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逃げ延びたクラスメイト達(可憐視点)

「はぁ……はぁ……はぁ」


「ちっ……まさか、俺達が無様に逃げ帰る事になるなんてな」


「くそっ!」


 影沼は悔しそうに地面を殴りつけた。ただの八つ当たりである。彼等は難敵であるミスリルゴーレムから尻尾を巻いて逃げ出した。そしてやっとの事、安全な階層まで戻ってきたのである。


「あの王女様をモノに出来ると思ったのに、これじゃ台無しじゃねぇか!」


「仕方ねぇだろ……命あっての物種って言うじゃねぇか。死んだらどうしようもねぇだろ」


「それもそうだがよ……くそっ!」


「悔しいのは皆一緒だって……気、治めろよ」


「治められるかよ……意気揚々で地下迷宮(ダンジョン)の攻略に挑んだのに、攻略できずに逃げ帰るんだぞ! どの面下げて帰ればいいんだ」


「そんなプライドの問題より、三雲君をどうするかよ!」


 回復術士(ヒーラー)を天職としている可憐は怪我をしたクラスメイト達の治療をしていた。


「……三雲君、私を庇って、地下迷宮(ダンジョン)に残ったのよ!」


 心底心配している可憐とは裏腹に、他のクラスメイト達は基本的には軽薄であった。


「放っとけよ……あんな足手まとい、いなくなってせいせいすらぁ!」


「そういう……厄介払いできたと思ったらさ、別に悪い話じゃないんじゃない?」


「あんな役立たずでも北城さんを助けてくれたんだから、その点だけは感謝してるぜ。最後に役に立ったじゃん」


「ひ、酷い……そんな口ぶりはないんじゃない!? 三雲君だって別に選ばれたくてあの天職に選ばれたわけじゃないのに。皆だって、たまたま運が良かっただけなのに、どうしてそんな酷い事を平気で言えるの」


「ご、ごめん……北城さん。そんなつもりじゃなくて、俺達」


 来斗の事はどうでも良かった。だが、可憐な美少女に悲し気な顔をされると、それだけで男というのは責任を感じてしまうものだ。来斗に対しては微塵も悪いとも思っていない。


「謝るなら私じゃなくて三雲君の方よ」


「それで、どうするんだよ……三雲の奴」


 クラスメイト達は実質的なリーダー格である勇者の天職に就く、勇希の指示を仰いだ。一部の人間を除き、概ねが勇希の指示には従うようになっている。


「……三雲君の事は残念だ。別に僕は彼を戦力としてどうこう言うつもりはない。だが、せっかく危険な階層を脱出したのに、彼を救いに行く事は危険が大きい。ミイラ取りがミイラになる、という言葉もある。災難救助の際に、助けようとした者が道ずれになってしまうのはよくある事だ。それに、残念ながら彼はもう……」


 勇希の言葉は他の連中程直接的な言葉ではなかった。だが、結論としては同じだ。勇希も来斗を見捨てるつもりなのだ。それが現実的な判断だ。勇希の言葉ももっともだ。仲間の命は確かに大切だ。だが、命の値段には格差がある。そして、お荷物とされていた来斗につけられた命の値段は安い。恐らくは一番と言っていい程に。


 その来斗の命を、他の仲間の命を危険に冒してまで助けるのは割が合わない。そういう事だろう。


「そんな……」


 可憐は絶句した。


「すまない……北城さん。力になれなくて。でもわかるだろ……俺達はもうそういう世界にいるんだよ。命に対して、シビアな世界に。時には仲間だからって見捨てなきゃいけない時もある」


「三雲が教えてくれたぜ。あいつが命張ってよ。俺達は勘違いしていた、この世界がゲームか何かだと思ってた。死んでも大丈夫なんじゃないかって。ゲームの蘇生アイテムみたいなので蘇られるんじゃないか、とか。元の世界に戻れるんじゃないかって。でも、それは勘違いだった。三雲が俺達に教えてくれたよ。ありがとよ、三雲」


「気引き締めていかねーとな。三雲の分まで」


「ああっ! そうだっ! 彼の分まで頑張ろう! 俺達の力でこの『ユグドラシル』の世界を救うんだ!」


「「「おおっ!」」」


 敗戦と来斗の死をきっかけに、クラスの面々は気合を入れ直していた。彼等は来斗が生存しているという事を気にも留めていないようだ。彼らの中では既に来斗が死んだという扱いだった。死んだのが彼で良かったとすら思っている者もいるだろう。


 皆、驚く程簡単に来斗の死を割り切った。


「な……なんで、そんな簡単に割り切れるのよ」


 可憐は彼等の薄情な態度に、違和感と憤りを覚えざるを得なかった。だが、一人で地下迷宮(ダンジョン)に潜るわけにもいかない。彼女は仕方なく流され、他の面々と同じく、地上へと撤退していったのである。


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