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33.凡と魔法都市

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 高い建造物が並ぶ街並みを食い破るように大きな樹が街の中心に鎮座している。その大樹は魔祖樹(まそじゅ)と呼ばれ、このミマネロイが都であり、イスカンダルが魔法大国となっている所以でもある。


「しかし、改めて見ても違和感しかないな」


「景観に関しましては多少は仕方のないことです。この大樹はそれ以上の受益を私たちに齎していますので軽率に扱うことはできないのですよ」


 エキスパがモノクルを磨きながらボヤく。


「さて、タント殿下は都に着いたら何をされるつもりで?もし、お忍びの旅行なのでしたら、私が少々便宜を図らせて頂いてもよろしいのですが?」


「いや、実は事故に巻き込まれてこの国に来たんだ。国が俺を探しているというのもそういう理由。だから、とりあえずこの国の都にある転送陣で帰国しようかと思って賢者たちに会いに来た」


「ほう、そのような事情がありましたか。それは災難でございましたね。しかし、()()()()()()()


 エキスパは困った顔をしながら、モノクルを磨き続ける。


「この時期は()()()。皇交戦を終えた賢者たちは次の年まで外部との接触を断ちます。たとえ、他国の重要人物であったとしてもそれは変わりないでしょう」


 なんだその慣習は。この忙しい時期に引きこもり三昧とはいいご身分だな。まあ、俺もそのようなご身分なんだけど。


「じゃあ、その瞑想期が終われば会えるんだな?」


「ええ、年明けとともに彼らは新たなる年のお告げを宣告するために魔祖樹の下へ現れます。接触するとしたら、その後からでしょうね」


 がーん、だな。想定外の事態だ。都に着きさえすれば、直帰なんて他愛もないことだと思っていたが、思わぬ障害だ。まあ幸い金はある。百万ヤヌシもあれば年明けぐらいなら持つだろう。


「年明けまでもう一週間もありませんし、ぜひ、この機会に観光でもいかがです?宿なら私が手配しましょう。あ、お金に関しては心配ご無用ですよ。私、もう三回生まれ変わったとしても使い切れぬほど稼ぎましたので」


 要するに俺、ひいてはエヴンダ王国とのコネが欲しいという訳か。


「なら、よろしく頼むよ」


 これは別に俺にとっても損な話ではない。テロモンの商品は値は張るが質は確かだ。魔法においてエヴンダは世界から見てやや劣っている。騎士中心というのもあるが、やはり著名な魔法使いがいないというのが大きいだろう。テロモンの商品が多く流通するようになればそういった者も出てくるかもしれない。


「ええ!では、私の店の前で降りましょうか!」


 エキスパとタントは中心街の一角で降車した。


「大きな荷物はなさそうですので宿は後回しにして、まずは私の店を見ていきませんか?もちろん、始まりの場所にして第一号店である本店です」


「へえ、スパ爺の原点か」


 そのように言われると俄然興味が湧くな。ぜひぜひ、拝見したい。


「そうです!早速向かいましょう!」



 エキスパは意気揚々と歩き出す。タントもその後ろを追って歩いていくが、やがて大通りから道が外れ、薄暗い路地裏へと入っていくのでほんの少し足取りが重くなる。


「おや、どうされました?もしや、長旅でお疲れになりましたか?いやぁ、気が利かなくて申し訳ありませんね。もうすぐそこですから」


「いや、そういう訳ではないんだが。……本当にこんな所にあるのか?」


「はい!まあ、店と言っても工房みたいなものですから少し毛色が違うかもしれませんね」


「そういうことを言いたいんじゃなくて…「着きました!!」


 それは紛うことなき物置だった。広さからして三人も入れば窮屈になってしまうだろう。軒には打ち付けの悪い看板がぶら下がっていた。ほぼ掠れて読めないが、『商店』の文字だけ僅かに読み取れた。


「ここがまさに私たちの原点なのです」


 感傷に浸っているエキスパ。そんな姿を見てしまっては文句どころか言葉すら出ない。彼はこの路地裏で商売を始め、こうして今は大商会の頭として成り上がったのだ。その過程であった苦悩や努力を考えれば、畏敬の念を払わざるを得ない。


「中を見てもいいか?」


「もちろん!そのためにここへお連れしたのですから」


 建付けの悪い扉を押すと、鈍く軋みながら開いた。


「ん?」


 中にはフードを被った者が寛いでいた。ちょうど布が顔全体を覆う角度に居るのでその顔は見えない。だが、その膝には幼い少女がちょこんと座っていた。


「おや、どうしました?」


 家の無い家族たちだろうか。やはりどこの国もこのような問題を抱えているらしい。


「どうやら先客が居たみたいだ」


 中を覗こうとエキスパが首を伸ばすので体勢を変えようとすると、中に居たフードの奴が物凄い勢いで掴みかかってきた。まさか、不法占拠してたのがバレたからヤケになって襲ってきたのか!?


「落ち着け!別に今すぐ追い出そうって訳じゃ─「あな!誰と出ねぇ!土手コイルすか!」


「おお?」


 いきなり早口で捲し立てられても聞き取れないものは聞き取れない。一応、言語はだいぶ前に統一されてるはずだけど、この年代だと未だに旧母国語しか話せない者もいるのか。それなら仕方ない。ここはスパ爺に任せよう。


「その声!?まさか、か、か、か、」


 一瞬、視界と聴覚が乱れる。脳みそがグルンとかき混ぜられているような不快感が走り、三半規管が役割を放棄する。


「殿下ッ!?」


「あ?あぁ、少し疲れたのかもな。それで、この男はスパ爺の知り合いか?」


 どうやら、倒れてしまったらしい。地面と接吻する前に、フード男に受け止められたようで俺は今その男の胸の中に倒れ込んでいる状況。傍から見れば情けない格好だ。ほら、あの少女も汚物を見る目で俺を見ている。


「ええ、此奴は私の一番弟子かつこの第一号店を共にしたアリギアという男です」


 目を上げると、その男の顔が覗いて見えた。身体の割には細い顔をして眼鏡を掛けている。無精髭を生やしているようだが、似合っていない。それに、なんとなくムカつく顔だ。


「どうも初めまして、ですね」


 ただ、その男の瞳が悲しげに揺れているのを見て、なぜか心の中にポッカリと穴が空いてしまっているような気がした。

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