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外れ職業、無名剣士【ノービス】

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三雲来斗 16歳 男 レベル:1


天職:無名剣士【ノービス】


攻撃力:5


HP:5


防御力:5


素早さ:5


魔法力:5


魔法耐性:5


スキル:特になし


装備。銅の剣。攻撃力+10。旅人の服。防御力+10


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【ノービス】という天職の意味をよく理解してはいなかったが、明らかに脆弱なステータス。頼りないスキルと装備に、一瞬にしてクラスメイト達は来斗が足手まといである事を理解した。


「【ノービス】という職業はただのありきたりな剣士の事です。何の特徴もなく、ただただ弱い。毒にも薬にもならない、最弱の天職だと思ってくれて差支えありません」


 女神は淡々と語る。


「……なんでだよ。なんで、三雲だけこんなに弱っちいんだ?」


 一人の男子生徒が疑念を呈する。来斗だけ明らかに浮いていたのだ。チート級の天職を授かっているクラスメイト達の中で、なぜか来斗だけ。明らかな違和感を感じていた。


「さあ……それを私から語る事はできません。それはご本人がよくわかっているのではないでしょうか?」


 女神は意地の悪そうな笑みを浮かべた。その目は見透かしたような目だった。来斗は理解する。これはハンデだ。記憶を持ちこした来斗にとって、これから転移する異世界は未知の世界ではない。既知の世界だ。来斗にとっては二週目のプレイなのである。


 恐らくはあの時、クラスが全滅し、来斗が命を落とすその瞬間。来斗はやり直せたらと祈った。女神はその祈りに応え、願いを叶えたのだ。


 だが、当然のように前回の知識を持ち越せるというのは大きなアドバンテージだ。それでは天秤が釣り合うはずもない。その為、来斗にはハンデが与えられたのだ。そのハンデこそが最弱の職業である【ノービス】を天職として授けられるというもの。


 女神は全てを理解しているのだ。だが安いものだった。それでもやり直せるというのなら。どんなに条件が悪かったとしても最悪の結末を覆せるのならば。来斗にとってそれは安すぎる代償だった。


「……ちっ……まあいい。足手まといの一人いたって……俺達は強力な天職を授かってるんだろ。一人最初から死んでると思ってればいいんだ」

「そうそう……俺達だけで何とかしようぜ」


 役に立たないと判断したクラスメイト達は冷たかった。勿論、全員ではない。一部だ。そういう薄情な連中も間違いなく存在していた。それもまた人間の本性の一面である。


「三雲君……」


 可憐はどう声をかけたらいいのか、戸惑っているようであった。もはや、クラスの内で来斗一人が既に存在していないような扱いを受けていた。


「よくわかんねぇけどよ、これから俺達が行く世界は危険な世界って事なんだろ? 魔物に侵略されている世界とかさ」

「確かに安全な世界ではありません。皆様は世界を滅びの危機から救う為に、神によっていざなわれた救世主なのですから」

「元の世界に帰るにはどうしたらいいのよ?」


「世界を滅びの危機から救った暁には、必ずや元の世界に戻す事を誓いましょう」


「それじゃ、あんた等が一方的に得するだけだろ? 一方的に呼び出しておいて、それで慈善奉仕しろだなんて、そんなの虫が良すぎるだろ?」

「そうだそうだ! なんで見ず知らずの人達の為に、何の関係もない俺達が命張らなきゃなんだ!」

「皆様のご不満もごもっともであります……ですが、それ相応のお礼はさせて貰うつもりです」

「それ相応のお礼ってなんだよ?」

「この世界『ユグドラシル』を滅びの危機から救い、そして、無事に生き延びた方には元の世界に戻すだけではありません。どんな望みでも一つだけ叶えてあげましょう」


 女神は笑みを浮かべ、優しく語り掛けてくる。


「どんな願いでも……って事か」

「はい……どんな願いでもです」

「大金持ちになりたいとか……ハーレム作りたいとか、何でもか?」

「ええ……何でもです。そして皆様に授けられた天職はどれもが強力なものです。『ユグドラシル』は危険な世界ではありますが、皆様の力でしたらそれほど恐れる事はありません」

「……そうか。まあ、何にせよ。やるしかないって事か」


 クラスメイト達は女神の言葉を信じた。元の世界に戻るには他に方法がない事がひとつ。そして、どんな願いも叶えて貰えるというインセンティブを与えられた事がひとつ。そして、自分達が力を得ているという事が一つ。それにより、難なくこなせるのではないかという気持ちが湧き始めてきた。

 否定的動機が段々と減り、肯定的な動機が増え始めた。その為、クラスメイト達は皆、段々と前向きになり始めてきた。


「特に疑問がないようでしたら、そろそろ旅立って頂きたいのですが。よろしいでしょうか?」


 反応はない。沈黙だ。だが、女神はその沈黙を肯定だと捉えた。


 女神は転移魔法を放つ。その魔法により、異世界『ユグドラシル』との扉が開かれる。

 女神による事前説明(チュートリアル)は終わったのだ。


「それでは皆様の健闘と幸運を影ながら祈っております……皆様に『ユグドラシル』での幸があらん事を」


 こうして英雄として召喚された来斗達、高校生40名の異世界『ユグドラシル』での生活が本格的に始まったのである。

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