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私は今、人身売買の現場にいる。父上に連れられ、近所の中核都市で奴隷商人に会う。生け贄の儀式で領民が攫われても困るので、奴隷で代用にする。銭で解決って見方もあるが、命の値段って意外に安価なもの。珍獣は“女の子”が好みらしく、候補は性奴隷に絞る。全員裸で寒くないのでしょうか。
「13歳までの女の子が3人欲しい」
奴隷商人が何人か連れて来る。首輪で繋がれていて痛々しい。“前世”の記憶で、これからの我が身に刻まれる成長予測から察するにギリ20代っぽいのがいる。父上は凝視するのも失礼に思ったのか、“商品”はよく見ていない。
「父上、正しくは13歳までの処女です」
私は小声で言う。慌てて“膜はあるのかい”って直球で聞いていましたが、全員いなくなった。父上にデリカシーがなかったから、も考えられる。次は薄幸そうな子らが目の前に。私は珍獣撲滅して脱出する予定。この子らが生け贄に捧げられなかったら、使用人になる可能性大。没落したら嫌だから却下にしたい。
「この子らはゴブリンに村を襲われ両親が撲殺された。可哀想だろ、買ってやりな」
父上も酷だって思ったのかチェンジ。奴隷商人がテントから出したのは、上玉っぽい。ギリ貴族でもいいのが居ないって思われたら、商人の名に傷がつくって考えたらしい。
「父上、この子は生け贄にはもったいなくないですか? 私にください」
つい欲望が言葉になって出たが、父上は財布に相談中。商談会は今日までなので即断即決でお願い。腹が決まったのか、金貨9枚でお買い求め。
──あなたは私のもの。
我が家に戻って、櫛で性奴隷の髪通しながら違和感。何か魔力っぽい。帰宅時に見た母上の怪訝な顔はこういう訳だろう。でも、お人形遊びは楽しい。透き通る肌、潤んだ瞳、ぷるぷるの唇、精巧なラブドールだった。言語の設計は未実装なだけ、魔力で弄ったら会話も出来そう。
※※※
「父上に何も言わないのですか?」
私の問いに母上は人形の方が生け贄に相応しいって。
「母上、私も魔力で動く人形は作れますか?」
「禁忌魔法の一つだから駄目。それに、……あれは人形ではなく元は人間」
作り方は単純明快。この時代、埋葬は土葬だから墓場から“側”貰う。肉は取って蝋、関節に玉、心臓に魔力、とろけた脳も魔法で固めたら完成。魔法ではなく呪術が正しい。
「儀式の日、私とパパは生け贄を巣に持っていく」
「ぅ〜私も行っていいですか?」
「巣の中枢にゴブリンの親玉がいるらしいの、そいつぶっ潰す」
YES/NOで返っては来ない。広げた迷宮の地図。珍獣にも秩序があって住居が決まっている。円錐形の山なので“生産拠点”は中心にあるって話。珍獣の生活は人間に似て、深夜の活動はしない。儀式は3日間で、この期間、村人と珍獣は不眠不休で執り行う。
「巣にはオスだけで、その日は興奮状態で頭の中は交尾だけしかない」
私は中性的ですが、父上は除外して、母上は母体になるので危険に思う。
「……母上、その地図はいつ誰が作ったものですか?」
何の疑いもなく机上で立てた計画に穴はないのか。起立した母上は“パパ〜”って言いながら家中歩く。父上は微動だにしない人形に生け贄の件について説得していた。
「この地図は、村の協力者から預かったものになるね」
「信用に足る人物なの? 作った人は? どう言う目的で?」
父上の解は曖昧で地図の信憑性が揺らぐ。それっぽく描いて渡しただけの可能性。
「じゃあ、ここ、ゴブリン不毛地帯だから、これから案内してもらいましょう」
母上は地図に示された順路の内、珍獣の倉庫区間は見張りも居ないって話。だったら、今から行っても誰にも見つからないで行ける、はず。痕跡がなければ警備の強化もない、はず。