おかたづけ
「……どこいくの」
「部屋に行くだけ!私は怒ってるんです!」
ぷんぷんという擬音をつける勢いで背中を向ける。
きっかけはほんの些細なこと。散らかしたとか散らかしてないとか、まぁ、よくある喧嘩。心底怒ってるわけじゃないし、かといって黙ってはおけない。怒ってることはわかって欲しい。
「……ね、」
後ろから掴まれた腕。止まる足。
「……」
「ごめんね」
たったその一言で、動くことを拒否しだした私の足。まるで床に張り付いてしまったみたいに、両足ともぺったりその場にくっついたまま。
「……」
「こっち、戻ってきて」
「……怒ってるんだってば」
「うん……ごめん」
「……」
少し離れて私の腕だけを掴んでいたはずの彼はいつの間にか私の真後ろで。
「あっち、いかないで」
ずるい。その言葉だけで強制的に振り向かせられる感覚。まるで声に魔法がかかってるみたい。後ろ髪引かれるなんてもんじゃない。そんな柔らかなものじゃない。
「……」
「ちゃんと片付けとく。ごめんね」
「……よろしく」
「だから、ね、こっち」
斜め後ろから降ってくる、大好きな彼の声。あぁ、もう、嫌になる。いよいよ意志を無視しだした私の足は喜んで真逆を向いていた。怒りたい私の心情、わかってる?って自分の足にツッコミを入れたい気分。
「……片付けてくれた後なら、いいよ」
なんとかそう言って、彼の胸に顔を押し付けた。
「……うん!」
敵わない。腹が立つ。惚れた弱みとはこのことか。
悔しすぎて唇を噛みたい気持ちなのに、ものすごく嬉しそうに私を抱きしめる彼を見て、つられて笑った。
「じゃ、行ってらっしゃい!お片付け!」
そこは譲らない彼女。
でもきっと、にこにこ彼のお片付けを見守ってると思う。
一緒におしゃべりしてると思う。