を見て、ドキッと心臓が音をたてる。



「それからこれは、プレゼント」


ウィリアム様は、手のひらサイズの白い箱を上着のポケットから取り出し、私の手にのせた。


「・・・こ、れは・・・」


ゆっくりと蓋を開ければ、そこに入っていたのはピンク色の光を放つ宝石が埋め込まれているシンプルな髪留め。


だけど、どこか高級な雰囲気を感じ取る。



・・・ピンク色の宝石なんて初めてみた。



「エマに似合うと思って買ったんだ。・・・貸して」


箱から髪留めを取り出したウィリアム様は、私の横髪に優しく触れる。


―――パチン。


その音で髪留めを付けてくれたことを理解し、玄関のサイドにある大きな全身鏡の前まで連れていかれる。



「・・・やっぱり、似合う。可愛いよエマ」


後ろに立っているウィリアム様と鏡越しに目が合い、頬が熱くなる感覚がする。



「・・・ありがとうございます」



恥ずかしくなり、視線を足元に落とす。



そうすれば、クスッと笑う声が聞こえ、髪に手が当たる感覚がして気になって視線を鏡に向ければ、


「・・・・・・っ!!」


ウィリアム様の唇が髪に落とされ、声にならない声が出る。



「好きだよ、エマ」


優しくて囁くような声。


言われた言葉を理解した瞬間に、さらに頬が熱くなり、心臓がドキドキし始める。




・・・2回目の好き。


ウィリアム様の言動によって私の心臓が早鐘を打ち始めるのは、


ただ単に男性からの扱いに慣れていないからか、


相手がウィリアム様だからか・・・・・・。



今の私には見当もつかない・・・・・・。












































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