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刀は取り上げられるかって思っていたが、稽古は続いている。特に母上は熱心で、気付かれないよう刀に微量の雷魔法を流し、握力低下で武器が握れなくなる無力化の技まで伝授してくれた。つばり合いから抜け出す方法に、刀が脆くならない程度に炎の魔法で炙り、敵の髪を焼く術。即座に水魔法で冷却しなくてはならないが、私は非力なので、役に立ちそう。


「ソフィアは、体内での魔力生成活動が弱いから、密着している人やものに流すのはいい。でも、撃ち出すのは魔力が枯渇して倒れるから」


母上は私の質問のする前に“魔法の撃ち出し”の実践か水口レイピアで指し示した木に向かい三本の光の矢を放つ。西洋の剣を見本に東洋が模倣したもので、不純物が少なく魔力の伝導効率がいいので魔法使いがよく使う、らしい。受け止められない大太刀は逆風で弱める。肉弾戦が避けられないなら、使うよう教わった。


――母上も戦場に……?


※※※


ランチタイム。母上は三等分したピザで魔法の射程について説明していた。私はくるくる巻いて頬張る。父上の恩賞は凄まじく、男爵のくらいで、住居以外は貴族っぽかった。


「ソフィア、そろそろ模擬戦しないかい?」

「嫌です」


私は父上の問いに抗う。母上も反対そう。


「だったら、僕はもう剣術の稽古はしない、いいかい?」


この畳み掛けは“前世”の記憶で悪徳商法やクレーマーの騙し方だった。

ただ、あくまで私がそう思っただけ。YES/NOの解は思う壺なのでずらしていく。


「4歳の私が大人に剣術で勝てません。卑怯です」

「模擬戦の相手は同い年だから、安心して欲しい。いいかい?」

「……、父上や母上から教わったのは、悪い奴をやっつけるものではなく、私自身の身を守るものです。どうやって勝つのですか?」


父上は己の矛盾に気付いたのか言葉に詰まる。

模擬戦は技を競うのではなく、戦闘不能にして勝ち負けを競う。


「ほら、ソフィア、パスタが冷めますから……」


気まずい空気に母上は救いを差し伸べ、私は頷く。


※※※


「“戦争”ではなく“虐殺”、僕はそう思う。統治に失敗したから鎮圧してくれって言うのが本音だろう」

「でも、征服地で支持の厚いジョシュア卿が、虐殺なんて……」

「戦友の僕も信じられないでいる。でも現地からの便りは例外なく圧政が記されていた」

「まさか……」


夜。両親は隣の部屋で何か話し合っている。机に広げられた便箋。母上は驚愕の目で読んでいた。質素な家で壁は薄く隙間も多い。


「前、使いから、秘密裏に国王軍が3万の兵を率いて討伐に向かったが壊滅したって聞いた」

「討伐に出るのは主力部隊でしょう。それに誰の討伐に出たの? 鎮圧ではなくて?」

「分からない。ただ壊滅したのは地の利は向こうにあるから、奇策にハマったのかもしれない」

「でも、ジョシュア卿は、統治は得意でも戦は……」

「僕も同感だ。何が起きているのか……。国王軍復帰以外で王宮に行く目的が欲しい。説得してくれないか」

「ソフィアの模擬戦?」


父上は静かに頷く。


「駄目、ソフィアが怪我でもしたらどうするの?」

「心配なのはソフィアじゃなくて、相手の話じゃないのかい?」


母上は虚をつかれたように目を見開く。


「うん。……国王軍からのスカウトも怖い」


父上も母上も難しい顔でいた。私はこれまで、剣の打ち合いは父上しかしてこなかったので、剣術に秀でているのか分からないでいる。微弱な魔法の制御も誰もが使いこなしているように感じていた。“前世”の記憶からの教訓は、親の評価は当てにしない。


「……ソフィアも乗り気じゃなさそうだから、やめた方がいいか」

「もう遅いし、今日は寝ましょう」

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