新しい生活
鮮やかな金髪、ホリゾンブルーの瞳。
190センチはありそうな身長、衣服の上からでも分かる鍛え抜かれた身体。
高級そうな衣服。
そして何よりも、今まで見てきた誰よりも整った顔立ち。
どれを取っても、圧倒的なオーラを纏っている。
スミス家とは、古来王宮に仕えてきており、武術・剣術などあらゆる方面に精通している、まさに完璧貴族、パーフェクトノーブル。
王家の人間とは最も距離が近い貴族であり、最も信頼されている一族でもある。
また、王家の人間は伴侶を決める時に、スミス家から選ばれることが多く、他の貴族からは羨望の眼差しを向けられている。
その昔両家の先祖たちが親友だったために、このような関係が築かれたのではないかという噂も聞いたことがある。
村で聞いたことのあるスミス家の話を頭の中でまとめてみたけど、どれも整理できないほどの情報量で頭がパンクしそうになる。
一般平民である私なんかとは住む世界の違う、雲の上のような存在だと思っていた・・・・・・。
それなのに・・・・・・。
「行く所がないのなら、ここにいて欲しい・・・。そして、わたしの婚約者になってもらいたい」
自分の耳を疑った。
いや、そもそもこれは夢の中の出来事なのではないかと考えた。
だって・・・・・・雲の上のような身分の方が、ただの何の取り柄もない平民にかける言葉にしては、恐れおののくような内容だったから・・・・・・。
夢なら早く覚めて欲しいと、頬をぎゅうっとつねってみるが、現実に戻る気配すらない。
だとしたら、これは・・・現実?
ハッとして目の前の方を見れば、優しい笑みを浮かべて私を見ている。
「・・・・・・あ、あの・・・」
ジェームズは貴族ではあったし、村一番のお金持ちだったが、国単位で見てしまえば、下級の貴族だった。
ジェームズ以上に身分の高い人にいままで会ったことがなかった為に、どんな言葉を発していいのか分からずに、口を閉ざした。
「わたしの前では変に気を負う必要はないよ。丁寧な言葉遣いなんて要らないし・・・いつもの君でいてくれたほうが嬉しい」
私の心を読んだように彼は優しい口調で言った。
ありがたい・・・。
今までそれなりの教養は身に着けて来たつもりだが、こんなに身分の高い人にも使っていい言葉か分からなかったから・・・・・・。
だけど・・・・・・緊張するのには変わりない。
「・・・・・・どうして私なんかに婚約者になって欲しいなんておっしゃるのでしょうか?スミス様であればもっと身分の高いお似合いの女性の方がいらっしゃると思うのですが・・・」
それに、その顔立ちや立ち居振る舞いでスミス様がモテないわけがない・・・・・・。
「わたしが君でないとダメだから・・・。・・・・・・好きだから。他のどんな女性よりも、わたしの目には君が一番魅力的に見えているんだ、エマ」
好き・・・・・・?
人生の中で言われたことのない言葉。
童話の中でしか出てこないと思っていた言葉。
・・・しかも、名前呼び・・・・・・。
ドキッと心臓が音をたてた。
「それから、わたしのことはウィリアムと呼んで」
その言葉が耳に届いたと同時に、瞬間的に首を横に振っていた。
さすがにそれはハードルが高すぎる・・・・・・。
ムリムリ・・・絶対ムリ。
コツッと靴の音がして顔を上げれば、さっきまでは人2人分くらいの間が空いていたのに、いつの間にか手を伸ばせば触れられるほど距離が近づいている。
「お願い、エマ」
顔が近づいて、耳元で子犬が甘えているような声が届く。
ビクッと体が跳ねるが、どうしてかその場から動くことができない。
まるで、甘い毒に侵されてしまったように・・・・・・。
「・・・エマ」
追い打ちをかけるように私の名前を呼ぶ声。
「・・・ウィ・・・・・・ウィリアム、様」
口から出たのは小さな声。
だけど近くにいた彼には聞こえたようで、満足そうな表情をして離れると、ポンと私の頭に手を置いた。
「仕事に行ってくるよ」
そうして何事もなかったかのように副団長様と一緒に部屋から出て行った。
バタンと後ろからドアの閉まる音が聞こえたと同時に、足の力が抜けその場に座り込んだ。
・・・やっぱり夢?
いや、ここまで来たら夢じゃないことくらい分かる。
・・・・・・これは、現実なんだ・・・。
騎士の中でも優秀な人のみが属している第一騎士団の団長様は、完璧貴族と名高いウィリアム・ローレン・スミス様で・・・・・・。
そんな身分の高い彼から、
『ここにいて欲しい』
『婚約者になって欲しい』
極めつけは、
『好き』
だと言われた。
まるでお話の世界みたい・・・・・・。
初めて会ったウィリアム様は最初から紳士な方だとは思っていたし、実際紳士だったけど・・・強引な所があって、ドキドキさせる天才。
ドキドキと鳴っている心臓のせいでしばらくその場から動くことが出来なかった・・・。