0 プロローグ
銀行強盗。平成後期には10件に満たない数に落ち、検挙率も非常に高く、“割に合わない”行為。
太陽の眩しさに耐えながら、地方の郵便局に定期預金の解約で来訪した私は、重厚で重々しい銃器が突きつけられ、お手上げだった。
目に映る範囲で、局には従業員が2人、客は私、幼い子連れの3人の計5人、犯人のような目出し帽姿の人々は8人程度。小規模の局にシャター設備はなく自動ドアの前に犯人の内2人が待機していて逃げる隙もなく、私たちの監視に2人いて耐えるしかなかった。
何かで膨れ上がった鞄抱えて4人が局の裏側から戻って来る。顔見知りの郵便局長の顔は強張っていたが犯人は目が笑っていた。
後は逃走だけ。よくテレビで逃走する犯人へのカラーボール投げ等々の訓練が放送される。“それ”が見られるのかって思っていたら、犯人は処刑し出した。
最初に郵便局長、次に補佐の人、胸に3発受け痙攣しながら血が噴き出している。幼子の親は命乞いしていた。でも、目の前で幼女の頭が粉々に、脳天が飛び散って、親は気が狂ってしまい、何が言いたいのか声は人語ではなく呪いの文言に近い。嘲笑うかのようにつかまれた髪。一筋の涙。その人は、咥えさせられた拳銃で“自死”した。
残ったのは私だけ。この状況、実は生き残る可能性が高い。
浅知恵でも実行犯は1人が2人ではなく、1人が1人殺害したって間違いのない証言が欲しいから。でも、こどもから撃ったのはどうして。
強盗が目的ではなく標的は……。思考の世界に逃げていたら、犯人は引き上げていく。残された私は、血の海で、“警察”に通報した。
※※※
人の噂も風化していく。あの場に居合わせた私ですら忘れていく。
なのに、幼子の親の夫が私にしつこく、“誰が”殺したって聞く。でも、私が見たのは、何者かの手によってではなく、絶望から引いた。それだけ。あの状況で“救急車”は呼んでも無意味だった。
監視カメラは破壊され物的証拠もなく、私が何か隠しているって思われている。この追及が精神的に辛く外に出るのが嫌になって今は休職していた。
生かされてはいるが、生きてはいない。心晴れたある日、久々に喫茶店で文庫本片手にお茶していた。帰りは本屋に寄って都心から電車で最寄駅に向かう。列の前で待ちながら買った新刊に視線がいく。
「っ!」
――誰かに押し出され線路に落ち……
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