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3.凡凡に友人はいない

    

 「おはよう諸君」


 今日はタントが教室に入ると、「ああ」だの「やあ」だの挨拶がぽつぽつと返ってくる。彼が席に座ると......別に何が起こるわけでもない。人溜まりはできないが、何人かは話しかけてくる。嫌われているということはないが、彼自身が胸を張って友人と言える者がいないのも確かだ。クラスメイトと仲良く歓談などは問題なくできるし、昼食も別に1人で取ることはない。ただ、特定の誰かとつるむことがないだけだ。


 仲良く話せて食事も一緒食べる仲なら別に友人と言ってもよいのではと思うが、タントはそうは思わない。何故なら、彼らとは

所詮学内だけの仲なのであるから。休みの日に一緒に街へ遊びに行くなんてことはないし、学園以外での付き合いは皆無だ。そう考えるとタントがただのクラスメイトと割りきってしまうのはおかしくない。


 また、その事に関して、タントは苦に思っていない。もちろん、寂しいと思った夜もある。しかし、慣れとは怖いものでいつの間にかそれが正常な関係になってしまった。自分は王族だからという免罪符(いいわけ)が彼の中で染み付いてしまったゆえに。


 ならば、()()()()()()()()()()()()()もちろん、たくさんの友人を持っている。それも、国外問わずに。それをタントは知っている。だが、タントは思うのだ。それは彼らが特別な才能を持っているから物珍しさに寄っているだけに過ぎないと。いずれ、立ちはだかる闇と一緒に立ち向かえるという特別的な優越感に浸るために利用されているに過ぎないと。その感覚は苦痛でさえも快感に変え、理不尽な困難も試練と思い込める。なんとおめでたい英雄劇だろう。確かにタントもそれに憧れていた時期もあった。しかし、現実というものは明確に残酷にタントに世界を映した。


「殿下、今日は私たちと食事を取りませんか?」


「いいぞ」


 時刻は昼休憩となり、タントは前の席の者たちに食事を誘われる。学園の食堂は常に開放されており、いつでも自由に食事ができる。タント達が食堂に着くと、すでに混んでいた。それは食堂がすごく繁盛している、ということではなく別に理由があった。


「ディーンがいるのか」


 それは同じ学園に通っている弟によって作られている人混みであった。


「しかし、迷惑ですね。こう俗慮的といいますか。もう少し大人しく、殿下のように謙虚に振舞えぬものですかね。ね、殿下?」


 クラスメイトの一人である伯爵子息がタントに話しかけてきた。「確かに」「そうだ」と他の取り巻きたちも声を挙げる。


「まあそう言わずに許してやってくれ、これでも俺の弟なんだ」


「し、失礼しました!失言でした!」


 しまった!と言わんばかりにその子息たちは頭を下げる。


「そんなに頭を下げなくていいだろ。別に怒ってはいない」


 しかし、その声はひどく無機質で冷たい。


「兄上」


 ディーンもタントの存在に気づいたようで、話しかけてきた。


「食事はもういいのか、ディーン」


 ディーンはタントの質問に答えずに


「付き合う人間は考えたほうがいいですよ。兄上でもさすがにそれくらいのことは判るでしょう」


「な!?」


 驚きの声を上げたのはタントの取り巻きたちである。


「しかし、それでも王子が一人ぼっちなんて恰好がつかないだろう?」


 タントが自嘲気に笑いかけるとディーンは何も言わずに去っていった。


 「己の兄に向かってなんて態度だ」「しかも友人である我らに対してなんて無礼なことを!」


 ディーンの姿をしっかり見送った後、堰を切ったように取り巻きたちが騒ぎ出す。その後の食事もディーンに対する悪口で盛り上がったが、タントは一言も発することなく黙々と食事を取った。

 

 



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