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4.凡凡に婚約者はいない(後編)

##


「誇らしいと思っていますよ」


 タントは彼女の威圧感に気圧されることなく、平然と答えた。


「その言葉に嘘偽りはないですか?」


「逆に尋ねますが、なぜ、そんな嘘を吐く理由があるのですか?」


 タントは笑った。それは、笑顔ではなく、ため息混じりの苦笑。彼はこの愚問に心底呆れ返っていた。


「私が兄弟を嫌っているとでも思いましたか。義姉様からそのように思われていたとは心外です」


「否定はしないのですか」


「別に嫌ってはいませんよ。ただ、あまり好んでいないことも事実ですが。決して彼らを妬んで謀殺まではしませんよ。ご心配なく」


「なにもそこまで...」


先程の威圧感はどこへ言ったのか、ジュリべーナの声は弱々しくなる。


「人の嫁を捉まえて何をしている」


突如、タントの背後からアルスタの声が聞こえた。


「捉まえられたのは俺の方ですよ」


「そんなことを聞いてるんじゃない」


「どうやら義姉さんは俺が兄弟の謀殺を企んでいるという下世話な噂を気にされているそうです」


「そういうことか」


矢継ぎ早に繰り出される言葉。無駄を省いた会話。彼らの会話は何人たりとも入ることを許さぬ速度で行われた。そして、アルスタはジュリベーナに歩み寄り、そっと肩に手を置いた。


「ジュリー、()()()()()はただの噂だ。心配はいらない。.........それに、もしそれが本当だとしても()()()()()()()()()()......」


 ほんの蚊ほどの声で発せられたその言葉をタントは聞き逃さなかった。あまりにも残酷な言葉。それは暗に信頼関係の希薄さとタント自身の地位の危うさを示唆している。だが、タントは驚きもせぬし、絶望もしない。現在、宮廷内における自身の立場を再確認しただけだ。


「タント、戻っていいぞ」


 アルスタの声で思考の沼から引っ張り出される。


「では、失礼させていただきます」


 タントは足早にその場を去った。そしてこれからのことを考える。


  ##


 やはり、兄上も俺を疑っているのだろう。先ほど発言も、


  生きていても構わぬがチョロチョロ飛び回ると叩き潰すぞ蝿が


 という意味なのだろう。


 あぁ、身が震えるな。


 いつかそんな日が来ると思うと、身が震える。

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